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元社畜と量販店


 乗り物酔いはつらい。


 子供の頃は遠足が嫌いだった。


 移動はほとんどがバスのため200%酔って吐く。


 つまり皆が楽しそうに話したりする声に殺意を覚えながら目的地まで行く間に100%酔って吐き、さらに帰りで100%酔って吐く。


 酔わない奴らに無性に腹が立った。


 現地でバーベキューとかやっても帰りで全て吐く。


 何しに言ったのかと聞かれれば苦痛を味わいに行っただ。


 分からない奴には一生分からない。


 何が言いいたいかと言うと馬車は揺れが激しすぎる。


 ファンタジーではよく主人公達が利用する移動手段だが予想よりもずっと揺れる。


 ユラユラではなくガタガタと。

 

「すまない」


 王都へ馬車を利用して行く事になったんだが、あっと言う間に気分が悪くなって歩き旅に変更となった。 


 馬車の移動代金は帰って来ず、ヒロ君にはいきなり迷惑をかけた。


「いえ、仕方ありません。乗り物酔いとかアレルギーはどうしようもありません」


「君もか」


「俺は花粉症です。春先なんて地獄ですよ。薬飲んでも眠くなるくせに鼻水は止まらないんですよ。ある時ブチ切れて用法の五倍飲んでも駄目でした」


「そ、そうか」


 用法は守るべきだがその気持ちは良く分かる。


 俺も子供の頃から酔い止め飲んでも効いたためしがないし。 


 そんな事を話しながら特に問題も無く二週間程の歩き旅。


 すれ違う馬車や人も多くなって来た。

 

「何事もなかったな」


 ゲームでは街への移動中に襲われている馬車があってそこに助けに入るとか、あるいは主人公が襲われるとかあるもんだがそんな事は無かった。


「あったら困ります。街道ですから。この国の兵士が定期的に魔物を狩ったりしてますし」


「そりゃそうか」


 しかしその口調は何か気に入らない事でもあるかのようだ。


 それが非常に気になった。


「何か気になることでもあるのか」


「そうですね・・・」


 俺の問いに少し考えるそぶりを見せたがゆっくりと苦々しく話し始めた。


「大商人や貴族のお嬢様の乗った馬車が襲われてる所に遭遇する。相手は普通こんな所に出るはずの無い強力な魔物とか腕のたつ盗賊連中」


 お約束と言う奴だな。


「そんな場面と出会ったら貴方ならどうしますか」


「逃げる」

 

 当然だ。


「そうですね。俺もそうします」

 

 この世界に来たばかりでは例え女神から力を貰っていてもそれがその世界でどの程度か分からないのに突っ込むのは唯の馬鹿だ。

 

 もちろん向こうから向かって来たらやらざるをえんだろうが。


「けど物語の主人公は違う」


「そりゃそうだ」


「でも現実は甘くありません。ギルドで聞いた話ですが以前とある領主の馬車が突然変異したらしい二体の魔物に襲われた事がありました。護衛も殆どやられた時に助けに入った奴がいたんです。そいつは強力な火属性魔法の使い手だったんですが、相手の一体は火の魔法が効かない奴だったんです、で、あっさり死んだわけですが。そいつこの辺では見ない金のボタンの着いた黒い服、つまり学ラン着てたんですよ」


「学ラン、と言う事は日本の高校生。しかもこの世界に来た直後って事か」


「まあそうでしょうね。女神から強力な火属性魔法を使えるように加護を貰ってこの世界に来た直後にそんな場面に出会って、主人公っぽく行けるとか思ったんでしょう。助けた馬車には可愛い女の子がいて素敵ってなると。反吐が出ますよ」


 そう吐き捨てた。

 

 貰った魔法が火以外だったら結果も違っていたんだろうけど、ヒロ君の言うように女神から強力な力を貰ったから大丈夫と思ったか、或いは義侠心に駆られたか。


 それとも自分が死ぬなんて考えもしてなかったか。


 もしかしたらゲームやラノベの様にイベントとでも思っていたのかは分からないが、世界はその少年を中心に回ってなかった。

 

 それだけだろう。

 

 しかしこの世界に送ったばかりの人間があっさり死んで女神的にどうなんだろう。

 

 一度は生き返れるはずだが生き返ってまた死んだのか。

 

 ちなにみこの時間に来てから眠ってもローさんには会えなかった。


「おっ見えましたよ。あれが王都グラスです」


 巨大な壁に覆われた街と奥に見える城。

 

 正にファンタジー世界の王都。  

 

 一応街に入るには大きな門をくぐるのだが別にチェックとかはなかった。


「今日は宿に泊まって明日必要な物をそろえたら出発します。目的はこの街の北にある王家の森。その奥です」


「それは良いけど、やけににぎやかだな。祭りでもやってるのか」


 あちこちで屋台が出ているし皆楽しそうだ。


「そうですね。年に一度の闘技大会の時期ですね。腕に自信のある命の惜しくない馬鹿共がやりあってます」


「へえ、それってさっき言ってた高校生とかが出てるんじゃないの」


 ゲームやラノベのお約束だ。


 異世界に来た主人公は必ずそういった大会に参加する。


 すると彼はまたしてもとても嫌そうな顔をした。


「いたらしいですよ。かなりの剣の使い手だったんですが、本選でバッサリ斬られて痛みで泣き喚いて棄権した奴が」


「泣き喚いたねえ。痛みに耐性がなかったのかな」

 

