元社畜とレベル上げ
今日も朝起きて当たり前になって来た朝食を取る。
時間を気にせずに食事を取るなんて何と贅沢な事か。
以前は朝食をとるくらいならベッドで横になっていたかった、
今のそんな幸せを噛み締めている俺と向かい合う形で眠そうにパンをモソモソ食べていたリッシュだったが、ローさんの話をするとカッと目を開いて冷たい水をカブ飲みした。
強引に目を覚ましたらしい。
「その、四十一階層に行くのが手っ取り早いかと」
何やら言いにくそうに言っているのが気になるが、それは俺も考えた。
「俺もそれは考えた。けど危険すぎるんだよね」
壊れた装備を少し上の物と買い替えたし、飛ばされた時よりもレベルも上がっているだろう。
だがそれでも厳しいと言わざるをえない。
「階段を拠点とし、魔物を倒してすぐに引き上げるを繰り返せば短時間で強くなれるかと」
それは俺もゲームでやった事がある方法だ。
アイテムなどで勝てる方法を確立してから一戦か二戦だけ全力で戦って、回復に戻ってまた戦う。
「私も全力で戦えばリビングアーマー一体くらいなら何とか出来ます。連戦となれば二、三戦が限度ですけど」
それでも十分凄いと思う。
俺ではエーテルの魔法を使わないと歯が立たない。
「ホワイトファングは」
「あの動きには追いつけませんね」
アレは目で追うことさえ難しい。
とにかく素早くて目があったと思ったら目の前にいた。
アレに目で追って攻撃を合わせるなんて無理だ。
しかしそれが出来なくてはあの階層では戦えないだろう。
「焦ったら駄目だ」
「それは分かります。分かりますがここは少し無理をしてでもやるべきでは」
リッシュの言う事も分かる。
一戦して得られる結晶一つで一万カナくらいはする。
しかも経験値も多い。
だが危険も多い。
魔物は階段に踏み込めないからそこから魔法を撃てば良いかといえばそうでもない。
見えない触れない壁のような物があって双方の攻撃が通らないのだ。
いや、俺の魔法ならそれも無視出来る気がするが、そもそも魔物は基本的に何故か階段のそばに近づかない。
なら直接四十一階層で戦わないといけないが、そうなるとホワイトファングは見た瞬間にエーテルの魔法を撃つしかない。
それはどうなんだ。
「カイさんの懸念も分かります。加護に頼っていてはいけないと思っている事も」
その通り。
防御不可の散弾をぶち込まれたらどんな相手も死ぬしかない。
だからそれに頼っていたらレベルは上がっても俺自身の成長が無い。
つまり戦いがうまくならない。
無いとは思うがエーテルの魔法が通用しない敵に遭遇した時、何も出来ずに死ぬ事になる。
ゲームによってはレベルを上げれば物理で殴ればいい物もあるが。この世界ではそうに行かないらしいし。
「私もそれは同じですが、こんな機会はおそらくもうありません。ですからここはそれを飲み込んででもレベル上げをするべきです」
「そうか、そうだな」
「そうです。いきなり四十階層なんて行けば普通は死にます。例えそこで戦う強さがあっても地道に攻略していかなくてはなりません。あの性病のに感謝する気はありませんが使えるものは使いましょう」
「それで思い出した。アイツはどうしてあんな場所にいたんだ」
ドラゴンが迷宮に用事なんて無いだろう
「どうせくだらない理由ですよ。聖女様がらみですよ間違いなく。そう思って知り合いに聞いたらやっぱりそうでした」
リッシュは深いため息をついた。
「リビングアーマーの中には稀に強い固体が現れます、そいつを倒すと特別な盾を落とします。それを性女様に見せたかったとか」
「何だそれは」
そんな理由で巻き込まれたのか。
ヒロ君が色ボケトカゲと言っていたがなるほど。
「俺はあいつに顔見られてるんだけど特に反応なかったな。一瞬だから気づかなかったのかな」
