元社畜は精神をやられる
ガサガサ・・・
「グギャ」「グギャ}
「「ギャギャ!!」」
「チッゴブリンか」
ゴミ。
本当にゴミ。
この時点で読む価値なし。
次
コツコツ・・パリン
「キュルキュル」
卵から産まれたのは白いドラゴンの子供だった。
「キュルキュ?」
「お前はシロだ」
まだだ。
まだ耐えろ。
もしかしたらゴミじゃないかもしれない。
「この山にはお前の親がいるかもしれないんだぞ」
「キュル? キュルキュル」
「俺だって別れたくないよ」
「キュル」
ゴミ。
ゴミクズ。
何がキュルキュルだ。
読む価値なし。
次
「こうするんだ。簡単だよ」
「ユートさんすごいです!」
「フン、まあ認めてあげてもいいわ」
「え? 何か言った?」
「何でもないわよ!」
かわいい女の子にスゴイスゴイと。
「盗賊だ!」
「ユートさん逃げましょう!」
「何言ってんの! ユートが作った武器があるんだから返り討ちにするのよ! ね、ユート」
「え? 返り討ちって殺すの?」
「は? 当たり前じゃない! やらなきゃやられるのよ!」
人を殺す? 俺が? 何で?
「速く! すぐそこまで来てるわ!」
「で、でも・・・」
散々狩りとかやってたくせにわざとらしい『殺す覚悟が』イベント。
「うおおお!」
ザシュ!
「ぎゃあああああ」
「はあ、はあ・・・」
人を、殺した・・・。
「う、うげええ」
「何やってんのよ! アンタがさっさやってればおじさん死なずに済んだのよ!」
「ご。ごめん・・・」
はいゴミ。
何なの。
擬音を使わければならない決まりでもあるのか。
鳴き声をセリフ扱いしないといけない決まりでもあるのか。
酷すぎる。
ゴミばっかりじゃねえか。
こんなものがランキングに入っているってどうなってんだ。
役立たず、使えない、コミスキル、無能、そして追放!追放!追放!
そこから実は最強!最強!最強!
そしてざまぁ!
ゲームなら、ランダム設定したら選ばれるは誰も知らにレア種族!
面白そうとだと選んでみたら地雷職!不遇職!
そして使えないスキル!地雷スキル!
けど主人公が使ってみたらメッチャ強いぞ!
こればっかりじゃねえか。
逆にたまたま見た物は文章構成が練られてたし擬音なんてもんを使ってなかったし面白かった。
なのに上位には入ってない。
なるほどな。
つまりそういう事なんだろ。
さて、覚悟は出来た。
『私は聖女じゃありません』。
リッシュが読んで正気を失った奴だ。
まともではあるまい。
「カイさん。カイさん! ああ、なんてこと」
頭に霧がかかったようにどこか遠くで声がするような気がする。
俺はどうなった。
何をしていた。
突然胸に衝撃が走って息が詰まった。
痛みと苦しさにせき込んで涙が出るが頭の霧が晴れた。
目に入ったのは俺を心配そうにのぞき込んでいるリッシュ。
「動いてはいけません。良かった。戻られた」
戻られた、とな。
「あ、ああ、そうか俺は、たしか4章を読んでて、気が遠くなって」
何だあれ。
「4章。そんな所まで。私は2章の途中で頭が拒否しましたよ」
まるでクトゥルフ神話の魔導書みたいだ。
読んだら正気を失う代わりに人知を超えた知を得るとか。
まだ頭がフラフラする。
耳鳴りが酷い。
あと鳩尾の辺りが痛い。
その辺りをおさえているとリッシュはバツの悪そうな顔をした。
「申し訳ありません。浄化をかけましたが戻ってこられなかったので。手荒になりました」
精神分析。(物理)
つまり殴って正気に戻したか。
しかしそこまでせねばならなかったという事。
「いや助かったよ」
いや本当に助かった。
異世界の手引きに乗っていた女主人公の全てがあった。
主人公が精神疾患レベルの鈍感設定。
イケメン達からの愛され、さらに溺愛。
溺愛(笑)。
たまたま立ち寄った村で迫害されていたから拾った少年が『忌み子』い・み・こ(笑)。
からの実は精霊に愛されている『愛し子』い・と・し・ご(笑)でした。
自分は静かにひっそりと生きたいと言いながら行動はしない。
使い場はドラゴン。
当然だが言葉を話すし人の姿になったらイケメンだ。
聖女の力を女神から貰っているが、ばれたら面倒になると言いながら徹底しないからばれる。
そのくせ私は聖女じゃありませんとかぬかす。
ここまでが3章だ。
4章は俺様王子と腹黒メガネが病気になりそれが魔法や薬で治せない。
それをなんとかするために旅立つ話だった。
それで、何か、迷宮に、行ったような、気がする。
「だがこの主人公ってまるっきりグラスに召喚された聖女じゃないか」
リッシュから聞いた聖女の話がそのまんま『私は聖女じゃありまん』の主人公なんだが。
「そうですね・・・女神の盾とかそのままですし」
詳しく知りたいが、これ以上は読めない。
俺はローさんから特殊な攻撃や状態異常は受け付けない加護を貰っている。
ゲームではアイテムが無いと突破できない毒のフィールドやボスの精神攻撃などがあるからだ。
それなのに正気を失った。
つまりこれはローさんの力を超えるという事だ。
「こいつはローさんに聞いてみる。君もこれは辞めた方が良い」
下手すると死ぬぞこれ。
まさか小説読んで命の危機を感じることになろうとは。
「そうですね。今はアイネさんの事を優先しましょうか」
アイネ。
そうだ。衝撃で忘れそうになっていた。
「ああ、その事なんだが」
再会を喜んだ親子に別れろと言うのは気が引ける。
しかし上司からの命令だ。




