8.準備
「ただいま〜帰ったわよ〜」
ハッと目が覚める。いつの間にか寝てしまったらしい。やるべきことはやり終えているので別に悪いことではないのだが、まだ居候という立場に負い目か何かを感じてしまっているのだろう。
「リュカちゃんおかえり〜」
布団から身体を起こしながら応える。口調の方はだいぶ慣れてきたのか自然となっているとは自分でも思う。部屋を出て彼女を出迎える。
一人暮らしにしては少し大きい家なため2人で暮らしても余裕のある広さはありがたい。
「見て!ようやく手続きが完了したわ。やっぱり姉妹って設定は正しかったのよ。思ってた程に手間取らなかったわ。」
帰ってきて早々に巻いてある紙を手に持ち見せつけてくる。姉妹の提案をしたのはシーザーであるため彼女がどうこう言うのには違和感があるが自分のために動いてくれてた手前それを口に出すことはない。
「ユニオンの登録証と国家間通行証にギルドカード、これだけ揃えればしばらくは大丈夫でしょ」
「ありがとうね。当の私がいなくて不便じゃなかった?」
「問題なかったわよ。これでも私この国じゃ少しは名の知れた魔術師なんだから。人見知りな姉のためって言えばどうとでもなるわよ。」
今日はやけに機嫌が良さそうである。大したことないとは言いつつも数日かかったのだ。一仕事終わらせた喜びがあるのだろう。
「早速だけど明日は迷宮に行くわよ。しばらく行ってなかった分しっかり稼がないと。ルクシアも準備しといてね!」
「え!?いきなりすぎない?まだ色々と知りたいことが...」
「でも寝てたんでしょ?頭で覚えるより体で慣れた方がいいに決まってるんだから!」
「それは、....」
そこを突かれてしまうと返す言葉がない。遺跡から連れ出されてからはこの世界のことを知るために勉強していた。しかしどうも家に篭って勉強だけするっていうことに嫌気が差してしまう。この体の欠点なのだろう。ある程度のことはわかったとはいえ外の世界は不安要素が多すぎると感じる。
「わかったわよ...」
とはいえ渋々承諾せざるを得なかった。彼女のいい分も正しい所があり。いずれは外に出ることは確定しているのだから。
私はルクシア・ハイルシアとして生きることになった。ルクシアという名はリュカの母が産まれてくる赤子に付けたかった名前らしい。レウルカとは父が決めた名だったためその意を汲んだとのことだ。
私たちがいるここはダウロ王国というらしい。三方向を海に囲まれた半島で、漁業と貿易で栄えている国だ。
国の中央に迷宮があり、南の海底と北の山岳地帯に2つの古代遺跡がある。
私が見つかったのは人の住まない北の遺跡から少し離れた森の中らしい。リュカ達がいうには魔獣の討伐依頼を受けていたところ、オーグが偶然破壊した崖から遺跡の跡を発見したらしい。私を存在を明らかにしないため、ユニオン等には報告はしていない。
この世には魔法が日常に存在し、個人差はあれど誰にでも扱えるらしい。世界中の大気や海洋、地中等には魔素と呼ばれる魔法の源となるものが漂い、生物はそれを体内に取り込み、消耗したら時間経過で補充する。
水や土の様に物質として発生させるもの、風の様に力の流れを与えるもの、火や電気の様な自然現象を起こすものなど様々なものがあり、扱えはするものの詳しいことは解明されていない。
また、稀にユニークと呼ばれる固有の魔法を持つ者がおり、オーグはダウロ王国でも有名なユニークとして知られている。
明日への不安からか蒼黒いチョーカーを撫でる。
家についてから改めて体を調べている際に自らの意思で自在に変形させることができることが判明したのだ。いつまでも使用人服では落ち着かないので、色々いじる内にチョーカーにする事で落ち着いた。体から一定以上離すことはできないらしい。
聞くところによればこれがリュカの腕を飲み込んだというから恐ろしい。あの時は意識がなかったに等しいため暴走していたのだろうか。
これが自分の能力なのかどうかはわからない。再び意識を失いこの身がを別人格に乗っ取られるのではないだろうか。
思うところは多々ある。しかし、あの日から、「私」の存在、生まれた意味は何なのかを知りたいと思っている。そのためには行動しなければ何も始まらないと自らに言い聞かせ、明日を待つ。
「何で何も準備してないのよ!」
「ごめ〜〜ん」
考え事に気を取られすぎてうっかりそのまま寝てしまった。リュカに急かされながら迷宮へ行くための支度を進める。
コンコンと扉が叩かれる。
「おーい行くぞー」
オーグの声が聞こえる。どうやらもう待ち合わせの時間になってしまったようだ。
「本当にもうすぐだからもうちょっとだけ待って〜!」
「もう、ちゃんと言ったのに!焦ってもしょうがないんだからちゃんとしてよね。」
リュカが扉を開け、彼らを迎え入れる。あたふたしている姿を見られ、オーグに軽く笑われてしまった。
「これは...、初めてならこんなものさ」
シーザーがフォローが逆にキツかった。