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社畜とは


 人のために飼育されている動物を家畜と言う。

 会社に飼い慣らされ自分の意思と良心を放棄し奴隷、家畜と化したサラリーマンを社蓄と言う。 

 これはそんな社蓄だった男の物語である。




 社蓄の朝は早い。


 いつものように自然に目が覚めた。


 カーテンの隙間から差し込む光は弱くまだ外は薄暗い。エアコンを入れっぱなしで寝てしまったせいで寒さに少し身震いし、いつものように枕元にある目覚まし時計のアラームのスイッチを切る。

 

 この目覚まし時計のアラームは5時30分にセットされているが最後に役割を果たしのはいつだっただろうか。

 

 時計はいつものように5時を指していた。俺は何時も同じ時間に目が覚める。

 

 例え何時に眠ろうともどれだけ疲れていようとも。

 

 頭が鈍い痛みを訴え目蓋が重いが頭は眠気を訴えていない。

 

 いつもの朝だ。


 会社に行きたくない。

 

 のろのろとベッドから降りて風呂場に向かい頭から熱いシャワーを浴びると

少しだけ気分が良くなった気がした。


 冷蔵庫から栄養ドリンクを取り出して一息で飲み干し、続けて缶コーヒーで口に残る不味さを流し込んだ。

 

 スーツを着て髪を整え髭をそり、郵便受けから新聞を取り出して経済欄を開いて値動きを確認する。

 

 次にパソコンの電源を点け大きな事件が無いか探し、カロリーメイトをかじって水を飲む。


 時刻が6時を過ぎると頭の中が1つの事で一杯になる。

 

 会社に行きたくない。


 行きたくない。

 

 本当に行きたくない。

 

 毎日思ってしまう。

 

 火事で会社が燃えないかなと。あるいは飛行機が会社に落ちてこないかなと。

 

 ダンプが突っ込んでもいい。ガス爆発でもいいとにかく会社が無くなって欲しい。 

 

 重い足取りで部屋を出て自転車にまたがり駅まで走りそこから電車に30分程揺られ神戸駅に到着。

 

 そこからどんどん重くなる足で歩く事5分。

 

 ついに会社のビルに到着してしまった。

 

 嫌で嫌でたまらない。

 

 学生の頃仕事に行きたくなくてコンビにで買った飲み物に自分で何かを入れて警察に通報した人の話を聞いて馬鹿じゃないかと思ったが今ならその気持ちが分かる。

 

 それでも俺はエレベーターに乗り3階で降りて勝尾株式会社と書かれた職場のドアを開けた。

 

「あっ雄矢さんおはようございます」


「おはようございます!」


「ああ、おはよう」


 まだ7時前だがすでに職場には新人の2人が来ていた。

 

 うん、2人だな。 

 

 背の高い方が古見で元気の良い方が磯崎。


 どちらも営業2課の人間だ。


「伊達は? 一緒じゃないのか?」


 伊達とは俺のいる営業1課の新人である。


 俺の問いに2人は顔を見合わせた。

 

「まだ着てないみたいです」


「まだ・・・そうか」


 嫌な予感がした。



 8時を過ぎて課長や係長が来ても伊達は来なかったし連絡も無かった。


 これは駄目かもしれんな。


「おい雄矢。伊達はどうした?」


「いえ、連絡ありません」


「電話しろ」


「はい」 


 偉そうに課長が言った。


 自分でしろよクソが。

 

 仕方が無いので携帯に連絡してみるとコール音がなり続け、出ないかと諦めかけた所で伊達が出た。


「雄矢だ。どうした?」

  

 しかし返事が無い。

 

「病気か? それとも寝坊か?」


 だがやはり返事は無い。


 それどころか向こうから何やらすすり泣く声のような物が聞こえた。

 

 どうしたものかと思っていると、横から課長が受話器を奪い取った。


「お前何しとんじゃ! はよ来い!」


 このクソ課長は相手の話を聞こうと言う気がまるで無い。


「あ? ふざけんな! ええから来い! 分かったか!」


 伊達が何か言ったのだろうが結局これだ。

 

 課長は乱暴に受話器をたたき付けた。


「伊達の奴どうしたんですか?」


 大体分かるが一応聞いてみる。

 

「あいつ辞めますとか言いやがった!」


 課長は不機嫌そうに大声で言った。

 

 ああやっぱりな。

 

 これでまた俺の後輩がいなくなる。

 

 今年こそはと思ったんだが駄目だったか。

 


 

 社蓄の上司はクズである。


 1時間ほどして伊達が現れた。


 どうして来るかな。


 来た所でどうせお前が悪いと言われて終わるだけだと言うのに。


 伊達は課長と支店長に連れられて個室へ。


 ドアが閉まると途端に課長の怒鳴り声が社内に響き渡る。

 

「お前みたいな奴はどこで何しようと続かんわ!」


「何がもう無理じゃ! お前まだ仕事らしい事してないやろが!」


「散々面倒みたったのに悪いと思わんのか! あやまれ!」


 うっせえな。


 聞きたくないが聞こえてくる内容に反吐がでる。


 伊達が無理とか言うのはお前のせいだろが。


 大体お前が何の面倒みたよ。


「お前もう辞めるから仕事せんでいいと思ってんのか? 残念でした~。月末まできっちり仕事しないと駄目段です~」


 うっざ。


 言い方がいちいち腹立つ。 


 伊達の奴課長殴ってくれないかな。


 と言うかむしろ殴れ。

 

「おい、カイ」


「はい」


 俺に声をかけて来たのは1課でたった1人先輩と呼べる浅野さん。


 俺を下の名前で呼ぶのはこの人だけである。 

 

「お前知ってた? 伊達の事」


「いえ全く、と言いたい所ですが」


「あんのかい」


「日に日に目が死んでいくんでどうかなとは思ってました。アイツは酒は好きじゃないと言ってたんでたまに昼飯くらいは良い物食わせてましたし、飲みとかには連れて行かないようにしてましたけど、先週末に課長に無理やり飲みに連れてかれたんですよ」 


「あれか。俺達が営業で外に行ってた日か」


「そうです。後から聞いたんですけど、何か芸やれとか新規が取れないのは気合が足りないからとか。上司との飲みなんて結局仕事ですから。まして酔った課長と主任に挟まれるなんて最悪でしょ。それが色々溜まってた所に止めになったかと」


「ああ、いつもの奴か。俺とかお前なら右から左に流すけど」


 そう、いつもだ。


 営業成績がいまいちの月は新規顧客が取れないのは気合が足りないとか、気合があれば1件くらい取れるとか、客を騙してでいいから取って取って来いとか。


 酒の席では何か芸をやれとか言うし、主任はそれを止める所か煽るクズ。


 酒の嫌いな奴を、まして疲れてる奴を無理やり飲み屋に連れてって文句ばっかり言って理不尽に怒る。


 それで去年新人が辞めたのでそうならないように気を使っていたが俺達がいない時に同じ事をやってこれである。 


 どこまでアホなんだよ。


 伊達は結局泣きながら帰って行った。

 

 もう二度と会う事は無いだろう。

 

 これでまた俺がこの課の1番下に戻ったわけだ。


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