5.状況整理
「私、女になったの?」
思わず声に出してしまった。
意識を取り戻したかと思えば今度は身体の構成が変化していた。白くきめ細やかな肌、伸びた艶やかな淡い赤髪、視線を下げれば程よく育った果実が服の下からその存在を主張する。
これだけの要素があれば自らの性別が女性であることは疑いようが無い。
(えぇ〜いきなりすぎるよ...)
この変化に動揺を隠せない。別にショックなわけでは無い。
元々性別が無くどっちつかずだったのがちゃんと定まっただけマシである。ただ、選べるのであれば考える時間が欲しかったと言うだけの話だ。
(ってかめっちゃナイフ向けられてるじゃん!怖っ!カプセルも無くなってるし普通に私ピンチなのでは...?)
彼らに視線を戻すと状況が芳しく無いこと気付く。動揺を表情に出さないよう何とか平静を装い脳をフル回転させる。どうすればこの状況を打破できるのか突破口を探し出さねばならない。
(やばいやばいやばい... 普通にビビって漏れそう。女の体ってどうやって我慢するのかしら?ってそうじゃなくて、え〜っと...)
どうでもいいことばかりが頭をよぎる。脳内でも無意識のうちに思考が女らしくなっているがそれは気付かない。それは次第に体にも影響を及ぼし、平静を装った顔は崩れ始め、両手は腰元で衣装をキュッと握り、勝手にモジモジと股を擦らせる。
「あ、あの、私違うんです。その、なんて言うか私にも何が何だか分からなくて... 敵対する気はないんです!危なく無いです!信じてください!」
考えるよりも先に口が動いてしまった。怖くて仕方なかったのだ。これだけ言われたところで信じられるわけが無いことは冷静じゃなくても分かる。中身も無ければ嘘も混じってる。実際危ない目に遭わせたのは事実だ。自らの意思では無かったがそんなことは彼らは知るわけもないが...
彼女の震えが止んだと同時に彼女から発せられていたオーラのようなものが消えた。先程まで絶対的強者の雰囲気を漂わせていたものがただの小娘にしか感じられない。
キョロキョロと視線を動かしこちらに向き直ったかと思えば数秒でモジモジし始め、
「〜信じてください!」
流石に呆気に取られる。本当にただの少女にしか見えないのだ。積み重ねてきた経験から敵意がないことが分かる。普通なら敵を目の前にしてあり得ないがシーザーは振り向いて2人を見る。
オーグもリュカも首を横に振る。信じるな...ということではなく理解できないという意味だろう。
再び彼女に向き直る。
「私はシーザー・メナ・ライボルト。話し合いがしたい。了承してくれるか?」
今の彼女は話し合いが通じそうだと判断する。彼女の様子を伺うに彼女にも何らかの事情があるのだろう。
パァっと彼女の表情が明るくなり、
「お願いします!」
と前のめりになって言う。
こちらに来ようと足を一歩前に踏み出し、ぴちゃっと音が鳴る。
「えっ?何これ...」
先程までリュカがいたその場が濡れていることに気付かず踏み込んでしまった。
張り詰めた空気が緩んだことで気の回らなかった感情が徐々に昇ってくる。発生源のリュカはみるみる赤面し、恥ずかしさと気まずさに耐えきれず押し殺した声を捻り出す。
「見なかったことにして...」
股を抑える彼女を見て、いつのまにか手にタオルを持ったオーグが、
「先に処理をしてからにしよ」
と清掃の支度を始めていた。