元社畜と魔法
早速朝から俺達は迷宮に入った。
場所は地下2階。
地図を頼りに2人で並んで歩いて行く。
昨日とは違い俺達の他に少し人がいる。
「一階は殆ど魔物は出て来ませんが二階からは違います」
脇道からネズミが出てきたがこちからが何かする前に逃げていった。
だが逃げた先で他の探索者が持っていた剣で突き殺した。
「出るのはネズミだけだったな」
ただし三十センチはある。
「人を見たら逃げますけど」
序盤の魔物でこっちも最低レベルの癖に逃げるのである。
かといって倒しても大して得られる物も無い。
死んだネズミは消え去り結晶を残しているはずなのだがここからは見えない。
「魔力結晶は最低です。確か一匹で十カナだったと」
「話にならんな」
どんなに頑張っても一晩の宿代にもならない。
リッシュが突然走りだしてメイスを振り下ろすとグチャッと嫌な音がした。
「思わずやりましたが、まあ無いよりはましですね」
そう言って摘み上げたのはBB弾よりさらに小さい白くガラスっぽい玉。
これが魔力結晶か。
「とにかく下を目指しましょう」
殺すことにためらいは無し。
俺もそうあるべきだろう。
その後戦いは無く3階層への階段に到達してその日は終了。
3階層はさらに人が増えていた。
今日も二人で四階層を目指して歩いていく。
「ここもネズミだよね」
「そうですね。少し大きくなってますけど」
それと出現率が高くなっているらしい。
だが人が多い分すぐに狩られる。
一応周りを警戒しながら歩いていると一匹現れた。
丸々と太ったネズミでこっちに気づくとやはり逃げ出した。
「魔力散弾」
左手から放った問答無用の一撃でネズミは穴だらけになった。
魔法に関しては何となく加減が分かるので射程距離を調節した。
全力でぶっ放せば人がいたら殺してしまうだろう。
一応結晶は拾っておく。
1つ15カナだったはずだ。
「無属性の魔法ですか。しかし・・・」
「しかし?」
「私はその魔法を知りません」
「何?」
「私の知っている限りでは無属性の直接攻撃魔法は魔法弾と魔法炸裂弾の二つです」
これは予想外だ。
何せヒロ君は何も言わなかったから俺の使う魔法自体は普通にある物と思っていた。
「そうなのか。なら他に、そうだな強化魔法とかは」
「強化魔法ですか。無属性ですと魔法付与ですね」
「なら魔力疾走ってのは」
ヒロ君が使っていた魔法だ。
リッシュは足を止めてジッと俺の目を見た。
「ロストミスティックと呼ばれている魔法が有ります。今は失われた魔法でとても強力ですが扱いがとても難しい魔法の数々」
何となく分かった。
「カイさん。他に攻撃魔法はありますか」
「魔力弾、魔力散弾、魔力収束弾の3つだ」
「魔力疾走と言うのは」
「こっちに来てすぐに出会った使徒が使っていたよ」
けど問題はそこだけでは無い。
「そのロスとミスティックっての威力はどれくらいだ」
「私も強力としか」
元々そう言う魔法なのか、それとも俺が使う物だけが特別なのかが問題だ。
ヒロ君が何も言わなかったとすると見た目には同じだが本来はそこまでの魔法ではない。
だから言わなければ問題無いと思うんだが。
「ならそっちの魔法を憶えた方が良いか。リッシュ、魔法ってどうやって憶えるんだ」
まさかレベルが上がったら勝手に憶えるわけでもあるまい。
「中級までなら人に教えてもらえますよ。もちろん素質が必要ですけど。それと強力な上級魔法は通常は特別な魔道書を使えなければ憶えられません」
「さっき言った魔法弾と魔法炸裂弾は」
「初級ですね。ギルドで頼めば使い手を紹介してくれると思いますよ」
「そうか。なら憶えるか」
とりあえず地上に戻ったらやる事は決まった。
リッシュは俺の加護がどんなものか気になっているはずだがそれ以上何も言わなかった。
ロストミスティックとか初めて聞いたが、詳しく言わなければ加護が何か分からないだろう。
そのままひたすら歩いて歩いて、現れたネズミを魔法で打ち抜いて結晶を拾う。
寄り道もせずに階段へ着いたのは夕方4時頃で、集まった結晶は15個で275カナになった。
俺は魔法を覚えるため朝からギルドに来ていた、
そのためリッシュには悪いが今日は探索は休みである。
「魔法使いに依頼をお願いしたい、どうすれば良いですか」
「個人の依頼でしたら依頼内容をこちらの用紙に記入して5番窓口まで、魔法ギルドへの依頼なら6番窓口へお願いします」
「初級の魔法を教えてもらいたいんだ。どっちになるだろうか」
「なら個人ですね。教えてもらいたい魔法の記入を忘れないようにお願いします。依頼料は窓口で相談して下さい」
「ありがとう」
本当に市役所を思わせる対応だ。
まあ、そうは言っても市役所に行く事なんてそんなに無かったが。
「どうしてこれの買い取りが2000カナなんだよ! 先週までは3000カナだっただろ!」
「申し訳ありませんが先日大量に買い取りがありまして値段が下がっております」
「ふざけんな! こっちは生活かかってるんだよ!」
馬鹿が騒ぐのはどこでも同じか。
相場は動くんだから当たり前なのに、探索者なんて仕事をしているのにその程度が分からない馬鹿なのか。
そう言えば向こうで引越しした時に市役所に必要な登録しをに行ったら騒いでいた奴がいたのを憶えている。
「ですから住民票には現住所が絶対に記載されるんです」
「いらんゆうてるやら! そこは書かんでええんや!」
「それでしたら発行は出来ません」
「それ無かったら金借りられへんやろ!」
馬鹿がいた。
何時の時代のどんな場所にでも馬鹿はいる。
ルールを守らない、あるいは理解出来ない連中である。
話から察するに金を借りるために身分証が必要だが住所は知られたくないとか、その時点でまともではない。
借りようとする先もまともではないだろう。
そもそも公共の場で大声で叫ぶ奴がまともなわけがないか。
ギルドに依頼を出した後は暇になったので町をぶらぶら歩いていた。
闘技大会に勇者が出るとか聖女が誰を助けたなどのうわさが聞こえて来る。
何故かどちらも面倒ごとの予感がした。
時刻は昼過ぎで丁度腹が減ってきたので何か良い店はないかと思ったのだが、いつの間にか探す必要も無いくらいの店がずらりと並んでいる場所にたどり着いていた。
しかしその殆どの店の入口や看板に特定のメニューを制限時間内に食べ切れたら賞金が出るとあった。
この世界はフードファイトが流行っているんだろうか。
その中で外から結構な客が入っているカツ丼のおいしい店と看板があった店に入って見るとメニューはカツ丼しかなかった。
何故カツ丼が存在するのかと思ったが、過去の使徒の誰かが伝えたんだろう。
頼んだカツ丼は確かにおいしかったので客が多いのも頷ける。
だが隣の客が頼んだ看板メニューの超特盛りを見たがどうやら店側は賞金を出す気が無いと見える。
それはカツの山で日本にいた頃テレビに出ていた大食いチャンピオンでも無理だろう。
昼を過ぎてギルドに顔を出して見るとどうやら俺の依頼を受けた人がいるとの事。
さっそくギルド経営の修練場で待ち合わせた。
しばらくしてやってきたのはいかにも魔法使いと言った男だった。
後は簡単だった。
必要な呪文を教えてもらい魔力の流れのような物を何度か見せてもらえば問題なく使えるようになった。
今後は人目のあるときはこっちを使うことにしよう。




