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元社畜と勇者


 探索者ギルドの隅に待合場所がある。


 俺達はそこで勇者達が来るのを待っていた。


「本当に今日なのかい」


「多分。間違いなく多分今日です」


「どっちだ」


 夕方になり日が落ちて探索者達が換金に戻り出した頃、人目を引く集団が現れた。


 疑っていたわけではないが本当に来た。


 先頭は高校生くらいの、さぞもてるだろう少年だ。


 黒髪に黒い瞳。


 急所を守るプロテクターのようなものを身に着け、腰にはロングソード、左手には小さめの盾。

 

どれも一目で分かる高級品で魔力を感じる。


 何より剣には特別な物を感じた。


 彼が勇者、あるいは英雄。


 ヒーロー。


 隣には腰くらいまでの金髪で碧眼の少女。

 

 年は15.6くらいでやさしげで可愛い。


 長めの白い杖を持ち、リッシュとよく似た白いシスターのような服。


 僧侶、或いはこの世界では司祭。


 プリーストか。


 反対側には薄い茶色でセミロンクの髪で同じ色の瞳をした少女。


 年は20そこらで切れ目の可愛いより美人だ。


 しっかりとした銀色の鎧と額にサークレット。


 腰に細身の剣。


 腕には少し大き目の盾。


 騎士。


 ナイトだ。


 最後に一歩引いて歩いているのは、つばの大きな黒いとんがり帽子の女の子。


 腰まである黒い髪は三つ編みで青い瞳。


 年はやはり15.6。


 手には大きな白い魔晶石が輝く身の丈より長い杖。


 魔法使い。


 マジックユーザーだ。


 あと斥候役がいれば完璧だがそれでもパーティーとしてバランスは良い。


 人目を引きまくっているが馴れているらしい。


「では参りましょう」


 換金を終えた四人は帰るために出て行こうとしている。


 そこにリッシュが待ったと声をかけた。


「お待ちください勇者様」


 四人が振り向き、プリーストの女の子がリッシュを見て驚いていた。


「リッシュ」


「ええ、お久しぶりですねアイメル。ですが今日は貴女に会いに来たわけではありません」 


 リッシュは勇者に向けて綺麗に一礼した。


「お久しぶりです勇者様」


「えっと君は」


「私はリッシュ。アイメルと同じく聖女候補でした。一度だけですが貴方様とは王城でお会いした事があります」


「タツヤ様。このリッシュは聖獣様と聖女様を怒らせたあげく教会を出奔した者です」


「ああ、あの時の!」


 勇者も憶えていたようだ。 


 確かにあんな事忘れるわけないか。


「本当にもう。貴女は。聖獣様に何て事を言うの」


「カッとなって言いました。すっきりしました。けど少し反省しています」


 全く悪びれていない。


 悪いとは思っていないだろうな。


 だからあえて言うなら、もっと上手い事言えたんじゃないかと反省しているとかだ。


「シスターベールにもどれだけ迷惑をかけたと思っているの!」


「事情を話したら拳骨もらいました」


「当たり前でしょ!」


「でも最後は笑って見送ってくれましたよ。武器もくれましたし」


 相手の怒りなど何処吹く風で嬉しそうに武器を見せた。


「て、天秤の針。貴女はもう、本当にもう」


「まあまあ、そうかっかしないで」


「あああ貴女は!」


 二人の大体の関係は分かったがこのままでは話が進まない。


 もう少し見ていたいが割り込むとしよう。


「君、スドウ君だね」


「えっと。はい、貴方は」


「俺は雄矢甲斐。カイと呼んでくれ。君と同じ日本から来た」


「じゃあ貴方も」


「ああ、今日は君に話があって来た」


「そうですか! 日本人と会うのは貴方で二人目ですよ! 僕は須藤達也! タツヤでお願いします!」


「ああ、よろしくタツヤ君」

 

 何やらテンションが高い少年だ。

 

