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元社畜面接をする


 時刻は夜の11時を過ぎていたがギルドは普通に開いていた。


 どうやら24時間営業らしい。

 

「こんな時間までお疲れ様です。買取りですか」

 

 窓口にいたのは昨日の昼に会った人だった。


 何故この時間にいるんだ。


 昼夜交代制とか夜勤とかだといいのだが。

 

「いえ、迷宮で初心者を殺している連中に会いまして返り討ちにしました。身の潔白を証明するため目を貸していただきたいんです」

「なるほど」 


 受付嬢は机の下から目を取り出した。


「ではお話ください」


 魔法の嘘発見器らしいがいったいいくらするんだろう。 


 もし日本にこれがあったら困る奴がたくさんいるな。


「襲って来たのは五人でかなり手馴れてました。何度も同じ事して来たと思います。私を囲んでニヤニヤしながら剣を突きつけて死にたくなかったら言う事を聞けと言って来たので叩き殺しました」


 叩き殺したとかあまり聞かない言葉だ。


 目は青く光った。


 やっぱり嘘は無いらしい。


「そこをこちらにいるカイさんに見られまして事情を話しました。宣言します。私がカイさんに話した事に一切の嘘はありません。カーナ様に誓います」


 目が綺麗な透き通った始めて見る強い光を放った。

 

 何か違いがあるのだろうか。


「司祭の方かと思いましたが高司祭の方でしたか」


「そんなものです」


 どうもリッシュは偉いらしい。


 しかし何故俺の時のように聖女候補だったと名乗らない。


 名乗れない事情があるのか。


「分かりました。その五人についてはこちらで調べておきます」


「お願いします。金目の物は頂きましたよ。大した物はありませんでしたが」


 さてどうしよう。


 この子は嘘をついていなかった。


 なら仲間にするかどうかだが、これはローさんに聞くとかはないんだろうな。


 多分こういった事は答えてくれない気がする。


 だから自分で決めるしかないだろう。

  

「ではカイさん。改めてお願いします。どうか私を貴方の仲間に」 


 いすれ仲間は必要だし同じ仲間にするなら飛びぬけた能力よりも性格や信用出来るかどうかだ。

  

 リッシュがまた膝を着いて頭を下げた。


「カーナ様の僕として貴方様に最大の・・・」


「あの、出来れば場所を弁えていただけないでしょうか」


 受付の人のどこか冷たい声に周りを見るといつの間にか周囲から注目を浴びていた。

 

 主にリッシュが。

 

「えっととりあえず飯でも食って話そうか」




 場所を近くの酒場に移して2人で食事を取りながらチラリとリッシュを見る。

 

 見た目は小柄で可愛い。

 

 ちまちまとフォークとナイフで魚の骨を取り除いている姿は庇護欲を刺激される。

 

 しかし見た目に反しておそらく戦力としては十分。

 

 俺に不利な事はしないと誓った。

 

 懸念があるとすれば俺は使徒だが女神カーナではなく女神ローさんの配下と言う事だ。

 

「リッシュ。俺にはやらなきゃならない事があってね。それには女神ローが関わっている。君は女神ローについてどれくらい知っている」


「ロー様ですか。そうですね」


 リッシュは食事の手を止めて形の良い眉をひそめた。


「ロー様はカーナ様の妹様です。カーナ様はいくつもの世界を創造されましたがロー様はそれらの中で駄目と判断した世界は容赦なく破壊されたと言われています。いくつもの世界がロー様によって破壊されましたが逆にロー様が何らかの加護を与えられた世界もあり、そういった世界は大いに繁栄したと言われています」


 さすが破壊とテコ入れの女神。


「そのためロー様は恐れられると共に大いに敬われています。教会にはカーナ様と共に祭られており、この世界を創造したカーナ様に感謝し、ロー様に認めていただけるように日々の努力を忘れてはならない。これが教会の教えです」


