4.何者
皆が息を呑む。
突如として姿を変えた中身に釘付けになる。
それまでの中性顔はリュカの顔立ちに似通い、体は丸みを帯びたことで女性らしさが増し、それでいて締まるところはキュッした姿は美しさを越え、神々しい印象を与える。
白い髪が光の粒を撒き散らし、風が噴き上げているかのように宙を流れる。徐々に伸び、整った双丘を隠したあたりで落ち着く。頭頂部か水が広がるように、全体へ流れ落ちるようにして淡い赤色へと髪色が変わる。
カプセルが熱で溶かされるかの如く歪み、間を置いて一瞬で彼女?へと張り付く。
それは痣の色へと変色し、貴族の従者が着こなす使用人服を思わせる衣装となり彼女を包んだ。
一連の出来事に3人は反応できずにいる。夢でも見ているのではないかと錯覚するレベルの事態に脳が追いつかない。
彼女は目を開いたかと思うと流暢に話し始めた。
「発芽のための養分を確認しました。レウルカ・ハイルシア様の個体情報がインストールされました。初の情報体となるレウルカ様の個体情報をベースに生命プログラムを作成しました。レウルカ様を契約者としてコアに刻印。レウルカ様の部位欠損を確認しました。融合体による修復を行います。」
表情に一切の変化が無い。機械のようにただ言葉を発する。
続けて行動に移そうとする彼女はその場に屈み、膝立ちのリュカの腕に手を伸ばす。
「待て!お前は何者だ?」
危うく静観し続けるところだったシーザーが我に帰り尋ねる。その手にはリュカの腕を切り落としたナイフが握られており、強い警戒心が見てとれる。
遅れてオーグも武器を取り出し、戦闘の構えをとる。
「あなた方が彼女を思うのであれば私を信じなさい。危害を加えることはありません。」
一瞥もくれずにただそう告げる彼女の迫力に気圧される。
2人が脅威とならないとでも言っているかのような、圧倒的な格の違いが肌に突き刺さって感じられる。
彼女はそのままリュカに触れる。断面を覆うようにして手で包んだかと思うと、スライムを思わせる粘液へと手先が変形した。
接続部が脈動し蠢く。
「あっ...きてる....」
何かを感じ取ったリュカが声を漏らす。
ゆっくりと引き離される端からは切り落とされた先が復元されているのが覗いて見える。
そして1分もたたなずして腕は完全に修復された。傷跡一つないそれは誰が見ても欠損していたことなんて信じられないだろう。世界中の治癒魔法や回復ポーションを持ってしてもここまで見事に再生できるなんて話は聞いたことがない。
腕が戻ったリュカはまじまじとり両腕を見つめ、続いて彼女を見る。
「ありがとう...あなたは何者なの?」
感謝を伝えるも元を辿れば原因は彼女にあるためそれが正しいのかは分からない。治してもらったとはいえ正体が明らかでない以上、信用することはできない。彼女の対応次第ではここから交戦する可能性だって考慮しなければならない。
「私は...オ......ン。レ...ルカ様...契約...。星の導き...した...望み...叶え...え...」
ボリュームが下がり、所々が掠れて上手く聞き取れない。彼女の様子がおかい。流暢に話していたのが嘘のように、糸が切れたかの如く鈍くなる。体がカタカタと震え、先程までとのギャップに恐怖する。
オーグがリュカを抱きかかえ、彼女から遠ざける。シーザーが間に入り、リュカを庇う陣形をとる。
シーザーも自らが震えを抑えることができない。ここに来てから衝撃の連続で精神が今にも擦り切れそうな上、勝ち目の見えない化け物と対峙すれば仕方のないことだ。
彼女の震えが止まる。自らの体を見渡し、尋ねる。
「私、女になったの?」