元社畜の帰還
気が付けば何時もの会議室である。
テーブルを挟んで向こう側には何時ものようにローさんがスーツを着て座っていた。
「戻ってこられたと言う事は目的は果たされたのですね」
「ええ、まあ。何とか」
「そうですか。ご無事で何よりです」
嬉しそうに微笑む姿は見ているこっちがほっこりする。
「良く考えたらローさんは俺が行く前から結果を知ってたのでは」
「いいえ。私も全てを見通すわけではありません。特にヒロ・ミヤマさんの周りを見る事は出来ないので貴方が無事かは分からなかったのです」
「ヒロ君を見れない」
「はい。それから何度も言いますが絶対に敵対しないでくださいよ。お願いしますよ」
彼に何があるのか非常に気になるが教えてはくれないだろう。
じっとこちらを見つめる目には有無も言わさぬ力があった。
「わ、分かりました」
ローさんはしばらく俺を見つめていたが満足したのかパッと笑顔になった。
「約束ですよ。では向こうで何があったか教えてください」
「はい。まずは・・・」
俺は向こうで起きた事を順番に話した。
貰った魔法の事。
霊廟を守っていた聖獣の事。
それをヒロ君があっという間に半殺しにした事。
「霊廟の聖獣ですか。ああ、あのドラゴンですね。しかし色ボケトカゲ?」
「確かそんな事を言ってました。本人は何となくアイツのせいだったような気がすると」
「そうですか。なるほど」
ローさんは腕を組んで何やら悩みながらうんうんと唸っていた。
「それから魔王配下の七魔神の一人を倒しましたが問題ありますか」
無いとは思うが。
「月のジャンですね。問題ありません」
それを聞いて肩に入っていた力がようやく抜けた。
「安心しました。行く前に確認しましが、もしもという事がありますから」
予想していたからと言って実際にやってみてその通りになるとは限らないからだ。
だが今度はローさんが表情を固くした。
「月のジャン。彼は聖女のための存在です」
「聖女の、ですか。それはどう言う意味ですか」
聖女と言えば多分回復と補助魔法のエキスパートで勇者の仲間のイメージがある。
けどそれが魔王配下とどんな関係があるのか。
「詳しくはお話しできません。しかし貴方がこの先世界の在り方を知っていけば私の言った事の意味が分かるでしょう」
「世界の在り方」
この世界特有の事象か。
つまりうさぎを倒したら加工されたような肉になるとかだろうか。
「そうだ。ヒロ君はあの時間に残りました。やる事が出来たと」
俺は元の時代に戻ったがヒロ君は戻らなかった。
まあ彼ならうまくやるだろう。
と言うよりうまくやっている。
「え? しかしそれでは・・・だとすると・・・ああ、そういう」
ローさんは少し悩んだが何やら納得したらしい。
ゆっくりと目を開くとそこは木の壁に囲まれた小さな部屋で、テーブルの上で真っ二つになった赤い魔力結晶が転がって床に落ちた。
どうやらヒロ君と出発した直後のようだ。
背負っていた荷物をテーブル乗せてそっと中身を取り出した。
まず三本の小瓶。
目薬の入れ物と同じくらいの小さな瓶で中身はそれぞれ蛍光色の赤、青、紫とドギツイ色をした三種類の強力な魔法の薬。
限定的だが最高レベルの効果があるらしい。
次に取り出したのは黒いビー玉のような宝石。
グッと握り締めるとわずかな熱と共に一メートルくらいの黒い杖に姿を変えた。
杖は真っ直ぐで先端に握り拳くらいの黒い宝石が着いており太く重い。
これも最高レベルも魔道具で魔法使い垂涎の物らしい。
だが基本的に剣と盾を構えて戦うので出番の予定はない。
最後に大きめ手帳。
表紙に日本語で異世界の手引きと書かれているそれはまるで辞書のように分厚かった。
ヒロ君直筆でこの世界の事柄などが細かく書き込まれていて困った時に世話になるだろう。
この三つがヒロ君から貰った今回の報酬である。
前二つは金額にしておよそ二億カナはするとの事。
異世界の手引きは値段などつけられない。
それらを再び鞄に収め、おそらく朝食になるであろう食事をとりに下の階に下りた。
とにかく疲れた。
今日は街を巡り歩いて迷宮は明日からにしよう。
明日の事は明日の俺がうまくやってくれるさ