イベントボス戦
決着はあっさりと着いた。
「この身に力を。魔力疾走」
何やら魔法を使ったヒロ君はすさまじい速さでドラゴンの首めがけて切りかかると見せかけて前足を切りつけた。
ファンタジーの共通認識としてのドラゴンの強さの1つにその強固な鱗にある。
生半可な剣など通用せずに逆に切りつけた剣が折れるアレだ。
けどヒロ君は言った。
どんな物で斬れる剣を持ってると。
抵抗など感じないようにドラゴンの片足をバッサリと切った。
落ちはしなかったがそれでも中程まで足を切られ叫び声を上げるドラゴンにさらに切りかかる。
「聖剣か!」
「気付くのが遅い!」
させじとドラゴンが大きく羽ばたいで突風を巻き起こす。
吹き飛ばされそうになるのをこらえていると、そんな風など物ともせずにヒロ君が今度は反対の足に切りつけた。
しかし今度は浅かったらしくドラゴンは上空へと一気に飛び上がる。
アレはまずい。
上からブレスを吐くつもりだ。
「カイさん失礼します」
突然真横にあらわれたヒロ君が俺を肩に荷物のように担ぎ上げられた。
「アイツを殺す必要はありませんのであそこまで走ります」
目指すは霊廟。
入口がぽっかりと口を開けていた。
「この身にさらなる力を。魔力疾走ダブル」
また呪文を唱えたが何の魔法だ。
「行きます!」
ドンッと音がして景色が一瞬歪んだと思ったら石で囲まれた建物つまり霊廟の中にいた。
そうとしか言えなかった。
中は中心辺りに1つ台座があるだけだったが、ヒロ君がそこで何やら呟くと台座が音を立てて動き、下へと続く階段が現れた。
「急ぎましょう。あの馬鹿トカゲが追って来ます」
「お、おう」
ヒロ君が明かりの魔法を唱えたので俺も唱えて後に続く。
階段を下りている最中にヒロ君が振り向いてまた何か呟くと後ろで俺達が地下へと入ってきた入口が閉じた。
「これで大丈夫です。ここには人間以外入る事は出来ませんのであの馬鹿トカゲも入ってこれません」
「えっと、なら戦う必要なかったって事かな。あと何か凄い速さで移動したよね。最初からあれで抜けられたんじゃ」
あの移動速度は正に目にも留まらぬと言うのだろう。
アレは速さを上げる魔法の類か。
「ローの名前を出せば行けると思ったんですけどね。まさかあんな反応とは」
「もしかしてこの世界ってローさん悪者扱いなのかな」
「まあ、カーナに比べればあまり信者の類はいませんね。破壊と再生の女神ですから。けど別に邪教扱いとかされてる訳じゃないはずです」
「破壊と再生、ね」
本人は破壊のとテコ入れの女神とか言ってたが、ドラゴンは単に破壊の女神って言ってた。
それにこの世界の人がテコ入れとか言われて分かるとは思えないし。
「ところであのドラゴン、ヒロ君に加護を持ってるとか言ってたけど」
俺に嘘をついていたのだろうか。
たしかにドラゴンは加護を得ている者達と言った。
「う~ん・・・加護と言えば加護かな。聖剣ってのは強力な固有の力を持っていて持ち主を選びます。そして聖剣を手にした者はそれが何なのかどんな力があるのか理解出来ます」
「この剣を抜いた者は王になる的なアレかな」
「大体それです」
ゲームや小説でよくある話だ。
魔王を倒すための伝説の剣とか。
だがそんな物を持っているならやはり彼も主人公だと思うのだが。
「聖剣は女神が創ったものでして剣の形をした神の力です。だから手にした者はある意味強力な加護を得ると言って良いんじゃないかな・・・と、多分。俺がこの森に入れたのもこの剣のおかげですし」
「強力な加護、ね」
「そうです。だからあの馬鹿トカゲはそう思ったんでしょう」
時間を遡るとかとんでもない力だし、女神の加護と言えばそうなんだろう。
