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元社畜探索者になる


 探索者ギルド


 俺のイメージではゲームでよくある酒場だった。


 しかし街の中心部に位置しているらしいそれは木造ではあるが三階建ての市役所のような外観だった。


 多くの人が出入りし、やはり武具を身に着けた人が多い。


 探索者ギルドカダル支店と書かれた看板が大きくかけられていて入口も大きかった。

 

 予想していたのとは少し違うが早速中に入るとしよう。

 

 少し身構えていたわけだが中は思いの外綺麗でまさしく市役所だ。  

 

 一番近くの総合受付と書かれた窓口に向かうと年の頃は二十歳くらいの女性が迎えてくれた。


「探索者を始めるための登録に来ました」


「新規登録ですね。三番窓口へどうぞ」


「どうも」


 職員の対応まで市役所だった。

 

 言われた三番窓口へ行くとやはり二十歳くらいの女性が対応してくれた。



「探索者の登録をお願いします」


「新規登録ですね。ではこちらに必要事項の記入をお願いします」


 書類を渡されたが読めないと思いきや、読みたいと思うと何故か理解出来た。


 読み書きが出来なかったヒロ君には悪いが、日本語ではない何かなのに読めるし書けるので必要事項を記入して行く。

 

 特技や魔法の有無など一通り書いて提出した。


「はい。カイ・オスヤさんですね。ではこの目をお持ちください」


「目ですか」


「はい、こちらを」


 渡されたのは握り拳くらいの水晶玉だった。

 

 これはなんだろう。


「では質問に答えてください。貴方は罪の無い人を殺したり盗んだり等の法で裁かれるような罪を犯しましたか」


「罪か」


 少し考えてみよう。 

 

 殺しに盗みは無いが他はどうだろうか。

 

 そう言えば同じ業界に勤めていた友人が詐欺の容疑で裁判を起こされていた。

 

 俺も顧客の嫁さんから詐欺師と罵られた事があった。

 

 しかし裁判になるような事はなかったし詐欺ではない、はずだ。


「ありません」


 手の中の水晶玉が青く輝いた。

 

 何だこれ。


「ではギルドの宿についてご存じですか」


「いいえ」


 ギルドの宿ってなんだ。


 また水晶玉が青く光った、


「はい結構ですよ」


 手を出されたので水晶玉を返す。

 

 これはアレだろうか。

 

 魔法的な嘘発見器。


「当ギルドは貴方を歓迎します。ギルド証は一万カナですがよろしいですか」


「はい」


 聞いてはいたが結構高い。

 

 ヒロ君に会ってなかったら日雇いの仕事でもしないといけなかったな。

 

 必要経費として袋から金貨を一枚出して渡した。

 

 装備品に登録料と最初から金がかかる。

 

「はい確かに」

 

 渡した金貨は一枚一万カナで日本円で五万相当。

 

 しかもこの世界にはさらに高額の金貨があり、中には一枚百万カナのやつもあるらしい。


「通常のギルドの証は指輪になります。非常に硬くて歪んだり壊れる事はありませんがそれでよろしいでしょうか」


「他に有るんですか」


「はい。少し前までは指輪だけでしたが、格闘を得意とする方が指輪を壊してしまわれまして、新たにピアスタイプが作られました」


「格闘ですか」 


「はい。でもその方だけですよ壊したのは」


 格闘スタイルだから素手で戦うのか。


 しかし実際に魔物相手に殴る蹴るは良い事無いと思う。


 リーチが短いし相手を殺す事を考えれば武器を使わないのはだめだろう。


 格闘の達人でも無い限り相手を一撃で殺すのは難しいが剣を使えば素人でも相手を殺せる。


 ゲームでは素手で戦うキャラが出てくるが現実は甘くないと言いたい所だがここは剣と魔法の世界だからそういった戦闘スタイルもありなんだろう、多分。

 

「では指輪でお願いします」


「はい。ではこれを利き手ではない方の中指にはめてください」


 渡された金属製の簡素な指輪を嵌めるとぶかぶかだったのにぴったりと締まった。

 

 これも魔法の技術なんだろうな。


「当ギルドでは魔物から得られる魔力結晶の買い取りが主となっております。もちろん魔物の素材の買い取りも行いますが、カダル周辺には高額な素材となる魔物が少ないため殆どの方が迷宮へ向かわれますが、全て自己責任となります」


 カダルとはこの街の名だ。


「自己責任」


「お金欲しさに無理をして命を落とす方は後を絶ちません」


「お金・・・。そうだ、魔力結晶は最小と最大でどれくらいの値段になるんですか」


 もちろん俺は迷宮に行く。

 

 そうなるとどれくらいの稼ぎを得られるのかが知りたい。

 

 ヒロ君の話では相当稼げるらしいが詳しい話はギルドで聞くように言われていた。


「最小ではランクが付けられない様な小さな物です。主に一、二階層の魔物を倒せば得られますが小指の爪の先くらいの大きさで目を凝らさなければ見逃してしまう程です。当然内包している魔力も微々たる物で買い取り価格は十カナ程度です」


 それは無視していくべきだな。


 多分少し下に行く奴らも放置していくはず。


 だがそれはそれで集める専門みたいな連中がいそうだ。


「最大ですと、そうですね、最近ではセカイエでSクラスの魔力結晶の買い取りがありまして、4億カナでの買い取りでした」


「4億!」

 

