7:ベアトリーチェとの昼食
区切りの問題で、今回の話は短めです。ごめんなさい。
午前の授業が終わると、昼休みの時間になる。エレンは食堂に向かった。
野菜がごろごろと入った王国伝統のホワイトソースのシチューに、玉葱とルビーフィッシュのマリネ。
豚肉にパン粉をまぶし油で揚げた帝国風のカトレット(揚げ物)。
それと灰パンを注文した。
本当に灰が入っているわけではない。使われる麦の種類により大陸中央部のパンよりも色が濃く灰のように見えることから、そう呼ばれている。
それらのメニューを注文してエレンは一人でテーブルに座った。
「相席、よろしくて?」
気取った声の主は、やはりベアトリーチェだった。今日で謹慎が開けることは、昨日聞かされていた。
「勿論だとも。だが、他の学友と一緒でなくてもいいのか? 折角の謹慎明けだろう?」
途端、ベアトリーチェの顔に陰が差した。
「わたくし、友人が少ないですから……」
悲しいカミングアウトをされた。エレンは少し考えて口を開く。
「………もしかすると、俺のせいか?」
「当たり前ですわっ!」
叫ばれた。感情の起伏の大きい子だな、とエレンは思う。
「……貴方に睨まれたお陰で、生徒の殆どはわたくしを避けるようになりましたわ。入学して1年くらいの間は、貴方は周りから多少の尊敬も集めていましたし。まぁ、第2王子と言う肩書によるものが大きいのでしょうが」
「すまなかったな」
「同情するならお金を下さいませ」
真顔で言いだすものだから、それが冗談なのか本気なのか判断がつかない。
「……ふむ」
ルードヴィヒからの助言もあり、エレンは基本的に金銭による保証は行わないことにしていた。
本人の心中がどうであれ、エレンは公では被害者の立ち位置になっている。
自由意思がない状態で犯した罪だ。
そこに罰や保障が発生する謂れもない。
また、そもそもエレン達関係者の記憶が無くなっているので、エレン達の被害にあった者を特定するのが、困難と言う理由もある。
ただ停学や入院など、第三者からも明確に分かる形での被害にはできる限り対応しようとは思っている。
だからエレンは言った。
「それは無理だな」
「何でですのっ!!!」
ブちぎれられた。ベアトリーチェは守銭奴だった。
―――この女に友達がいないのは本人の人格にも理由があるからでは?
そんな考えが頭をよぎるが、エレンは頭を小さく振って追い出す。ティアの(自称)親友だ。人格はきっと素晴らしい筈だ、恐らく。
「……まあ、それは良いのです。お陰で、同じ爪はじき者同士、ティアと友人になることができたのですから。……よくよく考えれば、そのティアは貴方のせいで学園にいられなくなったんですわ。ちっともよくありませんわね!」
「どっちなんだ。情緒を安定させてくれ」
面白い女だなとエレンは思った。異性としての魅力は欠片程度しか感じられない。だが面白い女であることは万人が同意するだろう。
「というか貴方………どれだけ食べますの」
ベアトリーチェが引いたような目でエレンの料理を見る。
「ん、シチューにマリネ、豚のカトレットにパン。4品目だけだぞ。確かに一般的な庶民の昼食に比べれば遥かに豪華だが、この学園に通う貴族たちと比べても――――」
「いえ、メニューの数の話ではありませんわ! 量の話ですわ!」
エレンの料理は一つ一つが通常の数倍のサイズだった。皿に山盛りどころか、皿に塔がそびえたっていた。その塔を胃の中に消し去りながら、エレンは言う。
「まあ、確かに人より多少胃袋が大きいかもな」
「多少……。多少?」
言葉の意味を吟味するベアトリーチェ。「ふふ」と突然小さく笑いだした。
「いえ。ティアもそういえば見かけによらず恐ろしいほどの健啖家でしたわ」
「……アイツは別に食べなくても平気らしいがな。逆に俺は常に一定量は腹に収めておかないと駄目だ。すぐに腹が鳴る。だからしっかり食べなければ。第2王子の腹が鳴っていては格好がつかないだろう。評判が下がる」
「もう下がりきっていますわ!」
「ふ、だったらもう上がるしかないな」
その後、エレンはベアトリーチェと会話しながら食事を続けた。
きっとこの食事の時間もベアトリーチェにとっては、エレンの人格を見定めるための貴重な時間なのだろう。
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