「ここじゃ何だから場所を変えよう」



 予め決めていたのはかなりの高級レストラン。


 そこでもさらに奥の個室。


 ここなら会話が外に漏れる事はないとギルドでお墨付きを貰った場所だ。


「では初めに審判眼アイズオブテスタメントを互いの主に」


「リッシュ。どうしてそんな」


「とても大切な話だからです。勇者様もお願いします」


「分かった。アイメル頼む」


「むむ。かしこまりました」


 タツヤ君がアイメルと呼ばれた少女と手をつなぐと俺もリッシュと手をつないだ。


「真実を偽ることを禁ず。審判眼アイズオブテスタメント


 これは一見すると目と同じだが効果が違う。


 だが基本的には同じで俺が嘘をつけばリッシュが赤く光るわけだ。


 最高位の神聖魔法に術者が文字通り審判を下せる魔法があると言われている。


 迷宮でリッシュが使って見せた奴の完全上位魔法で、あっちは魔力の消費が少ないがこっちは魔力の消費が多く使うためには何よりも女神に対してとても強い信仰が必要になる。


 手をつながなければならないが、相手の真偽を見分ける事に関して目のように曖昧な答えを許さないのだ。 


 この魔法に関してはリッシュから予め話を聞いていた。


 昔、街の外れにある階段の下で死体が発見された。


 容疑者が捕まり目を持たせて殺したかと聞いたところ、そいつは殺して無いと答え目は青く光った。


 しかし状況や目撃証言から犯人に間違いなかった。


 これは階段から突き落としただけで結果的に死んだので殺したわけではないと思って答えたかららしい。


 つまり目は屁理屈が通ってしまう事があるわけだ。 


 だがこの魔法ははそれが通用しない。


 同じ事を答えても術者は赤く光るのだ。


 とても強力で絶対の真実を示すと恐れ敬われる魔法。


 扱える者は教会でも一握りしかいないと言う。

 

「では始めましょう」


 豪華な料理を前に俺とリッシュ、タツヤ君とアイメルさんが手をつないで座っていると言う何か間抜けと言うか、食事の前の儀式かと問われる光景だ。 


 タツヤ君の仲間の他の二人は悪いが席を外してもらっている。


 アイメルさんはリッシュが大丈夫と太鼓判を押したが他の二人は分からないからだ。


「さて、君は女神から特に何かするように言われたかい」


「いいえ。女神様は好きなようにすれば良いと。でも出来たら魔王を倒してほしいと」


 アイメルさんがうっすらと青く光った。


 どうも基本カーナさんは使徒には好きにするように言っているようだ。


 しかし彼はまだ高校生。


 よく考えて行動しなければ良い様に使い潰されてしまう可能性がある。


 それとなく教えるべきかどうか悩むところだ。


「そうか。俺は女神から直接やるべき事を随時言われるんだ。期間内に特定の仕事をやるようにと」


「仕事ですか」


 そう。


 俺のは彼等と違って仕事だ。


 仕事はこなさなければならない。


 それが社会人である。 


「やらないと世界に悪い影響が出るし、最悪世界が滅びる」


 リッシュがアイメルさんよりも強く、そして青く光った。

 

「世界が滅びると仰いましたか」


「そうだ。文字通り滅びて無くなる」

 

 またリッシュが青く光ったが、やはりリッシュの光の方が強い、


「なあリッシュ。君の方が彼女より光が強い気がするんだが」


 そういえばギルドの受付嬢が司祭じゃなくて高司祭とか言っていた。


「神聖魔法の強さは素養の他に鍛錬もありますが、カーナ様への信仰心が大きいのです」


 リッシュは嬉しそうに胸を張った。


 女神への信仰心か。


 俺の場合はどうなんだろう。


 上司として敬意を払うが、信仰心は自分でも分からんな。


「カーナ様への思いは誰にも、例え大司教様であっても私の方が強いと自負しております。鍛錬を欠いたこともありません。そしていつか聖女になると」 

  

 軽く言っているが本当に聖女になりたかったんだろうな。


「けど結局聖女にはなれなかったでしょう。私も貴女も」


「全くです。私は聖女になるための努力を惜しんだ事など無いというのに」


 リッシュはやれやれ呆れたように軽く流した。


「貴女のカーナ様への信仰心は認めるけど、それ以外が問題なのよ」


 それは何となく分かっていた。


「けど少なくともあんな聖女様よりは私達の方が聖女としてふさわしいと思いますよ。アイメル、貴女もそう思っているでしょうに」


「それは・・・きっとそんな心がいけないのよ。自分の方が優れてるとか、そんな考えが良くないのよ」


 実に模範的な優等生のような回答だ。


 そして一瞬だがリッシュがニヤリと獲物を見つけたかのような笑みを浮かべた。


 これはきっと何かよからぬ事を言う。


「カーナ様に仕え、まして勇者様に仕える身でありながら嘘は良くありませんね」


「う、嘘なんて」


「では復唱してください。セイナ様の言動は聖女に相応しい物である。男の人を侍られせて楽しんでなどいないし、聖女ではないと口で言いながら聖女として構ってもらいたいのが見えすいていてますが問題ないと思います」


 リッシュがまぶしい程赤く輝いた。


「そ、それは」


「おや、どうしました。ほら言ってくださいよ」

 