そんな力を持った剣が何本もあるとは、持ち主と敵対する可能性も考えれば厄介だな。
「着きましたね」
階段を下りきると明るい場所に出た。
野球が出来そうな広い空間の真ん中に大きな赤い水晶の様な物が浮いていた。
近づくと中に人影が見えた。
「こいつが月のジャンです」
「小学生くらいに見えるんだが」
見た感じ10才前後の少年だ。
「見た目に騙されてはいけません。こいつは本当に厄介なんです」
ヒロ君の声が固い。
「いくら斬っても無駄なんですよ何ていうか立体映像斬ってるみたいで。そのくせ向こうは穢れを撒き散らすんです。少し待ってください」
そう言うと目を閉じて二本の剣を交差させて何やら呟くと剣が紫に輝いた。
「全てを紡ぐ鎖よ! 世界よ! 止まれ!」
そう高らかに叫んで二本の剣で少年を背中から水晶ごと貫いた。
すると赤かった水晶が紫に変わる。
少年は剣に貫かれたがそれでも何も反応しなかった。
「カイさんお願いします。一発でアイツを消してください」
「剣が刺さったままだけど」
「あれでアイツを固定してます。大丈夫とは思いますが念のためです。絶対に逃がすわけにはいかないんです」
「いや、でも、あの剣が無くなったら帰れないんじゃ」
俺の魔法は恐らく聖剣でも消してしまう。
「大丈夫です。あの聖剣はこの時代にもありますから」
「ああ、なるほど」
未来にあるんだからこの時代にもあるか。
確かまだヒロ君は来てないから場所も分かると。
「どうか、どうかお願いします。アイツを」
もう一度、深く深く頭を下げた。
「任せてくれ」
使い方は知っている。
ローさんに貰った三つの魔法の最後の一つ。
「全ての力の源よ。ここに集い全てを飲み込め」
目の前に魔力が集まり俺の身長より大きな黒い玉になる。
「魔力収束砲」
最後の呪文と共に勢い良く掌を突き出した。
さて、俺の予想ではこの魔法はそれこそ拳銃の弾丸のごとき速さで飛んでいくはずだったんだが、実際はそこまでのスピードではなかった。
目標までの距離は5メートル程だが、多分真正面から撃たれら避けれられる可能性がある程度。
そんな速さだった。
だが動かない相手には関係ない。
黒い玉は水晶ごと中にいる少年と聖剣を飲み込もと音もなく文字通り消し去った。
ちり一つ残さずに。
それを固唾をのんで見ていたヒロ君が小さくつぶやいた。
「これで、これで、もう、大丈夫・・・トリーさん」
トリーさんってのは誰か知らないがヒロ君の大事な人だろう。
彼に何があったのか知らないし、詳しく知ろうとは思わないがこれで何か大事な物をなくす未来が変わったんだと思う。
「あっすみません。ありがとうございます。おかげであんな未来を回避できました。初めて見ましたけどとんでもないですね。ところで」
視線は俺の放った魔法が飛んでいった方を向いている。
「アレは何時まで飛んでったんですか」
魔力収束砲は月のジャンを消し、その後ろの壁に穴を開け、さらにずっと向こうに全てを消して飛んでいったのだが穴の先が見えない。
どこまで飛んでいったのだろうか。
魔力がごっそりと無くなったせいで体がだるく頭の回転が鈍くなっている。
言われて見れば射程距離を考えなかった。
とにかく絶対に失敗の無いように全力で放った。
その結果がこれである。
「すまないが分からん」
一度放った魔法は解除できない。
今後は気をつけよう。
「そうですか・・・けど丁度いいですね、この穴北に向かってますけどこいつを進んで適当な所で上に穴あけて地上に出ましょう。外はあの馬鹿トカゲが出待ちしてるでしょうし」
「放って置いて大丈夫なのかアレ」
かなり怒っていたけど。
「構いません。所詮人の話を聞かないトカゲです」
中々辛辣である。