 よほどばっさりいかれたのか。


「いえ、つまり女神から何かの加護を貰ってインスタント的に強くなったんですよ。それで周りから凄いとか言われて調子に乗って闘技大会に出て大怪我して初めて現実を知った。それまで精々切り傷程度しか受けた事がなかったようです」


「なるほどね。そいつはきっと仲間はみんなかわいい女の子ばっかりだったんだろうな」

 

 目に浮かぶようだ。


「よくご存じで。そして大会では死んでも良いと誓約させられるんですよ。賞金はたしか一千万カナ。それと一代限りですが貴族の位とか与えられるので本気でガチの連中が出るもんです。よほどの加護でも無い限り、そんなインスタントな奴が勝てるほど甘くはありません」


「君は」


「俺はどっちにも興味がありません」


「だと思ったよ」

 

 多分彼は余程の事情が無ければそんな物に参加しない。


 金には困っていないようだし貴族になるなんて何の魅力も感じないだろう。

 

「でも祭りなんてやってたら宿は何処も満室じゃないのか」


「あっ、そうですね。忘れてました。タイミングが悪かったですね」


 するとどうなるか。


「道具を揃えて飯食って街を出ましょう」


 こうなるわけだ。


「宿でゆっくり出来ると思ったんだが。仕方ないな」


「はい。そこに道具屋がありますから必要な物買って行きましょう」


「道具屋ってアレか」


「アレです」


 最初に立ち寄った街、セカイエと言う名の街にあったのは様々な道具屋だった。


 魔法の力を持った道具を専門に扱う物もあれば、武具の専門などだったがどれも精々コンビニくらいの大きさの店だった。

 しかし今目の前にあるのは他とは比較にならない大きな店だった。 


 店の前にはこっちの文字でショップエチゴと書かれた大きな看板がこれでもかとデカデカ飾られていた。


 中を少し覗けば品揃えは豊富でちょっとした小物から魔法の道具まで大抵の物が売られていた。 


 量販店っぽいので品揃えも良さそうだが店の名前が問題だ。 


「ショップエチゴ。つまり越後屋だよね。時代劇でよく悪代官と悪い事する」


「そうですね。俺もよくお世話になってます」


「この店の社長と言うかオーナーってもしかして」 


 名前からして日本人が関わっていると見るべきか。


「一代でこれを築き上げたやり手と言うのは聞いてますが、そうであったとしても問題無いでしょう」


 店内は大勢の客がいて棚を見るとセカイエの道具屋でも見た傷薬が少し安い。


 確かに客として見るなら何も問題は無い所かありがたい事だ。


「まあ・・・そうだね」  


 だがヒロ君にとってはそうでも俺にとっては分からない。

 

 敵対する可能性があるからだ。


「気になるんですか」


「少しね」


「そうですか。けど下手に突くと面倒が起きる可能性もあります。どうしてもと言うなら調べる方法が無い事も無いです」


「それってどんな方法かな」


「それは・・・って、アレは!」


 ヒロ君何か見つけたのかが突然早足で歩き出した。

 

 慌てて着いて行くと食料品の棚を抜けて新商品と札が付けられた棚に並んでいたそれは俺もよく食べていた物だった。


「カップラーメンだと」


「お、おおお! ラーメン!」

 

 余程嬉しいの小躍りしそうだ。

 

 どうして西洋風ファンタジーの世界にインスタントのカップラーメンがあるんだ。

 

 世界感はどうした。

 

 だがこんな物を売るのならやはりトップは日本人か。 


「未来には無かったのか」


「あれ、そう言えばありませんでしたね」


 手にとって見ると見た目は普通のカップラーメンだがずっしりと重い。

 

 入れ物が金属製だ。

 

 それに値段を見て驚いた。


「一つ千カナだと」


「高! 高すぎる!」


「蓋を開けるとお湯を入れる必要も無く熱々を食べられる。けどこれは流石に」


 お湯も要らないなら何処でも食べられるから便利だろうけど嵩張るし、一つ五千円以上するカップラーメンなんかこの世界で物珍しさ以外で誰が買うのか。


「この値段。発売中止になった打ち切り商品か。どうりで見たこと無いと思った。けどいくつか買っていきましょう」


 ここに居た。


 たしかに日本人なら買うかもしれない。

 

「待てヒロ君。これを買ったらマークされるんじゃないか」


「えっ、ああ、俺は平気ですけどカイさんは何かありますか」


 チョーカーをトントンと叩きながら軽く聞いてきた。


 彼の着けているチョーカーは魔法の道具で、身につけている者に対する認識をずらし力がある。


 俺には通用しないが、端から見ると彼はヒロ君ではなく印象に残らない誰かに見えるらしい。 


 だから彼は平気だろうが俺はそうも行かない。 


「こんな店を構える相手だ。善人とは限らないだろ」 


「女神から力を貰った人間を利用するとかですか」


「他に無いものは金になる」


 勤めていた会社も少しずつ商品を増やして新しい客を取り込もうとした。


 この世界で他の人にない強力な力なら使い方しだいでは大金を得られるだろう。


「なるほど分かりました。残念ですが諦めましょう」


 あっさり引いたな。


 さっきの様子から余程ラーメンが食べたいのかと思ったんだが。


「こう言うのもなんだけど良いのかい」


「面倒ごとは避けるべきですから。では必要な物揃えて出発しましょう。王都からなら三日もあれば着きますよ」


 三日か。

 

 そろそろ野宿にも慣れてきたがさっさと終わらせたいものだ。 




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