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2.初めての視界

「ウソだろ...」


オーグは自らの投擲が全く効かなかったことに驚愕した。自らが異常とも言える攻撃力を有していることは今までの経験から分かっていた上、評価され続けてきた実力から戦い方次第では国内最高戦力を有していると自負していた。それだけに、ノーダメージという結果を目の当たりにしてなお簡単に受け入れることができない。


「チッ...これもダメか」


オーグの攻撃が効かなかったことに驚きながらも、リュカの腕に幾つかの処置を施すがどれも効果がない。常に落ち着いて判断できるのが強みだと思っていたシーザーもどう対処すればいいか見当もつかない事態に戸惑いを隠せない。


痣はリュカの肘下まで伸びている。最悪の事態を予想し、シーザーは悲しそうな表情を作り、腰のナイフに手を伸ばす。


「何しようとしてるのっ!」


取り出したナイフをリュカの腕の上で持ち、目を大きく見開き汗を垂らすシーザー。それをヒステリーを起こしたかのような甲高い声を上げ、リュカが騒ぎ喚く。その瞳からは大粒の涙がとめどなく溢れ、鼻や口からも出てはいけない液体が顔面を伝っている。


「本気なの?兄さん...」


オーグもその様子を黙って見ておくことができず声をかける。初めてシーザーに敬語を使ったのではないだろうか。さっきの攻撃の件もあり困惑しているのはこの場の全員同じだろう。


「今ここで腕を切り落とさなかったら全身が侵食されて死ぬかもしれない。肘下ならまだ義手でどうにかできる余地があるがこれ以上時間が経てば痣は腕全体を覆うかもしれない。この痣の正体が何かわからない以上、これから生きていくことを考えたら今しかないんだ!」


目が血走りながらもリュカのためを思うシーザーにオーグは何も言い返せない。頭を回転させどうにか違う手段を模索するも何も思いつかない。本当にそれでいいのだろうかと俯く。その間にも「いくぞ!」とシーザーは手を振り上げる。


「イ゛ャァアア!!!ヤメロッ!ヤメロォ!」


その可愛らしい見た目と普段の言動から想像もつかないような姿のリュカに2人は同情することしかできない。


(すまない...)と思いながらも意を決し、リュカの肘にナイフを振り下ろす。

日常から手入れを欠かさないそのナイフは素材の良さとシーザーの技量からか殆ど音もなくスッと腕を通る。一瞬の間が空き、切り離された肘先とリュカに繋がる腕半分が重力に従い垂れる。手のひらから肘下までがカプセルに張り付く。


リュカは状況が飲み込めないのか先程まで自らの一部だったものを凝視し、ゆっくりと視線を自らの体に向け、半分しかない腕を確認し、膝から崩れ落ちる。

さまざまな感情が濁流のように押し寄せ、どんな表情をしているのか自分でも想像がつかない。


「ハハッ、アハハ、フハッ...ア゛ァァアアア!!!」


発狂してその場で叫び出す。オーグもシーザーもただそれを見守ることしかできない。どう声をかければいいかも分からない。

ただ、シーザーは気付く。この異様な光景に。あり得ない現象が起きていることに脳を活性化させ、何が起きているのか分析を試みる。


(どうして血が一滴も流れない...!)




カプセルの中から外の状況の悲惨さが伝わる。リュカという少女が自らを閉じ込めるカプセルに触れてしまったがために異常事態が発生したようだ。オーグの強烈な一撃に驚きはしたもののどうやら傷つけられる心配はないとこがわかった。

自らの身の安全にホッとするのも束の間、瞼と思われるところが急に震え出し、少しずつ広がる光を感じ取る。今意識を持ってから初めて視覚を手に入れたのだ。


思わぬ出来事に感動していると少しずつピントが合いはじめる。(ピンチの彼らが最初の景色か...)と思うと不思議な感覚に陥る。

そして、ようやく目に飛び込んできたのはペタッという擬音が似合いそうな切り離され、カプセルに張り付いた手だった。

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