表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/49

元社畜と残っていたモノ


 部屋に大穴が開き、彼は初めからいなかったように消えた。


 自分は負けないと思っていたか、あるいは他に何かあるのかわからないが結果は一つ。


 富永健二は間違いなく死んだ。


 それが全てだ。


「これでこの世界でやることは終わりでいいんですよね」 


「元凶は死んだ。なら終わりでしょ。多分」


二人とも実に軽いがその通りだろう。


俺の場合はボス戦がイベント戦みたいになる。


相手の強さがほとんど関係ない。


「そうだな。これでゾンビはただの死体に戻るだろうよ」


あっけないがこんなもんだろ。


「一応あいつが住んでた部屋調べてみませんか。何か良くない物を持っていたかもしれません」


「よくない物ね。確かに」


リッシュの言葉に愛音は何やら察したらしい。


彼が住んでいた部屋の奥の扉を開けてみるとその理由が分かった。


「うん、そうだと思った」


中には愛音と同じ制服を着た女の子が俯いて部屋の隅に座っていた。


「リビングデッドでしょうか」


「いえ、違うわ。この部屋には最初から一人分しか生命感知センスライフに反応がなかったから死者なのは間違いないけど、フレッシュゾンビね」


初めて聞く名前が出た。


「フレッシュゾンビってのは何だい」


「えっとフレッシュゾンビとはですね。生きている死体です。心臓は動いていて傷つけば血も流れます。でも死んでいるんです」


生きているのに死んでいる。なんだそれは。


「説明するのは難しいのですが、肉体と魂は一つです。ですが何らかの方法で魂だけが失われてしまうとどうなるか。もちろん普通はそんな状態にはなりません。ですがそんな状態がフレッシュゾンビです」


何らかの方法。


闇属性魔法なら普通にありそうだ。


「あれ、この子って。まさか、鈴」


女の子の顔を覗き込んだ愛音が声を上げた。


「お知合いですか」


「私の友達。どうしてこんな」


愛音は震える手で鈴と呼んだ女の子の頬を撫でた。


「あれ、その子額に」


俺が気になったのは額に何やら魔法陣っぽいのが書かれている事だ。


「これ多分、魂簒奪ソウルスチールだ。あいつ!」


説明を求めてリッシュを見ると難しい顔をしていた。


「ああ、えっと、つまりあらかじめ肉体の魂を奪っておいて、自分が死んだらこの子の体で生き返る、と思っていただければ」


あれか。死んだら体を奪って生き続けるってやつか。


彼は死んでもこの子の体で生きかえるつもりだったと。


「だがそれは」


「はい、カイさんの魔法で死んだからには不可能です」


俺がやってよかったというわけだ。




「あとはこのパソコンだけですね」


リッシュが持ってきたノートパソコンだが非常に嫌な予感がした。


何故なら起動したパソコンのデスクトップに小説のフォルダがあったからだ。


フォルダを開くと『クラスで召喚されたけど使えないと捨てられた俺は最強の闇魔法使いになって復讐する』と書かれたテキストファイルがあった。


他にも『使えないと実家を追い出されたが実は最強でした』。


『役立たずと追放されたけど俺の支援が無いと困るのはお前らだぞ。実は最強の支援職な俺』


『ずっと修行していたらいつの間にか最強になっていた』


などがあり、もうこの時点で色々察してしまった。


恐る恐るファイルを開くと後ろから愛音とリッシュが画面をのぞき込んだ。




 俺の名はケンツ。


 俺達は異世界にクラスごと召喚された。


 けど俺をイジメている奴らにダンジョンんで穴に落とされた。


 そこで俺の闇属性魔法が強い事がわかってなんとか脱出するために探索中だ。


 地上に戻ったらあいつ等全員殺してやる。


 「グルル・・」


 「チッ厄介な奴が」


 クマかと思うような大きな狼だ。


 「ガウッ!」


 「イッテ! クッソ! うおおお!」


 ザシュ!


 「ギャウン!」


 「はあ・・はあ・・・。とどめだ! くらえダークボール!」


 ボシュン!



 「ゴブリンだ!」


 「「「ギャギャギャ!」」」」


 「シルバーウルフだ!」


 「「グルル・・・」」


 「オークだ!」


 「「プギャー!プギャー!」」




 「うん? なんだお前ケガしてるのか?」


 「わんわん!」


 「よし、これでいい」


 「きゅ~ん。わんわん」


 「ははは、こいつ」


 ワシャワシャ


 「わん! わんわん!」


 「ほら、干し肉だ」


 「わんわん!」


 「うまいか?」


 「きゅ~ん」





「おいちょっと待て!」


俺の静止を聞こえないかのように愛音はノートバソコンを掴むと迷うことなく窓から放り投げた。


「何あれ。これだからろくに本も読んだことないような奴は。あれが高校生の書いた文章とかありえないんだけど。小学生、それも低学年の作文じゃない」


「いや、言いたいことは分かるけど」


愛音の家で読んだ投稿小説サイトもあんなのばっかりだったのを考えるに、この世界はあれがスタンダードなのではないかと思ってしまう。


そして俺はローさんが言っていた事を改めて思い出した。


姉さんの世界の主人公はとにかく最強だと。


再び思い出すのは、とある宗教の集会場面。


教祖が拳を振り上げて叫ぶと信者も続いて叫ぶ奴。


「みなさあああああん!! 最強ですかあああ!!」


「「「最強でえええす!」」」


「最強!」


「「「最強!!!」」」


「最強!」


「「「最強!!!」」」


おそらく異世界召喚の時にカーナさんから力を与えられたのはと富永健二だけだ。


クラスメイト達もその時に何らかの力を得たのだろうが、女神の加護には到底及ばない。


だから彼は最強主人公だった。

 

その彼が書く小説も自分の分身たる主人公は当然最強。


そんな事を伝えると愛音は分かってるよと答えた。


「別にそれは良いよ。けど動物の鳴き声と擬音を使う時点でゴミ。なにがグルルよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