「なら女神ローの信者も多いのか」


「そうですね。カーナ様ほどではありませんが。しかし・・・」


「しかし?」


「魔族、特に魔王や直属の配下はロー様の信徒と言われています。自らの行いによって世界を滅ぼすと」


「それはまた何とも」


 破壊の女神を魔族が崇拝するとか割と良く聞く設定だが、生憎とローさんはテコ入れが主な仕事と知らないらしい。


 俺がやる仕事はその辺りだろう。


「ロー様に関してはこの程度でよろしいですか」


「十分だよ」


 ローさんの評判は微妙だった。


 ローさんの信者は状況によっては世間から石でも投げられそうな気がするが大丈夫だろうか。


 けどそのための俺なんだろう。


「いくつか質問がある」


「はい、何なりと」


「君が俺と組みたいって理由は」


「貴方が使徒様だからです」 


「それは分かってる」


 普通に考えれば加護の力を利用するためだろう。


 それが金かあるいは他の理由かどうかは別にして。  


 だがリッシュは聖女候補だった。


 なら単に俺が使徒だから仕えるのか言えば違う。


 リッシュは仲間にしてくれと言った。  

  

「俺が聞きたいのは何のために俺と組みたいのかだ」


 リッシュはしばらく瞑目し、何か考えるようなそぶりを見せた後ゆっくりと口を開いた。


「私にはどうしてもやりたい事があります。聖女になれば簡単でしたがあの性女サマが現れたので望みはあえなく潰えてしまいました」


 今何か聖女の所がおかしかったような気がするが気のせいか。


「日本から来たって聖女を恨んでるのか」


「いいえ。それは私の都合であってカーナ様や彼女には関係ない事です。なので仕方なく私はなんとかお金を貯める事にしたんです。ある魔道具を取り戻すために」


「魔道具」

 

 確かゲームでよくあるマジックアイテムの類だ。


「聖女が必要と言えば教会が用意してくれる、と思ってました」


「なるほど。君には必要だが聖女に必要で無い。しかし君が聖女なら嘘にはならないと」


「そうです」


「なら君が聖女になろうとしたのは」


「もちろんしっかりと聖女の仕事もしますよ。ええもちろんです」


 リッシュは目をそらした。

 

「で、それが駄目になったと」


「そうです。ですから自力で取り戻すには結構なお金が必要でして」


「どれくらいだ?」


「多分・・・一億くらいかと」


 凄まじい金額だ。

    

「聖女候補には教会からお金が支給されますがほんの僅かです。具体的には月二万カナです。衣食住完備ですから生活には問題はありませんがそれでは」


「どんなに節約して貯めても無理か」


 なら他の方法をとるしかない。  


 リッシュは大きく頷いた。


「迷宮の深い階層で戦えば短期間で百万以上稼ぐ事も可能と言われています。しかしそのためには自分自身が強くなる事はもちろんですが相当に強力な魔物を数多く倒さなくてはなりません。そうなると一人では無理でして」


「強くて信頼の出来る仲間が必要と」


 迷宮は下へ行けば行くほど敵が強くなる代わりに得られる結晶も大きく純度が高い物になる。


 RPGのお約束とも言うべき物だがなにやら感慨深い物がある。


 そしてリッシュの言うとおり強い敵との戦いを一人で続けるなんてまず無理だろう。


 それこそ強力な女神の加護でも無い限りは。


「君があんな所にいた理由は」


「探索者になったのは今日でして」


 それはいくらなんでも出来すぎだろう。


「本当です。カーナ様に誓います」


「でもここには目が無いし」


「なら審判の目の魔法で! あっでもそれでは意味が無い! なら明日ギルドで確認してください! お願いします! どうか!」


 両手を胸の前で組んで必死に訴えてくる。


 その綺麗な瞳が俺を映していた。


 人生に疲れていたかつての俺の濁った目とは大違いだ。


 ああ、思い出すな。

 


 珍しく土曜日に早く仕事が終わった時だ。


 帰って休もうと思っていたら課長が電話をかけて来たんだ。


「おう、麻雀やるぞ」


 もちろん俺も朝野さんも断った。


 翌日の日曜日も仕事だし、どうせ始めたら勝ってしかも満足するまで辞めないから終わるのが何時になるか分からない。


 へたをすれば朝になる。


 だから断った。

 