 仲の良い友達なんだろう。


 そんな関係の友人なんて俺にいただろうか。


「ほらほら」


 もう少し見ていたいが話が進まないから止めよう。


「リッシュそこまでだ。アイメルさんと言ったな。すまないね」


「い、いえ。こちらこそ。カイ様。あの、さんなど不要です。アイメルとお呼びください」


「僕もタツヤでいいですよ!」


「そうか。うん、分かった。話を戻すよ。俺の目的は聖女の女神の盾を一時的でもいいから使えなくする事だ。ただし最低一ヶ月。これが女神からの依頼だ」


 実際難しいようなそうでないような依頼だ。


「何故一時的なんでしょう。カーナ様が聖女様に加護を与えられたのですから、加護を奪うなど容易いのでは」

 

 まあそう思うよな。


 しかしそうは行かない理由があった。


「例えどんな物であれ一度与えた力は奪えないらしいよ。だから俺に仕事が回って来たんだ。そして完全に頼り切っている物が無くなれば自分の使っていた物がどれほどの物かだったか理解出来るようになるだろ。だから一時的でいいらしい」


 ファンタジーの世界で最初から攻撃に対して無敵の主人公。


 その設定だけでも駄目との事。


 しかも回復等の神聖魔法を高レベルで使える。


「無敵の力を失えば何らかの行動を取るだろ。それが何であれね」


 俺ならまず何故失ったのかを考え、次に失った物を取り戻すかそれを補うための物を求める。


 聖女も少なくとも現状を保てないなら動くだろう。


 逆に言えばローさんにそこまで言わせる程の状況と言う事だ。


「この世界にはこの世界のルールがある。聖女の力を与えられた以上、それが知られれば周囲から聖女として期待される。それが嫌なら聖女としての力を隠せば良い」


「隠す気ありませんよね、アレ」


「ばれてしまってもそれが嫌なら別の国にでも逃げればいい」


「聖女って周りから言われても『違いますぅ。私は聖女じゃありませ~ん』って言いながら逃げるそぶりも見せずに王都に家買ってますよ」


 それは聖女のまねなのか。


 明らかに悪意を感じる。 


「別に女神も聖女の仕事を強要しているわけじゃない。けどもう見るに耐えんと言う事さ」


「まあ、カーナ様に恨みでも無いかぎりは、聖女が自らを否定するなどカーナ様への不敬以外の何物でもありませんからね」


「君が聖女を嫌ってるのはそれが原因か」


 単に気に食わないだけかと思っていたが違ったか。


 誰よりも女神を敬っているのに、その目指すべき存在が女神に無礼をはたらいているなら怒るだろう。


 しかも相手はその女神に守られているならなおさらか。


 それでも信仰は揺るがないとか凄いと思う。


「いえ、あの方の全てが気に入らないだけです。嫉妬とかじゃありません。人として嫌いなんです」


 きっぱりと言うリッシュは青く輝いていた。


「リッシュ。貴女って子は。ああ、もう、カイ様。どうかこの子が馬鹿な事をしないようによろしくお願いします」


「おやおや、昔はリッシュお姉ちゃんと呼んでくれていたのにお姉さんぶるとは」


「何時の話よ!」 


 何だかんだ言いながら二人は楽しそうだった。   


「それでタツヤ君。女神の盾、何とか出来るかい」


 ヒロ君の話では可能だ。


「出来ますよ! 任せてください!」


 渋るのではないかと思ったが、あっさりと自信満々に答えた。


「世界が滅びるなんて見過ごせませんよ。今の僕は勇者ですからね!」


「流石ですタツヤ様!」


 アイメルがキラキラした目でタツヤ君を称えている。


 勇者のパーティーメンバーが女の子でモテルのはお約束だが、目の前で見せられるとイラッとするな。


「どうやって何とかするんだい」


 何と答えるかな。


 アイメルと手を繋いでいる以上嘘はつけない。


「僕の力は相手から無断で借りる事です」


「無断で、借りる」


 俺の頭には凄まじい音痴なのにリサイタルを開いたり、殺人シチューを作るガキ大将が浮かんだ。


 奪うとは違うようだ。


 アイメルさんが青く輝いている以上本当なんだろう。


「制限はありますけど、多分一ヶ月くらいなら何とか出来ますよ」


「借りる方法は」


「相手に障れば借りれます」


「問答無用で」


「そうです」


 ヒロ君から聞いた話とは少し違うが十分に強力だ。


「ならお願い出来る。一ヶ月何があっても返さないで欲しいんだけど」


「任せてください!」


 タツヤ君は嬉しそうに大きくうなずいた。


「それに僕、あの人嫌いなんですよね」


 そいつは予想外だ。

 


「そうだ。もし僕が出来なかったらどうするつもりだったんですか」


 そりゃ気になるよな。


 リッシュと手を繋いでいる限り嘘はつけないし、何よりこの質問も想定内だ。


「最悪の場合は次の聖女に期待することになるよ。やりようはあるしね」


 タツヤ君の顔が少し強張った。


「マジですか」


「ああ、、世界が滅びるよりはマシだろ」


 死にはしないしね。

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