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元社畜の初仕事


 気が付いたら何度か来た事があるビルの一室の椅子に座っていた。


 夢だと直ぐに分かった。


「あちらの生活はどうですか」

 

 何時の前にか目の前にはスーツを着たローさんが机を挟んで向こう側に座っていた。


 もう驚かないぞ。 


「少しは馴れました。仲間も出来ましたし。迷宮も6階層を越えた所です」


「順調ですね。仲間はどんな方ですか」


 前も思ったがローさんは別に俺をずっと見ている訳では無いらしい。


「リッシュと言います。十五歳の女の子で、カーナさんに仕える元聖女候補です」


「十五歳の女の子」


「いや、待ってください。邪な考えで仲間にしたわけではありません」


 確かにリッシュの見た目で一緒に歩いていたら日本なら職質されそうだ。


 だが別に何かそういった事を考えて仲間にした訳ではない。


「冗談です。分かっていますよ」


「そうですよね」


 ここでは俺の考えは筒抜けだったはず。


「さて、今日来てもらったのは他でもありません。あなたにやって頂くことがあります」


「仕事ですね」


 思ったより早い。


 今の俺で何とか出来るだろうか。 


「最初のお仕事です。王都グラスに聖女がいるのはご存知ですね」


「はい。確かセイナさん」


 リッシュが嫌っている聖女様。


 会った事は無いが、リッシュの話を信じるのなら、一昔前の少女マンガの主人公のような人。


「聖名さんは姉さんから聖女の力を与えられました。能力は三つ。神聖魔法。穢れを払う力。最後に女神の盾」


「三つもですか」


 一人一つではないのか。


「いいえ。三つを合わせて聖女の力です」


「それはちょっとずるいのではないでしょうか」


 なら全ての魔法を使いたいとか言ったら出来たのだろうか。


「通常は一つです。それは絶対です」


「それなら何故でですか」


「本人は抜け道を突いて自分は凄いと思っているようですが、元々聖女と勇者はそういうものです。世界において特別な役割を持っていますので」


「特別・・・ああ、なるほど」


 彼女は他の使徒と違って役割、職業とも言うべきものを持たされている。


「それと聖名さんは自分に好意を持たせる力を持っています」


「好意を持たれる。では彼女の持つ力は4つですか」


「いえ、それは彼女が元々持っていた力です。現代日本にもたまにそんな力を持った人がいます。霊が見えるとか」


 人に好意を持たれるだと。


 ギャルゲーとかエロゲーの主人公が持ってそうな力だ。


 不思議な魅力とか言う全てを超越して女の子に好かれる謎の力。


 そんな物があったらさぞかし男にもてるだろう。


 つまりそういう事か。

 

「それでは完璧に主人公じゃないですか。何て言いましたか・・・そう、乙女ゲームの。しかもリアルの」


 ギャルゲーの反対で主人公の女の子がイケメンと出会ってアレコレするゲーム。

 

「まさにそれです。だから問題なんですよ」


 問題が多すぎてどれが問題か分からないがそれでも一つ疑問がある。


「あの、使徒がどんな力を持っているのかの話は出来ないのでは」


 以前そんな事を言っていたはず。


「今回は彼女に関する事なので必要と判断しました」


「まさか殺せと」


 死んでも生き返るらしいがあまりやりたくは無い。

 

 だがローさんは首を横に振った。


「いいえ。目的は彼女の持つ女神の盾の力を一時的でも無くす事です」


「一時的?」


「そうです」


 ローさんは本当に深くて長いため息をついた。


 余程面倒なんだろう。


「無敵の盾を持った主人公が冒険してるのを見て楽しいですか」


「え、いや、どうでしょうか。それはその人次第では? 敵とかにもよると思います」


 上司の問いには基本当たり障り無いように。


 尚且つ自分の意見をそれとなく混ぜる。


 あの会社で身に着けた基本技である。


「普通はそうですね。けど結局全ては主人公次第では無いでしょうか? 主人公の言動、性格、魅力」


「それはそうですけど」


 ゲームでも戦闘やシステムが良くても主人公に魅力が無いと面白さは半減すると思う。


 もちろんそれが全てではない。


 主人公ではなく他の人が魅力的だったりする事もある。


「聖名さんは女神の盾に頼りきっていて、あまりにもワンパターンです」


「ワンパターン?」


 頼り切っているのは想像出来るがワンパターンとは何だ。


 ローさんはこめかみの辺りを押さえて頭痛を堪えている様子。 


「ありふれていると言った方が良いでしょう。言動、能力、そして彼女を取り巻く環境の全てが」


「それは、問題なんでしょうか?」


 よくある事が悪い事では無いはず。


「以前にも言いましたが姉さんは既に同じような世界を同じような状況で何度も作っています。そして全てを途中で放り投げています。その後の主人公や世界の行く末を見る事はありません。故に」


