7.対話(弍)
「なるほど。となるとその身体は君のであって君では無い。2つの存在が共有していると考えられる。ヒトの身体を持つオートマタと今の君、は同時に表には出れないのだろう。そして未知の能力が使えるが君はそれを知らない。」
彼女について簡単に推察できることをまとめる。
「で、この後どうすんだ? こんなのユニオンに報告したところで信じてもらえないぞ。」
「そうよね。私が資料で見たオートマタは一眼で人工物と分かるものだったわ。でも彼女はどう見てもヒトよ。こんな話は聞いたことないわ。」
「古団は間違いなく調査対象として依頼してくるだろうよ。オートマタと知れば傭兵部が、再生術を知れば魔科学も欲しがるだろうな。そもそも国が買取りに動くかも知れねぇ。」
彼らの言う通りのことが可能性として考えられる。各々が彼女のこれからの扱いについて議論する。
ユニオンとは世界中にある統合組織である。迷宮攻略ギルド、古代文明調査団体、商業コミュニティ、産業組合、魔法科学研究学会、傭兵部、職人連合などといった多くの組織によって構成されている。
これらの組織が繋がることで世界中の情報、物流、依頼が円滑に進んでいるのである。
それぞれが独自の本部拠点や人材を抱え込んでいるものの、制約なしにどの組織にも関われるユニオン所属者は広く一般的なものである。
「あの、私はこれからどうすればいいのでしょうか?」
彼女が小さく手を挙げながら不安そうに尋ねる。
話し合いがまとまらないためにオーグはう〜んと首を傾げ、リュカは頬を掻く。
「私から提案させてくれ。現状君をユニオンに連れていくことは無しだ。私たちにもそれぞれ成し遂げたいことがある。そのために協力してくれないだろうか。もちろんタダとは言わない。君がこれから外で生きていくためにもあらゆる協力は惜しまない。私たちには君が必要なのだ。」
その提案にオーグが反論する。
「いきなりすぎやしないか? 俺はまだ彼女を信用しきれない。人柄についてじゃなくて制御面での話だ。悪意がなかろうと中身が入れ替わって急に襲いかかってくることだってあり得なくはないだろ。安全性の確認のためにも最低限の調査は必要だ。」
「待って。」
今度はリュカが遮る。
「シーザーのいう通り彼女をどこかに差し出すのはダメよ。多分世界で初めての発見、そのままお金か別の何かで無理やり取引される可能性が高いわ。」
そこにシーザーが続く。
「その通りだ。そして安全面についてだがこれは気正直俺の希望的な予測だが... 今の彼女には能力があろうと使いこなせはしないだろう。入れ替わったとしてもリュカの腕を修復したということは少なくともリュカに危害を加えるつもりはないはずだ。あの痣についても結局は外傷を与えることは無かった。」
多少無理やりではあるがオーグを説得を試みる。
2人が彼女の差し出しに否定的なこともあって仕方なしに折れる。
「分ぁったよ。でもよ、じゃあどうするんだ?俺らで匿うのか?」
「そのことについてだがリュカに一任しようと考えている。」
「えっ?何で私なのよ。」
まさか自分に矛先が向かうとは思わなかったのか驚きの声を上げる。
「やはり彼女が女性だとというのがまず挙げられる。私とオーグは末端とは言え貴族の生まれ。婚約前に見ず知らずの女性を同じ屋根の下に住まわせるのは家が許してくれないだろう。リュカの家なら私たちのすぐ近くだし都合がいい。それに彼女と君は恐らく何かしらで繋がっている。君のことを契約者と言っていたことからも間違いないだろう。何より彼女は君に似ている。いきなりよそ者が住み着くよりも一人暮らしの君の元に姉が来たと言った方が周りの住民も親しみやすく彼女にとってもプラスになるはずだ。」
それっぽい理由を並べる。
そう言われると確かにその通りだと感じるし上手く反論する材料も思いつかない。別に嫌だというわけでもないことが決め手となり承諾する。
「じゃあいいわよ。私のとこで面倒を見るわ。私の方が妹っていうのは納得してないんだけどね。」
「いやそれは体つきからして無理がッ?!」
オーグの失礼な発言を頭を叩いて制する。
実際背は彼女の方が頭一つ分ほど高く、出るところも出て大人な印象だ。ただそれはリュカの成長が乏しいことも影響しているのかもしれない。
「あの、よろしくお願いします。これからお世話になります。」
頭を下げてそのことを自らも受け入れる。
「ずっとその口調だとこっちが疲れるわね。これからは姉妹として振る舞うんだからもっと親しみを持って砕けた話し方でお願いするわ。よろしくね。」
スッと手を差し出して握手を求める。それに反応して彼女も手を差し出す。
「あ、うん。よろしく...ね?」
2人で悪手をし、これで話し合いは一旦まとまったと思われたが、
「んでこれから君のことをなんて呼べばいいのかな? いつまでも彼女とか君とか言ってらんないよ。」
オーグが新しく話を持ち出す。
それについて彼女も首を捻って考え込み、
「う〜ん。皆さんの好きに呼んでもらっていいです。じゃなくていいよ?」
と彼らに主導権を渡す。
それについてリュカが「ハイッ!」と手を挙げ、注目を集める。
「せっかく私のお姉ちゃんになるんだし私に決めさせて。実はもう決めてはいるのよ。」
いつの間に考えていたのかは分からないがそのことに誰もが異論はなく、彼女の発表を待つ。
「これからあなたの名前はーーーー」