ローさんの使徒と名乗ったらいきなり殺しに来たから、インパクトはあったと思うけど。
いや、あの後ヒロ君に馬鹿にされてバッサリやられたからそっちしか頭に残ってないのかもしれない。
「霊獣様をご存じでしたか」
「以前一度会ったことがあってね。ローさんの使徒と聞いたら殺しに来た」
ブレスが来た時には死んだと思った。
「よくご無事で」
「全くだよ」
実際の所、俺はリッシュを少し侮っていた。
「貴女の恵みをここに。祝福」
リッシュの体がうっすらと光に包まれた。
以前も使っていた、おそらく能力を向上させる魔法。
「行きます!」
そしていつもの掛け声と共にこちらに向かって来るリビングアーマーに突撃。
ひねりも無く真っ直ぐであるが速い。
リビングアーマーが盾を構えた。
リッシュはその横を走り抜けるように盾を正面から殴りつけた。
その瞬間、両腕のガントレットにはまっている綺麗な玉が眩しい位の光を放った。
リビングアーマーは基本盾で受けながら反撃が基本。
その体が轟音と共に吹き飛ばされた。
マジか。
リビングアーマーは中身は詰まっていないらしいが重装備で、聞いた話では百キロ以上はあるはずだ。
リッシュはそのまま吹き飛ばされて転がる所に走りよりゴルフのようにフルスイング。
今度は壁まで五メートルは吹き飛ばされて叩き付けられた。
盾は殴られた所が完全に陥没し、それを持っていた腕が変な方向に曲がっている。
そのまま走りより、ヨロヨロと起き上がろうとしているリビングアーマーの頭目掛けてメイスを振り下ろした。
耐久が尽きたのかリギングアーマーは砂のようにサラサラと崩れて消え、後には結晶が残った。
あれ一つで一万カナはする。
リッシュはそれを拾って戻ってくると大きく息を吐いた。
ガントレットの光は消えていた。
「なんとか、なりますね」
たった一戦だがかなり疲れているようだ。
「いや、凄いな」
とんでもない攻撃力。
それに曲がりもしないメイスと魔法のガントレットか。
俺の視線を感じたのか無意識なのか、ガントレットを触って感触を確かめていた。
「この竜鱗篭手と呼ばれる魔道具があればこそです。祝福だけではとても」
「それはまた凄そうな道具だけど」
ゲームとかなら終盤に出てきそうな装備品だ。
「魔力と引き換えに力を与えてくれる最高ランクの魔道具です。リビングアーマーは任せてください」
「結構つらそうだけど」
一戦だったが、かなり魔力を使ったらしい。
「少し休めば大丈夫です!」
事前に言っていた通り、連戦なら二、三戦が限界なんだろう。
なら主力は俺で、リッシュは出来る限りやるで行くか。
レベルが上がればそれだけ楽になって行くからつらいのは最初だけのはず。
「だからどうか私を連れてください。お願いします」
ギュッと手を組んで俺に訴えてきた。
ああなるほど。
俺達は一緒に一階層ずつ攻略して強くなっていくのがベストだ。
パーティーを組んでいる仲間だから。
しかしリッシュは女神からの依頼を考えて俺が強くなるためにこの階層での戦いを薦めた。
俺が強くなるには単独で魔法を撃ちまくるのが効率的だから。
だがそうすれば俺だけが圧倒的に強くなってリッシュを置いていく事になる。
片方だけが強いとなるとパーティーとして力を発揮出来ない。
だから何としても俺に着いて行かなければならない。
リッシュはそんな覚悟で俺に薦めたんだ。
「大丈夫だ。女神様も慌てなくて良いって言ってから少し戦って休んでを繰り返そう。ここでならそれで十分だ」
結果を言うと少しひやりとする場面もあったが安定して戦えるようになってしばらくした頃、ローさんからの依頼が入った
これがまたなんとも言えない内容だった。