 ところがだ。

 

 寮でのんびりしてたらインターホンが鳴った。

 

 寮は会社専用なので勧誘の類は無いが俺は基本無視する。

 

 しかし扉を凄い勢いで叩かれた。 

 

「おんの分かってんねんぞ! 出て来い!」


 課長だった。

 

 本当に嫌だったが仕方なく出るとやはり課長でしかも酒臭くてかなり酔っていた。

 

「ようも逃げてくれたな。お前ふざけんなよ」


 ふざけてるのはお前だ。


 なにが逃げただ死ねよ。


「お前課長が誘ってんのに断るとか何考えてんだよ」


 課長の後ろにはやはり馬場野がいた。


 腰巾着のゴミ野郎が。


「今からやるぞ。メンツ集めろ」


 断れるはずも無く、近くの部屋に住んでいた隣の課の後輩を無理やり誘った。


 無理やり誘った上に今年は入社したばかりの新人が金など持っているはずが無いので負けたらその負債を払ってやらないといけないのだが、こいつが弱かった。


 そんな中で持ち点を考えながら調整をして課長が勝つように持って行くのは大変だった。


 仕事で嫌いな相手を仕事が終わった後でも相手しないといけないなんて苦痛でしかない。


 麻雀なんてやっても結局は仕事じゃないか。


 俺が学んだのは仕事で一番大事なのは関わる人間だ。


 同期は皆既に辞め、同じ課に後輩もいない。


 先輩で腹を割って話せるのは1人だけ。


 上司は全員ゴミ屑。


 仕事内容よりそれがつらかった。


 気が付けば俺の目は濁りきっていた。



「なあリッシュ。俺は確かに使徒と呼ばれる者なんだろうけどさ、何が出来るとか言ってないよな」


「はい、何も」


「なら俺が特に強力な力が無いとか思わないのか。他の使徒ってのを知らないけど中には戦いに向いて無い人だっているんじゃないのか。俺もそうかもしれないと思わないのか」 


「えっとそれはですね・・・」


 俺はリッシュに自分の事を話して無いし見せてもいない。


 女神から特別な力を貰っている人がいても、それが戦いに役立つ物とは限らないじゃないか。


 リッシュはジッと俺を見つめて何か考えるそぶりを見せたかと思えば小さくうんうんと唸りカッと目を見開いた。


 びっくりした。


「もう正直に言います。使徒様はアホが多いです」


「は?」


 いきなりそんな事を言い出した。


「チートとか言って迷宮に突っ込むんです。そしてこの世界の人達が頑張ってるのをせせら笑うかのようにその力を振うんです。大体チートチートうるさいんですよ。何ですかチートって」


「おっおぅ・・・チートねぇ」


 チートと言えばゲームのシステムそのものを書き換えるインチキを指す。


 俺もとあるゲームで出会ったことがある。


 ありえないダメージを出したり連射出来ない武器を連射したりダメージを受けない無敵状態だったり超がつくようなレアアイテムを大量にばら撒いたりなど。


 チーターと呼ばれる連中でその技術は凄いのだろうが純粋にゲームを楽しむ者にとっては許せない連中だ。


 なるほど、女神から特別な力を貰った使徒達は確かにそうかもしれない。


 だがローさんの話では普通に死ぬはず。 


「だが別に無敵と言うわけでは無いだろう」


「そうですね。カーナ様に強力な魔法の素質や特殊な力を与えられた方達は大抵迷宮に単独で挑んでそのまま帰って来られません。毒等の特殊な攻撃方法を持った相手がいると何故か考えないらしいです」


「帰って来ない?」


 ローさんの話ではカーナさんの使徒は一度だけ生き返る事が出来るはずだがどういう事だ。


「確かに加護は強力でしょうが世の中なめすぎです。深層に行くのに水も用意しなかったり、出現する魔物を調べもしない。他にも自分の放った魔法の余波を受けたりと探索者として初心者以下の事をされます」


