元社畜確信する
「魔力散弾」
「手前三つ消えました」
「魔力散弾」
「奥一つ消えました」
「よし、行こう」
問答無用で打ち込んだ結果は手前で隠れていた三人は穴だらけで死んでいて、死体の一つは拳銃を握っていた。
それは警官が持っているタイプで弾を五発残していた。
どうせ碌な使い方をしてこなかったんだろうし、ありがたく貰っていこう。
奥にいた三人の内二人は生きていた。
なにやら奇跡的に魔法が外れたらしいが、いきなり目の前で死体が出来上がったために驚いて
腰を抜かしたようだ。
足元には金属バットとゴルフクラブが転がっていた。
「何だよ! 何なんだよ!」
「はい、少し静かにしましょうね」
リッシュは声を上げた奴の頭を容赦なくサッカーボールキック。
はじけ飛ぶかと思いきや、吹き飛んでうめき声をあげた。
もう一人は怯えた目でこっちを見あげていた。
「根倉はどこだ。仲間は何人いる」
こっちを害しようとした相手に容赦はいらないだろう。
ヒロ君から貰った報酬の一つにして一番価値がある物。
それが異世界の手引きと書かれた辞書並みに分厚いメモである。
そこには彼があらゆる事を書いてありとても頼りになる。
「汚れは落ちました」
「ああ、ありがとう」
リッシュの後ろには目に光がない高校生くらいの女の子が二人。
俺達を襲おうとした連中に捕まっていた。
どんな扱いを受けていたかは想像するまでもない。
とりあえずシャワーを浴びて汚れを落としてもらった。
「さて、君達も見ての通りここの連中は全部で九人、皆殺しにした」
いまさらだが人を殺しておいてなんだが何も感じなかった。
異世界の手引きによると、少し前にリッシュも言っていたように、いざ人を殺そうとすると体がこわばって出来ない使徒がいるらしい。
具体的に言うと「殺す覚悟が!」とか「どうして腕が動かないんだ! どうして出来なんだ!」とか自問する、らしい。
馬鹿じゃなかろうか。
『ぼくのかんがたさいきょうのしゅじんこう』を考えた時に人を殺すんだからきっとこうだろうと思ったのではないかと書かれていた。
笑わせる。
殺す覚悟が、とかではなくそう思うだろうなと思うところがだ。
実に子供の発想で具体的には小中学生レベルだが驚くべきことに本当にいるらしい。
「もう大丈夫ですよ。下で襲って来た連中の内、二人ほど足の骨を折って大通りの方に投げ捨てておいたので、今頃は不死者に襲わて生きてはいないでしょう」
二人が泣き出した。
何だかいたたまれない。
だがある意味、運が良かった。
何せ俺達が通りかかったのだから。
だが寄り道は終わりだ。
「俺達はもう行くよ。ここにはあの連中が集めた食べ物や水が結構残っているから好きにするとい」
「生命感知に反応はありませんから子供の心配はいりませんよ」
すすり泣く声を背に俺達はマンションを出て歩き出した。
異世界の手引き曰く。
男主人公なら何故かまだ襲われていない子がいたりする。
だが全ての女の子が襲われてた場合、彼女達は大体助からない。
女主人公の場合も彼女達は助からない。
男に襲われてあれこれやられた少女達は主人公のそばにふさわしくないかららしい。
日が傾きだしたころ、ようやく目的地にたどり着いた。
代産大付属高校。
門はきっちりしまっていた。
その内側には車が横付けされておりさらに大量の机や椅子でバリケードが張られていた。
普通ならここまで来るのは大変だろうが、リッシュのおかげで大した苦労はしなかった。
塀を乗り越えて校舎を見るとあちこちに死体が転がっている。
それらの多くは頭を叩き潰されていた。
やはり制服姿の者が多い。
「状況判断は良いですね。今のところ悪意感知に反応はありません」
「方位針は校舎の・・・三階を指してる」
「この学校の学生でしょうか」
「どうかな。注意して行こう」
こういった状況では不特定多数の人間が集まる場所はアウトだ。
必ず馬鹿がいるからだ。
だが主人公がいるなら話は別だ。
校舎に入るとすぐの廊下に机や椅子でバリケードが築かれていた。
「どうしましょうか。壊しますか」
「いや、少しどけたらいけるだろ」
思考能力のないゾンビにならこれでも有効だろうから壊すわけにもいかない。
二人してガチャガチャとやっていると階段から学生服を着た一団が現れた。
「そこで止まれ」
その中の一人、金髪の生徒が開口一番そう言った。
「止まれと言いましたか。明らかな年上であるカイさんに対して偉そうに。何様ですか」
すかさずリッシュが言い返した。
「何だと!」
一瞬で赤くなった金髪の肩を眼鏡の少年がつかんで後ろへ下がらせた。
「おい、一条!」
「九重君。あなたは引っ込んでいてください。申し訳ないが、ここもそれほど備蓄がありませんのでお二人を受け入れる事は出来ません」
「嘘ですね」
リッシュの目が一瞬赤く光った。
まあ嘘だよな。
「いえいえ嘘だなんて」
ピンときた。
異世界の手引き曰く。
現代日本に類する世界において苗字に数字が入るイケメンが何人も出てきたならその主人公は女である。
名門何家の次期当主とかに囲まれてあれこれするパターン。
登場するのは俺様、腹黒眼鏡、犬っぽいの、ツンデレ、義理の兄弟。
あとたまに全部裏切られた後に一般人だと思っていたら実は偉かったとかで再登場する奴。
その場合は実は女主人公もそいつが好きだったとかがある。
ワンパターンだと書き殴られていた。
「俺達は人を探しているんだ」
一条に九重と来たので他にも居るだろう。
三ノ宮とか六道とか。
探しているのは主人公だ。
男主人公なら、最強、チート、成り上がり、ハーレム、あとざまあなどが特徴だ。
しかし女主人公は何があろうとも恋愛。
女主人公恋愛! 女主人公恋愛! 女主人公恋愛! であると。
女主人公は恋愛。
必ずと言っていいほどにこの組み合わせ。
他の要素、例えば冒険とかアイテム作成、その場合は絶対ポーションとかあったとしても必ず恋愛が入る。
必ずだ。
女主人公で恋愛要素のないものは九割九分ないとの事。
ヒロ君はよほどそれが嫌いらしい。
彼らに気づかれないように、そっとリッシュの耳元で囁いた。
「リッシュ、ここに間違いない。いるぞ女主人公が」
「ええ、私にも分かります。この感じ、セイナ様と同じです。何人ものイケメンを侍らせて逆ハーレムってやつですね気持ち悪」
リッシュが本当に気持ち悪そうに彼らを見て吐き捨てた。
もう大体の想像は出来ていた。
ここにいるのは女主人公とその取り巻きの男連中だけ。
つまり彼らは女主人公のコニュニティーに誰も入って来てほしくないのだ。
「とにかくここには受け入れられません。悪いですがお帰りください」




