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第9話 賢者アンバスによって語られる紋章の謎

「ここだな」


 陽が傾き始めた頃、僕たちは賢者アンバスの家へと辿り着いた。


 一見すると普通の山小屋のようでもあったが、何か術式が施されているのだろう。

その家の周りだけ木々が不自然に避けて開けた場所になっていた。


 それに、対モンスターの結界も張られているようで、ここが賢者の住処であることが窺える。


「おーい、賢者ー。いるかー」

「ちょっとナル、いきなり入っちゃ失礼ッスよ」

「へーきへーき。……あー!」

 ナルが扉を開けると、そこにあった光景に全員が身構える。


「モンスターッ!」

 小屋の中で人が泥人形に組み伏せられていた。

 僕たちの姿を認めると、泥人形は無機質な表情をこちらに向けてくる。


「っぐ、あ……」

 うつ伏せに抑えつけられた人が苦しそうな呻き声をあげた。


「アンバスさんですか!? 今助けます!」

「で、でも迂闊に手は出せないッスよ!」


 泥人形は手を変形させて首にまとわりつき、締め上げようとしていた。


 コイツ、人質を取ったつもりか!

 確かにこれでは安易に攻撃できない。


 そう思ったが、僕はそこで違和感を覚える。


 小屋の外に張ってあった対モンスター用の結界。

 そして、抑えつけられている人の、あの右手……。


 ――そうか、そういうことか。


 僕は右手の甲に浮かぶスキルを一瞥し、


===========

・命中率上昇(範囲中)

・スキルブレイク

===========


 その中から一つを選ぶ。


「リ、リジル様?」

「リジルさん、攻撃したらその人が……」

 僕が剣を構えて泥人形に歩み寄ると、ルアとドゥーベが不安の声をあげる。


 ――大丈夫。


「ハァッ!」


 僕は【スキルブレイク】を使用し、泥人形に素早くショートソードを突き入れる。

 剣が飲み込まれると、泥人形は音もなく霧散し、跡形もなく消え去った。


「だ、大丈夫ッスか!? その人」

 ドゥーベが慌てて駆け寄ってくる。


「無事、ですよね? アンバスさん」

 僕が倒れた人に声をかけると、その人はムクリと起き上がり、


「クックック。何で分かった?」

 怪しげな笑みを浮かべて言いながら、椅子に腰掛ける。


「えー、どういうこと!?」


 ナルが驚きの声をあげるのも無理はないだろう。

 先程まで抑えつけられていたアンバスは無傷で平然とした顔をしているのだ。


 賢者アンバスと言えば百歳をゆうに超えているはずなのに、その体躯や顔立ちは幼く、少女のようだった。

 それでいて、大きめの三角帽子の奥からは妖艶な表情が覗き、とらえどころがない印象を受ける。


「小屋の外には強力な対モンスター用の結界が張られていました。賢者アンバスが張るほどの結界が、泥人形のようなモンスターの侵入を許すとは思えません。入口の扉なども壊された形跡がありませんでしたし」

「ふむふむ」


「あと、今日のようなよく晴れた日に泥人形は活動できないはずです。それに何より――」

 アンバスは面白い話を聞くかのように笑みを浮かべながら頷いている。


「アンバスさんの右手の紋章が光っていて、スキルを使ってるんだって分かりました。回復系のスキルも、防御系のスキルも発動してる様子はありませんでしたから、泥人形を動かしていたんじゃないかな、と」


 そこまで言うと、アンバスはパチンと膝を叩き、満足いったかのような表情を浮かべた。


「ご名答! ニイちゃんの言う通り、泥人形を操っていたのはオレさ。ヒントも出してたが、あんなに早く見抜かれるとはな。普通ならそっちのハゲみたいに躊躇するもんだ」

「初対面でハゲはひどいッス……」


「じゃあ全部演技だったってこと!? はるばる歩いてきたのに失礼でしょー!」

「おや、獣人を連れてるなんてますますおもしれぇ。悪かったな、おチビちゃん」

「なにおう? そっちだってチビじゃないか!」


 ナルが獣耳と尻尾の毛を逆立たせて抗議するが、アンバスは意に介さない様子でくつくつと笑っている。


「でも、確かにナルちゃんの言う通り、賢者アンバス様とはいえお戯れが過ぎるのでは? 泥人形がリジル様を襲ってたりしたら……」

「そーだそーだ! ルアお姉ちゃんの言うとーり!」


「安心しろ、そんな命令は出しちゃいねえよ。村長のブライが寄越したのがどんな奴なのか、ちょっと試してみたかっただけだ。……ってか、何だ? 嬢ちゃんはニイちゃんの女か? そのニイちゃん、泥人形を見た時、真っ先に嬢ちゃんを守ろうとしてたぞ」


「え、えと、私はリジル様の侍女で、その……」

「あー、そういう感じね。はいはい、ご馳走さま」


 アンバスは上手く話題を変えたようだった。


 ルアは顔を赤くしてしどろもどろになっていて、何だか僕まで恥ずかしくなってくる。


 アンバスはやれやれといった感じで椅子から立ち上がると、僕の方に歩み寄ってきた。


「それにしても、オレの魔力で召喚した泥人形を一撃で倒すとはな。どんな紋章の力を使ったのか興味あるぜ。見せてみろよ」


 そうだった。

 アンバスにはこの紋章と黒い石のことを聞きに来たのだ。


「ファーリス村でアンバスさんの書かれた本を見つけまして。そこにこの紋章のことが書いてあったものですから、お話を伺いたく……」

「へぇ、どれどれ。……っ!? ってお前、これっ!」


 アンバスは僕の右手を覗き込み、突然目を見開いた。


「え?」

「これ、どうやって手に入れた?」

 打って変わって慌てたアンバスの様子に、僕は驚きつつも答える。


「紋章の選定式で発現したんです。周りからは欠落紋だとか外れの紋章だとか罵られましたが」

「ハハハッ! そいつが外れの紋章だって? ああそうか、そうだよな。初期スキルを見たらそうなるか!」


「どうしたッスか? そんなに慌てて」

「バカ野郎! これが興奮せずにいられるか!」


 何だ? からかっているわけじゃないと思う、けど。


「あの、アンバスさん。どういうことなんです?」


「その紋章が外れだなんてとんでもねぇ。当たりも当たりの紋章ってことさ」

「え?」


「いやー、その紋章が発現するなんて、よっぽど鍛錬積んできたか、世界に愛されたか。いや、その両方かな」

「ええと、つまり?」


「いいか、よく聞け。その紋章の名は、【クリティカルマスター】と言う。それは――」


 アンバスは一度言葉を切って、そして言った。


「ありとあらゆる攻撃をクリティカルヒットさせる、最強の剣士の紋章さ――」


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