6.対話(壱)
結局男2人で清掃することとなった。
そのことにリュカは思うことがあるが今は汚れた身を綺麗にすることが先決だと言い聞かせる。
部屋の隅に移動し物陰に隠れる。意識すれば感じる下半身の不快感。下着は濡れて引っ付き、お気に入りのローブも僅かに水が滴る。股から流れたそれは靴にも入り込み冷えた感触を足先に感じる。
結局全ての衣服に浸透してしまったため諦めて手早く脱ぎ捨て全裸になる。幾らかれらを信用しているとはいえ、同じ空間で無防備な姿を晒すのには抵抗がある。流石に覗いてくることはないと思うが...
右手を突き出し唱える。
「ウォッシュ」
延長線上に半身大の水球が浮かび上がる。指先を脱ぎ捨てた衣服に向けクイっと上に振る。水球はその動きに従い衣服を飲み込み、それごと宙へ浮かぶ。高速で中身のが回転しだし、応急的な洗濯をする。
それと同時に左手をヘソ当たりに当て、
「ウォッシュ」
同じ魔法を唱える。しかし今度は首下までが薄い水の膜に包み込まれた。全身を水流が巡り体の汚れを洗い流す。
ものの数分で体と衣服を洗い終わる。水球と水の膜は水だけが分離され、少し離れて届かない隅にビチャっと捨てられた。
「ウィンド・ドライ」
続けざまに次の魔法を唱える。熱風がが吹上げ、宙を回転しながら衣服を乾燥させる。先ほどと同様自らにも唱え、体も乾燥させる。
一通りの作業をこなして衣服を持ち上げる。クンクンと鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。
「とりあえず大丈夫そうね」
洗濯とはいえど洗剤も何も用いてないため年頃の乙女には臭いが残っているかどうかは重要なことである。そして再び衣装を見に纏い処理を完了させた。
その一連の動作を同じく部屋の隅にいたもう1人の少女が眺めていたことに気付いた。
「な、何よ...」
匂いを嗅いでいたところを見られたのであれば少し恥ずかしい、が彼女はそんなことを気にしている感じではなさそうだ。
「あっ、ごめんね。私も足を拭こうかと思って...」
そういえば彼女も尿液の被害者?だったことを思い出す。
正体不明のヤバそうな女という認識ではあるが流石にこの件に関しては無視はできない。
「私が洗ってあげるわよ... ウォッシュ」
「わっ!」
彼女の足元が水の膜に覆われ洗浄される。後は同じ様に乾燥させ、作業を終わらせた。
「ありがとうございます。魔法?使えるんですね」
「え?まあそうね。これでも魔法使いだから。」
まるで魔法を見たことがないかの様な反応だ。先程この腕を再生させたのは魔法ではないのか?と疑問に思う。
「魔法見たことないの?」
彼女に直接尋ねてみる。
「魔法の概念はなんか知っているのだけど、見るのは初めてかも...」
彼女の答えはよくわからないものだ。概念は知っているとはどういうことだろう。まして見たことが無いというのも疑わしい。この世界ではあらゆる日常生活において広く一般的に魔法が用いられる。それを見たことが無いとなると世界から隔絶されてたということで正しいのだろうか。
実際彼女を発見した時は古代のオートマタだと思った。
かつての古代文明の産物で不思議な力を有する人工の兵器。発見した考古学者はそれを法外な価格で軍に売りつけ、東の帝国はその力を有してからは戦争においても無類の強さを誇っていたという、がそれも10年前までの話...
何にしても彼女はみたところはっきりとした意思がある。初めの話し方は確かに機械的ではあったが今は違う。
「とりあえずみんなの所に戻りましょう」
1人で考えていてもしょうがないので全員で話し合うためにも戻ることを提案した。
「さて、まずは私たちの紹介をしよう。先ほども言ったがシーザー・メナ・ライボルトだ。見ての通り剣士だ。よろしく頼む。」
4人で集まり円を作って話し合いを始める。各々の自己紹介の流れをシーザーが作り、皆がそれに続く。
「オーガスト・フロル・ライボルト。シーザーとは義兄弟で皆は俺のことをオーグと呼んでいるんだ。最強の戦士になるのが俺の夢! よろしくな。」
いつも通りなフランクな感じでオーグが挨拶を済ませる。
「レウルカ・ハイルシアよ。2人と違ってただの平民。パーティでは魔法使いをしているわ。その、よろしくね。」
一通り3人の自己紹介が簡潔になされる。
「君のことを教えてもらってもいいか?」
シーザーが彼女の発言を促した。
「私は......、分からないです。名前も自分が何者なのかも。ずっと眠ってた?感じで... 」
意識が発現してからのありのままの出来事を話す。
そのことを3人はただ黙って聞く。
「誰かが近づいてきてるのは何となくわかったんですけど自分の意思で体が動かせなかったんです。レウルカさんが腕を切り落とされた時に初めて目覚めました。でもそれも一瞬でまた眠ってしまって、次に目覚めた時には女の身体になってて皆さんと対峙してました。」
ここで浮かんだ疑問を代表してシーザーが尋ねる。
「いくつか質問をさせてくれ。君は人間なのか?リュカの腕を治した記憶はあるのか?女の身体になったとは元は男ということか?リュカに似ている自覚はあるのか?答えてもらいたい。」
拒む理由もないのでその全てに答えていく。
「人間...です。少なくとも私はそう思ってます。レウルカさんの腕...確かに元に戻ってますね。自分のことで一杯一杯で気が付きませんでした。あと元男というわけでは無いです。なんて言えばいいか分からないんですけど一瞬目覚めた時は性別がなくて、目覚めたらこの通りでした。似ているというのは今知りました。まだ自分の顔を見たことが無いので...」
少しずつ彼女の情報が明らかになっていく。
出会ってからのことを一通り話し終わったあたりで彼女についてどう扱えばいいか次の話に移る。