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元社畜と聖女対策


 結晶の買取に一悶着あったが大体予想通りに終わった。

 

 流石下層の魔物らしく結晶の買い取り金額は23万カナ。

 

 出来る限り戦いを避けてこれだからこっちから狩りに行ける様になれば一日で百万も夢ではない。

 宿に戻った俺が目を覚ましたのは昼を過ぎてからだった。

 

 無性に腹が減った。 

 

 まずは飯を食おう。

 

 一階の食堂に降りるとすでに起きていたリッシュが香りの良い紅茶を飲んでいた。 


「おはようございます。カイさん」


「ああ、おはよう」


 昼時を過ぎているためか他に客はまばらだった。


「おはようございます」


 リッシュの向かいにはヒロ君が同じように紅茶を飲みながら団子のような物をつまんでいた。


 色々あったせいで忘れいていたがヒロ君を呼んでいたんだった。


「呼びつけるようなまねをしてすまないね」


 黒い皮の鎧を身に着けテーブルに立て掛けてあるかなり長い剣が二本と普通サイズのが一本。


 前も思ったが長い方は佐々木小次郎を思い出すくらいの長さだ。

 

「いえ、かまいませんよ。どのみち王都には来る予定でした。聖女をの様子を調べるために」


「聖女」


 ホットな話題だ。


「ちょくちょく様子を探りには来ていたんです。で、最近はどんなものかと関心がありましてね。多分ろくなもんじゃないと思ってましたが」


 忌々しそうに吐き捨てた。 

 

「その通りですヒロ様。アレは駄目ですよ」


 反対にリッシュは嬉しそうだった。


 それはそれはとても良い笑顔をしていた。


 差し出されたソーセージを挟んだパンを食べながら何から話すか考える。


 手紙を出した翌日に来てくれるとはありがたいが、どうやって移動したんだろう。

  

「それで大体の話は聞きました。女神の盾ですね」


「何か方法知らないかい」


「そうですね・・・」


 目を閉じて額に指を当てて何やら考え始めた。   


 しばらく眉間にしわを寄せていたが考えが纏まったのかゆっくりと目を開いた。


「一番手っ取り早いのはやっちまう事です」


 実に良い笑顔だった。


「それは最後の手段にしたいな」


 多分可能だ。


 女神の盾がどれほどの物だろうが俺には関係ない。


 しかし一回だけ生き返るとはいえ出来るなら避けたい。


「なら勇者に頼んでみますか」


「勇者」


 何故ここで勇者の名が出るんだ。


「多分勇者は他人の能力を奪う事が出来ます」


 またしても忌々しそうに吐き捨てた。

 

「能力を奪う。なら女神の盾も」


「おそらく可能かと」


「それって反則じゃないか。奪うって事は相手は使えなくなるんだろ。そのくせこっちは強くなるって」


「そうですね。まさしく俺つええです。唯一の救いはこの世界では剣術とかはスキルでは無いので奪えないって事です」


「それはそうだろ。そんな事になったらどうにもらなんだろ」


 長年積み上げて磨いた技術を奪うとかありえないだろ。 


 最終的に誰も勇者に敵わなくなる。


 よくあるパターンでは魔王には効かないとかだが、それでも反則だ。


「普通はそう考えます。でもあのアホはその程度が分からないんですよ!」


 余程腹に据えかねたのか、テーブルを勢い良く叩いた。


 食堂がシンと静まり返り視線が集まる。


「あのアホとは」 


 リッシュがおずおずと尋ねた。


 女神カーナの事だろう。


 彼はその問いにハッと正気に戻ったのか、ばつの悪そうな顔をした。、


「失礼しました。ま、まあそれは置いといて」


 わざとらしく咳払いをして姿勢を正した。


「多分手を触れないと奪えないとか制限があると思います。カイさんには通用しないでしょうけど気をつけてください」


 多分彼の言う通り俺には通用しないだろう。


 だがそんな加護を持ったのが勇者か。


 悪役の能力っぽいけど。


「他に何か良い方法は」


「女神に頼むくらいですね。カーナの方です」


「いや、どうやって。呼べるのかい」

 

 自然と視線がリッシュに向いた。

 