「ああ、なるほど。確かにアホだな」


「カイさんも迷宮に挑まれていましたので戦う力をお持ちでしょう。浅い階層でも水や地図を用意していましたね。私達の争う声を聞いてその場を離れる事を選ばれた。貴方は私の知っている使徒様で一番現実的に物を見ている。だから私は貴方にお願いしています」


「知っている中でっての他にも知ってるのか」


 知っているのにそっちへ行かなかったと言う事は何かしらの問題があると言う事だ。 


「そうですね。まずは勇者タツヤ様。この国の第二王女様に召喚されました。聖剣を持ち仲間は既にそろっていて・・・え~物凄く、もう物凄く安全に迷宮に挑んでいます。次に聖女セイナ様。王都で単独で探索者をされてます。本人は自分は聖女じゃないと言いながら加護の力を振るって、隠してるつもりでしょうけど周りから凄いとか言われてニヤニヤしてます。彼女の周りでは第一王子様や次期公爵などが気を引こうと必死になってます」


「うん、君が聖女を嫌いな理由は分かった」


 つまり自分は聖女だと分かっているが、それを否定する事によってかまってもらえる。


 聖女だがら強力な加護を持っていて周りから凄いと言われて気分が良いわけだ。 


 後は聖女の周りにいる王子とかその辺はどうせイケメンなんだろう。


「次にカダルにはゴウ様とショーコ様の2人が探索者をされています。迷宮で攻撃魔法をポンポン撃って魔物を倒してお金を稼いでは遊びを繰り返していますね」


「攻撃魔法をね。なら加護は魔法を連打できる魔力とかその辺りか」


「セカイエにはジン様とヒロ様。お二人ともとんでもない使い手です。ジン様は地上専門の探索者で貴重な素材等を集めたりなさってます。強力なマジックアイテムの収集家としても有名です。ヒロ様は迷宮専門です。セカイエの迷宮をこの世界初めて踏破されました。しかも仲間等なしで」 


「そいつは凄いな」


 確かに単独で迷宮踏破とか凄いがヒロ君は縛りプレイでもしてるんだろうか。

 

 いや、そんなわけないな


 最近は後輩と迷宮にもぐっているといっていたし。


「ノリンにはサラ様。恐らくですが聖剣をお持ちです。仲間の方達と地上と迷宮の両方で活動されてます」


「多分聖剣?」


「はい。何せおそらく目を掻い潜られますので」


 嘘発見器を掻い潜るだと。


「そんな事が出来るのか」


「普通は不可能ですが使徒様ですし。聖剣もどのような力があるのか分かりませんので」


「加護はともかく聖剣の力が分からないのか。世界に何本かしかないんだろ」  


「あるのは分かっていますが、その力がどのような物かは。何せグラス王家に保管されていた物以外は存在するとしか分からないので」


「そうかそんな物なのか」


 ヒロ君の持っていたのは時間を操る聖剣だった。


 そんなとんでもない物と同レベルなら何が出来ても不思議は無いか。


「今現在存命で私が知っているのは以上です。使徒様はこの世界では珍しい名前をなさってますので分かりやすいです」


「ああ、この世界では珍しい名前か」


 偽名でも使えば分からないだろうがそんな事をする理由は無いから普通は本名を名乗る。


「使徒様を見つける方法は名前と一線を画す強さです。後は言動ですね」


 一線を画すとか難しいこと言葉を言っているがこの世界は本当にその辺どうなっているんだろう。 


 今のところ考えるだけ無駄か。


「チートと言う言葉をよく使います。他には女性の場合はウサギとか狼とか見て高確率でモフモフモフモフ言いますよ。何がモフモフですか。あとは何かあるたびにやばいと言います。やばいやばいやばいと連呼するらしいですよ。何かの呪文かと思いましたが違うらしく驚くと言うらしいです。馬鹿ですか。おっと失礼。もっとも、使徒様が分かりやすいのは教会としてはありがたいですけど」


「そっそうか」


 もしかしなくても使徒は精神年齢が低いのだろうか。


 それともゆとりのアホなのだろうか。


 しかしリッシュは何気に毒をはくな。


「私は高位の神聖魔法が使えますのでかなりの怪我や様々な毒などの治療が可能です。戦いに関しても前衛としても戦えます。しかし既に仲間がいたり、単独で活動されている方にお願いしても・・・」


