8:剣術の授業
さっき見たらブクマが100件突破していたので、本日2度目の投稿です。
午後の授業は、剣術と魔法実技だった。
貴族の第一の責務は領地の治安を守り、領民の安心を保障することだ。
その責務を果たしてこそ、貴族は見返りとして民から金銭や作物を税の形で接収する権利を得ることができる。
よって、王国の貴族の子弟が武技と魔法の稽古に励むことは当然だった。
王国の源流となる大陸中央部の帝国では、貴族が前線に立つことは少なくなっているらしい。
しかし、10年前までは国内の少数民族の激しい反乱に悩まされ、また北東では蛮族とも呼ばれるピラム人が略奪を目的に幾度となく押し寄せる王国では、やはり貴族の責務の本分は前線に立ち民を守ることにあるのだ。
ちなみに女生徒も剣術や槍術の授業を受けることはできるが、男子生徒とは別の科目となっている。
名称は『剣術(女子)』、『槍術(女子)』などとなっている。
これらは男子よりも稽古が易しく、また護身術としての側面が強い。敵を倒すことではなく敵から生き延びることを主眼に置いた科目だった。
閑話休題。
男子の剣術の授業はまず、一斉に剣術の「型」を反復する。
その後、二人一組に分かれて打ち合いの稽古に移る。
木刀には怪我をしないように綿が巻かれているため、生徒たちは安心して思い切り剣を振るうことができる。
綿があるため木刀や鉄剣のような小気味いい音は鳴らない。
かわりに干した布団を叩いた時のような音が演習場に幾つも響き渡る。
エレンの相手は癖毛が目立つ眼鏡をかけた細身の生徒だった。
エレンは身体を動かすことは得意だったし、好きだった。
身体の頑強さ、手足の膂力に関しては王国でも並ぶ者がいないのではないかと、密かに自負している。
武具の扱いに関しても、入学前に一通り習熟していた。
初陣は学園に入学する1年前、14歳の頃に済ませている。そこでは単騎で敵の群れに突撃して一騎当千の活躍を見せた。
「どうした? もっと激しく打ち込んで来い」
「は、はいっ!」
眼鏡の生徒は明らかに腰が引けていた。
エレンは心の内でため息を吐く。
エレンに遠慮しているのが、ありありと分かったからだ。
「………」
エレンは木刀の切っ先を地面に下げた。
「俺がお前にどんな扱いをしたのかは分からない。すまないが覚えていないんだ。だが今の俺はお前たちのことを、共にこのグリモノア学園で学ぶ仲間だと思っている。家柄の違いはあるだろうが、この学園の生徒である限り俺たちは平等だ」
エレンは再び木刀を構える。
「だからもっと強く打ってこい。そもそも綿を木刀の周りに巻いているんだ。この練習用の木刀では打撲になることすら難しいだろう。それと、仮に俺がケガをしてもお前を罰することはないと誓おう。……これで大丈夫か?」
「は、はい!!」
エレンの言葉のお陰で、眼鏡の生徒は先ほどよりも自然体でエレンに打ち込んできた。
「いいぞ! さっきよりずっといい! だが力みすぎだな!」
連撃を軽くいなしながら、エレンは言う。
「木刀の重さを生かして振るうんだ。柄が手からすっぽ抜けないよう、指に力をある程度に入れて、……そうだ。いいぞ。……お前の筋力と骨格ならばそちらの方が無理なく振るえる」
人によって体の作りは千差万別だ。
エレンならば、むしろ己の膂力を生かして力任せに振るった方が敵にとっては遥かに脅威になる。敵の着込んだ鎧をへこませながら、骨や内臓を砕くことができる。
ただ、目の前の生徒ではそんな芸当は難しいだろう。
眼鏡の生徒にあった剣術をエレンは助言していく。
「型を意識しすぎなくてもいい。本物の鉄の剣ならば、先に体の何処かにさえ当てれば、ソイツの勝利だ。血を流す傷を負って平時と同じように剣を振るえる奴なんて滅多にいない」
「は、はい!!」
そもそも戦場の武器は槍だ。
2年のこんな時期に木刀を綿でくるんだ初心者向けの稽古を行っていることからも、学園が剣術に重きを置いていないことが分かる。
剣はもっとも効果的に運用される場面と言えば、槍を携帯できない状況、例えば市街の見回りや屋内での警護などだろう。
そんな状況では、戦場と違い敵が分厚い鎧を着こんでいることなんてまずない。ならば、剣でどこを斬っても相手は重い傷を負う。鋭く深い斬撃なんて必要ない。
エレンの指導の下、わずかな時間で眼鏡の生徒は一目見てわかるくらい上達していた。これには剣術の授業を担当している教師も大いに驚いた。
「……その、ありがとうございました、エレン殿下。2学期から剣術の授業が始まりましたが、今までで一番気持ちよく剣を振るうことができたと思います! 殿下のご指導のおかげです……!」
「お前が日頃から真面目に授業を受けているからだ。習った型がちゃんと身体に染みついているのがよく分かった。授業だけでなく、空き時間にも復習をしているのだろう」
「は、はい!」
「これからも励めよ、マルコ・ヒッポメント。父君は文武に優れ魔法と剣術に秀でる勇猛な騎士だと聞いている。お前もその後を継ぐのだろう?」
「で、殿下、僕なんかの名前を……」
「クラスの奴の名前くらい知っているさ」
マルコが感激したように頬を染める。
エレンは内心で苦笑した。
(……まあ昨晩、必死になって覚えたからな。お陰でやや睡眠不足だ)
クラス全員の名前、主な経歴、家族構成などは既にエレンの頭に入っている。
「なあ、マルコ。お前魔法は得意だろうか?」
「は、はい。剣術は父の才能を継げませんでしたが、魔法ならば父の才を継いだと自負しております!」
「俺は身体を動かすのは得意だが、魔法はどうしても苦手でな。おまけに俺は皆より大幅に授業が遅れている。皆を煩わせる訳にはいかないから、先生方には俺に構わず授業を進めてくれと言ってはいるが……。もしお前さえよければ、自習時間の間、少しでいいから見てくれないだろうか」
「も、勿論ですとも!! 僕なんかで良ければ」
「そうか…! 本当にありがたい、感謝する」
「そ、そんな! 僕なんかに頭を下げないで下さい!!」
いつもありがとうございます。