 ローさんは俺の目を真正面から見た。


 そこには強い意志を感じられた。


「今は大丈夫ですけど、兄が今の状況を見たら世界を滅ぼしかねません。またこのパターンか。いい加減にしろ、と」


 いや、ちょっと待って欲しい。


 聖女のせいで世界を滅ぼすと言うのか。  


「個人のために世界が滅ぶと」


「そうです。少なくとも今現状において世界の中心付近にいる使徒は誰か」


「それがセイナさんですか」


「現在魔族と戦争していて、魔族が有利な原因である穢れを大規模で払えるのは聖女のみ」


 そう言えば戦争していた。


 どこか遠くの話のような気がしていたが大丈夫なんだろうか。


「そのための勇者と聖女」


「本来はそうですが、別に鉄砲玉になれという訳ではありません。少なくとも私は好きにしたらいいと思いっています」


「いいんですか?」


「かまいません。別に魔族との戦争によって世界が滅びる訳ではありませんし」


「滅びない・・・ああ、そういう事ですか」

  

 例え魔族が勝とうが世界その物は滅びない。


 魔族にもローさんの信者がいると言う話から察するに、別にローさんは人の味方ではない。


 世界の滅びとは正しくローさんが滅ぼすんだ。


「現在、世界で最も注目を集めている人の一人がアレでは駄目です」


 ローさんが言い切った。


「故にテコ入れです」


 言いたい事は分かった。


「しかし具体的にどうすれば。女神の盾を使用出来なくする方法はあるんですか?」


 女神が与えた力に対してそんな事が出来るのか。

 

 なにしろ自動防御だ。 

 

 俺の魔法なら余裕で貫通できるだろうがやってもいいのだろうか。


「幾つかありますが方法は貴方にお任せします。最悪のケースもありです」


 それはつまり殺しも辞さないと。

 

 場合によってはやれと。


「通常は死んでしまったら、しばらくしてからその場で全快で生き返ります。だだし死んだ時に体が殆ど残っていなかったら教会で復活します」


「迷宮に行った使徒が帰って来ない事が多いと聞きました」


 生き返るなら帰ってくるだろう。 


「以前に言いましたね。復活した場合加護の力は失われます。ですが姉さんは別にレベルが下がるわけではないので、それまで培った経験があれば何とか出来ると思ったらしいです」


「ああ・・・なるほど。そんな強力な力を貰った連中がコツコツ自力とか技術を磨く訳が無い」


 それまで頼ってきた力が無くなったら何も出来ない。

 

 迷宮でそうなったら普通なら何とか出来る状況でも慌てて死ぬんだろうな。

 

 あるいは魔法特化でそれを失ったら逃げることも出来ないか。

 

 だから場所や状況を考えればセイナさんを殺しても問題ないと言う事か。


「他に何か質問はありますか」


「期限はありますか」


「特に設けませんが・・・出来るだけ早くお願いします」


「善処します」 


 これは早急に行う必要があると見るべきだ。


 間違っても期限が無いなら急がなくても大丈夫などと思ってはいけない。

 

「あの、つまり今回の仕事は聖女の行動がつまらないからと言う理由ですか?」


 それならまさしく神の視点からと言いようが無いんだが、セイナさんからすればちょっとどうか思う。


 ローさんは苦虫噛み潰したような顔をした。


「今回に関してはありていに言ってしまえばそうです。貴方はクソゲーを掴んだ事がありませんか?」


「あります」


 それはもう数え切れない程。


 そして女神がクソゲーとか言うのに驚いた。


 クソゲーとはクソの様なゲームと言う意味だ。


 本当につまらないとか、クリアー出来るようになって無いとか、どうしようもない位バランスがおかしいとか、あるいはストーリーが無茶苦茶とか。


 どうしようもなくやるに値しない。


 そんなゲームを俺は学生時代大量に掴んだり掴まされたりしたものだ。


「貴方はクソゲーを手にしてしまったら、クリアーしようとしますか?」


「いいえ。時間の無駄です」


 以前ゲームをしない友人からクソゲーだろうがそうでなかろうが、ゲームをする時間は同じだから無駄だと言われた事があるがそうではない。


 つまらない時間を過ごす事が無駄なのだ。

 

「兄は本当のクソゲーに出会ったら叩き割ります」


 気持ちは分かる。


 中古ショップに売りに行くのさえ面倒だし売った所で二束三文なら捨てた方が良いと。


 クソゲーなどディスクの裏がキラキラして綺麗とか、フリスビーにしたら飼い犬のジョンも大喜びさ、とかそんなものだ。

 

 それよりも女神の兄なら神だろうが神がゲームをやるのか。


「先の展開は関係ありません。世界の中心がそうであると判断したら叩き割るでしょう」


「なるほど。そう言う事ですか」


 ローさんの兄に知られれば世界が壊されてしまう。

 

 世界と好き勝手やってる一人の女とどちらかを取らなければならない。

 

 それに何も別に殺すと言ってない。


「何より兄に関係なく、テコ入れしてもどうしようもないと思ったら私も割ります。幾つかの世界をそうして来たように」


 それこそ余程の事だろうし、そのための俺なんだろう。


「しかし女神の盾を無くした所でそう変わるもんですか?」


 三つの加護の一つに過ぎないのにだ。


「変わります。それは絶対です」


 言い切った。


 世の中に絶対はないがローさんが言うなら例外的に絶対なんだ。


「他に何かありますか?」


「いいえ」

 

 聞くべき事は聞いた。


「ではよろしくお願いします」


「任せてください。何とかして見せます」


 最初の仕事だ。


 頑張ってみますか。


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