「え。いや、無理ですよ。カーナ様に降臨して頂くなんて」


 リッシュが言うのだから無理なんだろう。


「まあ、条件が厳しいので今回出来ませんか。後は、多分聖女の右手を切り落とせば盾の加護は殆ど無くなるかと」


「右手を」


 何故右手。


「カーナの加護は右手に宿ります。だから右手を無くすと使えなくなる、とまでは言いませんがもう本来の力は発揮出来なくなります」


「そうなのかい」


「そうなんですか」


「そうだよ。と言うか知らないのかお嬢ちゃん」


「はい、そのような事は全く」


 逆に考えるとそんな事を知っている事を流石と言うべきか。


「俺の知ってる事はこの程度ですね」


「そうか。どうしたものか」


 とは言う物の実質一択だ。


「勇者か・・・協力してくれるかな」


「話す理由次第では」


「そうだよね。何と言ったら良いものか」


 世界のテコ入れのためですでは無理だろう。


「それなら大丈夫です!」


 リッシュが得意げに胸を張った。


「こう言っては何ですが、カイさんなら簡単に言いくるめられるかと。勇者と言っても甘ちゃんですよ」


 ヘッと悪そうな笑いをした。


「君、聖女候補だったんだよね」


 勇者に対してあんまりな言い方だった。


「お会いした事もお話した事もあります。何と言って良い物か。そうですね、例えるなら苦労人ですね」


「苦労人。勇者が苦労人」


「お会いになれば分かります。ただ」


 もじもじと何やら言いにくそうだ。


 嫌な予感がする。


「その、勇者様は王城にお住まいですが、私、そこで問題を起こしてしまいまったので王城には」


「ほう、何をしたんだお嬢ちゃん」


 反対にヒロくんは嬉しそうだ。  


「それが・・・」





 その頃はジェード様が聖女様の所によくお見えになるようになっていました。

 

 ジェード様は森の霊廟で封印を守護されていたはずですが、封印していたものが死んだからと。


 おやどうなさいましたカイさん。


 何でもない。


 そうですか。


 聖女様の家には第一王子であるユーベル様や宰相を勤めておられる公爵家の跡取りであるスケイル様がよくいらっしゃいましたがそこにジェード様です。


 仲が良いはずがありません。 


 一度その様を見た事がありですが、聖女様は彼等がどうして仲が悪いのか分からないって言うんですよ。


 悪いのはお前の頭と性格だよ。


 おっと失礼しました。


 そんなある日、私達聖女候補は一人ずつ王城へと参りました。


 勇者様のお供を選んで頂くためです。


 皆ローブを深く被って顔を見えないようにして臨みました。


 お話をして純粋に能力と性格で選んで頂くためです。


 これは以前に仲間を容姿で選ぶ勇者様がいたためです。


 もっとも、聖女様が勇者様と一緒に戦うのが理想ですが、本人が聖女じゃありませんと言いますので。


 強力な神聖魔法使いまくって、穢れを払えるのに。


 ああ穢れとは・・・おやご存知でしたか。


 とにかくその日は私の番で勇者様とお話しているところに聖女様が現れましてね。


 何でも病に倒れた人を助けるための薬が必要で、その材料を得るために力を貸して欲しいとか。


 自分は貸さないくせに貸して欲しいとか恥を知りやがれです。 


 そんな所にジェード様が堂々と入って来られました。


 ジェード様は聖獣様なので王城の誰も止められません。


 そして馬鹿な事を言い出しましてね。


「病に倒れるとは人間ってのは弱いな」


「そう言うがセイナさんだって人間なんだぞ。人間は脆いんだ。ドラゴンには分からんだろう」


 勇者様はジェード様を好きではないようでした。


 まあ、あんなの好きな人は珍しいでしょうけど。


「セイナは別だ。それに俺だって病になる事もある」


「ジェードって病気になるの。知らなかった」


「ああ。今の俺は人間の言う恋の病ってのに患ってるのさ」


 うざ。


 心の底からそう思いました。


「聖獣様が病ですか」


「おい、止めいた方が良い。面倒になるよ」


 勇者様は私の様子に良くない物を感じたのか小声で止めようとしました。


 ですが私は止めませんでした。

 

「なるほど。霊廟の聖獣ではなく性病の霊獣でしたか」


 シンと静まりましたね。


 勇者様は背を向けてお腹を抱えて小刻みに震えてました。


 あれは笑うのを堪えてましたね。


「そして病を聖女様に貰ったと」


 勇者様は限界を超えたのか笑いましたよ。


 それはもう大爆笑。  


「どうしてそんな酷い事言うの」


 聖女様に悲しそうな顔をしてました。


 けどあれは悲しそうであって悲しんでませんよ。


 絶対です。


 分かりますよあんなの。


「おい、性病って何だ」


 ジェード様は分からなかったようです。


「男女が深い関係を結んだ時に患う事がある病です。てっきりジェード様とセイナ様はそう言う関係だと思いましたので」


「何だそう見えたのか。まだ違うがそのうちなるけどな!」


「そうですか」


 私を連れて行った大司教様の顔は引きつってましたね。


 帰った後滅茶苦茶に怒られました。


 それで終われば良かったのですが、その日の内に王城に性病の霊獣と言う言葉が広がったらしいです。

 

 あんなのでも王家の守り手ですから、王様の耳に入ったら唯ではすまないでしょう。

 

 私もこれは不味いと思いまして荷物まとめて教会から逃げる事にしたんです。

 

 装備品もその時拝借したわけです。 

 

 教会は私を追放した事にして事無きを得たようですよ。


「傑作だよお嬢ちゃん! そうかあれはお嬢ちゃんが言ったのか!」


「性病! 性病の霊獣! 威厳も何もねえな!」 


 俺達もそれもう大笑いだった。 


「そんな訳で、私は王城に行く事が出来ません」


「なるほど。けど勇者は基本迷宮に行く。その時に接触すればいいさ」



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