元社畜は元凶の元へ
翌朝。達也君の話をした。
愛音は驚き喜び、そして悲しんだ。
俺はローさんから言われた事をそのまま話した。
愛音が向こうに戻らなければならない。
さもなくば世界が滅びると。
五十嵐夫婦は驚き、嘆願した。
どうにかならないかと。
しかし俺にはどうする事も出来ない。
そんなどんよりとした朝食を終えて今後の話になったわけだ。
「実は夕べ少し調べましたところ面白い事件があったようです」
リッシュが重い空気を打ち破った。
「一年ほど前にある高校で一年二組の生徒が全員消えた事件がありました。担任が教室に行くとカバンなどはそのままで生徒だけがいなくなっていたと」
何かゴソゴソしていたがネットで調べものとは。
「それならアタシも知ってるよ。神隠しとか言われてたやつでしょ」
結構有名らしいが俺は知らない。
あの頃の俺はそんな事件には目もくれてないかっただろう。
「そうです。1クラス25人全員と他数名が消えてしまったと。そして問題はここからです」
そんな人数がまとめて神隠しとか問題がありすぎるがまだ何かあるだろうか。
「彼らは三日後に突然戻ってきました。しかし彼らは三日間の記憶がなく、いなくなった時のままだったんですよ。彼らは担任の先生にどこに行っていたのかと聞かれてわけがわからなかったと」
つまり彼らはからすれば、学校に来て教室にいたらいきなり担任に三日間何処にいたのか聞かれたのか。
怪しい。これ女神様案件な気がする。
「その事件についてこんな書き込みがありました。あいつらは異世界に召喚されたんだと」
ありそうな話だ。
いや待てよ。たしか異世界の手引きにそんなネタがあったような。
黙っていたアイネがアッと声を上げた。
「大量に召喚。たしかかなり前にシグルーンで異世界から使徒をまとめて召喚した事件があったって」
あれか。たしか魔王によって滅ぼされた国がそんな名前だった気がする。
「死者浄化」
愛音がそう唱えると辺りに口笛のような音が響き渡り、空に掲げた手から光が爆発した。
数秒後、光がおさまった時にはあれ程いたゾンビが消えていた。
後には何も残っていない。
俺達のいたのは大通りで遥か先までゾンビどもで埋め尽くされえていたのにである。
「これが本物の聖女と女神の笛の力ですか」
偽物がいるかのような言い方だ。
「そうだよ。笛は音と風を操り聖女の力を拡大出来る」
死者浄化の魔法はリッシュが全力で使っても精々十メートル程との事。
それをここまでとなるともはや別物だ。
大事なのは薄く延ばすのではなく拡大と言う事だ。
単体回復魔法を範囲回復に。
範囲回復を広範囲回復に。
遠くに単体回復魔法を飛ばすことも出来る。
穢れを払う力もだ。
勇者パーティーにおいて聖女の役割は回復と支援。
それを考えればこれ以上ない力だろう。
「で、このマンションなんだよね」
「大きいですね。何階建てでしょうか」
「六十階建てらしい」
見上げるのは新築の高層マンション。
住むとなると一体いくらするんだろうか。
「生命探知に反応があるけどずっと上の方だよ」
「どうせ最上階ですよ。この手の輩は上が好きなんです」
電気が止まればエレベーターも動かなくなるのに上層階か。
いや太陽光発電があるか。
一時期とある政党が自分達の利権のために推し進めていたな。
余った電気が売れるとか、何年で元が取れるとか。
だが騙されてはいけない。
実際は耐久力が問題で、修理や維持費などを加えれば元など取れない。
あの政党は本当にこの国の敵だ。
それが政権を取ったのだからさあ大変。
土下座外交に外国人優遇。
公約は守らず国益を損なう政策。
この国にとって何一つ良い事などせず連中の政権はのちに悪夢とまで言われた。
そのためあっという間に連中の政権は終わった。
だが連中の政策は負の遺産となり後々まで人々を苦しめた。
そのくせ自分達がした事を現政権に対してどうしてやったのかという始末。
頭がおかしい。
自分達が何を言って何をしたのかさえを憶えていない。
あんな連中に票を入れた事を日本人は後悔した。
しかし連中が馬鹿な事をすればするほど営業活動では話の種にはなったものだ。
世の中が不安定になれば金が動くからだ。
「しかしスッキリしましたね。においも血の跡もきれいさっぱりなくなるとは流石です。どっかの性女様も見習ってほしいものです」
入り口はゾンビで埋め尽くされていたが愛音の一撃で一掃された。
「では突入ですね。理性的な方だと良いのですが」
「どうかな。こんな状況を楽しんでると思うよ」
「出来れば話し合いで何とかしたいがね」
おそらくこの騒ぎの元凶。
どんな人間なのか大体の想像はついている。
異世界の手引き曰く。
クラスまとめて召喚が行われた場合必ずイジメている奴とイジメられている奴がいる。
イジメている連中は勇者だったり剣聖だったりと強力な力が与えられる。対してイジメられている奴に与えられるのは嫌われている闇属性魔法や一般に役立たずと言われている力。
あるいはゴミスキルと呼ばれているものだったりでひどい扱いを受ける。
でも実は最強です。
最強!最強!最強!
とにかく最強!
そしててイジメていた奴に復讐する。
思わずため息が出た。
つまりそういう事なんだろう。