「確かにその連中ではな」


 リッシュの入り込む余地がなさそうだ。


 それこそリッシュが加護でも持ってないとメンバーに加える必要が無い。

 

 いや、使徒が男ならパーティーメンバーをかわいい女の子だけで固めるために仲間にする可能性はあるか。


 いや、漫画じゃあるまいしハーレムパーティーなんて修羅場になるだけだろう。


「あのなリッシュ。俺はこの世界に来たばかりだから君よりも弱いぞ」


 魔王配下のボスキャラを倒したはずなのだが強くなった感じがなかった。

 

 いわゆる経験値無しのイベントボスだったらしい。


「例え使徒様でも最初は強くありません。ですから使徒様に限らず探索者には仲間が必要です」


「なら何故君は1人で迷宮にいた」


「えっとそれはですね・・・」


 さっきまでと違って何なら言い難そうだ。


「私も仲間が欲しかったのですが、ギルドの求人情報に私の求めるメンバー募集がありませんでした。大手クランの物が幾つかあったので良さそうなのを面接に行こうかと思いましたが、とりあえず五階層までは行っておく事にしたんです」


「クランってあれだろ。探索者達の集まりだろ。それの求人広告見たけど、あんなもの全部駄目だ。行ったら後悔するぞ」


 この世界の求人情報は元の世界と大して変わらない物だった。

 

「どうしてですか」


 不思議そうな顔をしているな。

 

 だが甘い。

 

「アットホーンムなクランです。ノルマはありません。人物重視です。やる気さえあれば大丈夫とか笑わせる。どいつもこいつもブラック・・・上の人間だけが得して下の人間が辛いだけの職場の求人情報の特徴だ」


 これはアルバイト情報誌でも注意した方が良い事だ。

 

 どの世界でも同じと言う事か。


「具体的な事何も書いてないだろ。何でも来いなわけだ。どうしてそんなに人が必要だ? それだけ人が辞めて行くって事だぞ。そんなとこまともな訳あるか」


「結構大手もあったんですが」


「もちろんそんな中にも極一部は良い所だってあるだろう。けどでかけりゃまともって訳じゃない。少なくとも今日見た中で面接を受けようって気になるのは無かったな」


 何でもいいから良さそうな所に就職しようとしてはいけない。


 例え同じ業界で業務内容が同じであっても違いがある。


 それを見分けないと後悔する事になる。


「うわぁ・・・あの、カイさんは日本では何をなさってたんですか」


「フム、何をしていたか」


 俺は今まで何をしていたのだろうか。


 何を・・・?


「カイさん?」


「いや、まあ、うん、アレだ。金を扱う仕事だよ。物じゃない」


「金貸し業ですか」


「ちょっと違うけど、似たようなもんだね」


 もっと性質が悪いけど。


 俺の場合は業界そのものが害悪だった。 


 あの業界の会社が一つ潰れたら、世の中から悪が一つ消えたと思って良い。

 

 さてここまでリッシュと話して大体の人物像は掴んだ。 


 悪い子ではない。


 聖女候補と言えばなんとなく教会の箱入り娘を連想するがそうではなさそうだ。


 つまり世間に慣れているように見える。


 だがやはり就職に関しては経験が無いのか甘い。


 しかししっかり現実は見ている。


 話を聞くに探索者としての能力も高い。

 

「なあ、リッシュ、俺は君と組んでも良いと思っている」


「本当ですか! ありがとうございます」

 

 リッシュは嬉しそうに頭を下げた。

 

 けどここからが問題だ。


「俺に不利な事はしないんだよね」


「もちろんです。カーナ様に誓います」


 ずっと気になっていたがよく考えれば聖職者が女神に誓うって最大の誓いだよな。


「一つだけ問題があってね」


「何でしょう?」


 キラキラと期待に目を輝かせているリッシュに悪いがこれだけは言っておかなければならない。


「場合によっては他の使徒と敵対して殺すこともある」


 リッシュの笑顔が固まった。





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