 つまり二十億円相当。


 宝くじが当たっても届かない金額を冒険で得るとはなんとロマンがある話だろうか。


 だが一つでその値段なら余程の相手だろうし、そこに至るまで装備や道具などいくら注ぎ込んだのか。

 

 それに何人で戦ったのかとか、全員が五体満足で終わったのかとか気になる事は沢山ある。

 

 しかしそれらを置いて、例え五、六人のパーティーでも生き残った人は一生遊んで暮らせるだけの金を得ただろう。


「その方は現金は当時セカイエのギルドの保管金八千万カナで良い代わりに強力な魔道具が欲しいと言われましたので、探索者ギルド本部が保管していました三つの魔道具をお譲りしました」


「その方って事は一人ですか」


「はい。その方はずっとソロで活動されてました」


 そいつは勇者か何かか、それとも縛りプレイでもしているのか。

 

 縛りプレイとはゲームでこう言った行動をしないと、自分で制限をつけてゲームをする事である。

 

 それによって得られる物は無いがある意味ゲームを楽しむ手段だ。

 

 しかし現実に命を懸けてやる物ではないから何か理由があると見るべきか。


「魔道具ってのは」


「一番安い物は二千万カナ。あとの二つは一億くらいの価値かと」


 そんな意味で聞いたわけではないんだがまあいい。


 魔道具ってのがたぶん魔法のかかった不思議な道具って事だろうし。

 

 だがそれでも三億だ。 


「足りないな」


「はい。しかし魔道具は他に類を見ない物なので人によって価値が違うので何とも」


「なるほど」


「他に何かありますか」


「魔力結晶のランクについて、さっきSランクと言ったけど」


「この街の迷宮は現在四十九階層が攻略の最下層となっております。そこでの結晶はBランクで一つ十万カナ、B+なら十五万カナで買い取りさせていただいております」


 敵一体倒せば円換算で五十万。


 何度も戦うだろうから一日で一千万もいけそうだ。


「迷宮は十階層毎に魔物の強さが大きく変わります。特に四十階層からは強さが跳ね上がりますので、そこまで行ける探索者の方はごく僅かです。三十九階層までで得られるCランクの結晶なら一つ一万カナで買い取りとなっております」


 一つランクが違うだけで買い取りの桁が変わるのか。


「Bの上がB+でその上はA。そのさらに上がA+ですか」


「はい。通常はそれが最高になっております」


「どうしてAの上がSなんですか」


 アルファベットを遡るならZに始まってAで終わるはずだ。


 ソシャゲのレアリティランクじゃあるまいし。


「ギルド設立当初に得られた最高の結晶をAに設定したのですが、後に現れた勇者様がそれ以上の結晶を持ち込まれ、A以上ならSにしようとおっしゃられたのが始まりとなっております」


「勇者が。なるほど」


 たぶんその勇者はきっと女神のカーナさんに転生させられたゲーム好きの日本人だ。


「他に何かありますか」


「宿について。探索者は宿はどうしてるのかと」


 ヒロ君は屋敷があると言っていたが、彼は探索者として成功した人間だ。

 

「ギルドが経営している宿が幾つかあります。内容によって値段が異なりますが、一番安い宿ですと大部屋で何もありませんが一泊二百カナです。しかしあまりお勧めは出来ません」


「うん、それは嫌です」

 

 駆け出しで金も無い連中の宿だな、


 盗みは当たり前におきそうだ。


「鍵付きの個室が用意されている宿は一泊千カナです。それに警備と食事が付く宿は一泊二千カナです。これは特に女性の方が好まれます」


「一気に値段があがったけど、食事は良い物ですか」


「割と好評です。以前は決められた時間内なら食べ放題だったのですが」


 表情が曇った。


「ある探索者の方が信じられない程食べられまして、そのサービスは終了しました」


「へえ、そんな人もいるんですね」


 フードファイターか何かだろうか。


「では最後にそれは初心者に割引とかないものですか」


 スマホの契約とかの感覚で聞いてみた。


「ギルドで運営している宿やあるいは提携している宿は探索者を始めて半年間は半額になります。ギルドの宿を利用なさいますか」


 軽くあったらいいな程度だったのだが本当にあった。


 ヒロ君は教えてくれなかったが、もしかして知らなかったのだろうか。


 俺はもちろん使えるのなら使う。


「当然」


「ではこのカードをお持ちください」


 差し出されたのは名刺くらいの金属製のカードで日付の判子が押されていた。


 半年間半額とか知らないと駆け出しにはきついだろう。


「今の聞かなかったらどうなってましたか」


 宿の事を聞いたから半額を知った。


 聞かなかったら知らなかっただろう。

 

「探索者の全ては自己責任です。このカードは探索者登録日のみ発行いたします。またその事を知っている方は利用出来ません」


 受付嬢はにっこりと笑った。


 教えられずに考えろと。


「他に何かありますか」


「いや、十分です」


 一攫千金を夢見て命を懸ける連中が探索者と言うわけだ。

 

 何もかもが自己責任で馬鹿は自分の身を守れない。


 理解した。





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