8 何があっても
み、短い…
本当に夢のようだった。
小さい頃からの婚約者であったが夜にたった二人だけで護衛もつけずに歩いたことなんて今まで無かった。
もちろん、自分の身分的にはあってはいけないこと分かっているが憧れがなかったわけではない。だからこそ喜びは大きいものだ。
生誕祭ということでそこらに舞う光の粒が美しい。月の光に反射してる様子がとても神秘的である。その中で頬を染め笑みを浮かべているルーナは言葉では表現できない魅力を放っている。これは恋する人間の目や頭の問題ではないだろう。
王宮の隣に位置する小高い丘。ここが一番ひらけていて二人で過ごすにはちょうどいい。万が一見つかった時に咎められにくい距離だと選んだ場所だ。
二人で手を繋いでたわいもない話をしながら目指す。
生きてきた中で3本の指に入るくらい幸せな時間だった。
ここで改めて結婚を申し込もう、そう決めていた。
今度は自分の言葉で、ルーナとの結婚を望んでいると彼女の目を見て伝えたいと。人の目がある中では王族という枷がうまれる。全てが本当の言葉だとは伝わらないかもしれない。二人きりの今夜が好機だと。
この先二人で歩む未来により多くの幸せを。今日伝える言葉が彼女を支える言葉になればと、そう思っていた。
丘の上に立つと辺りの光が濃くなっていく。俺たちを祝福してくれているのか、などと2人で笑い合っていた。
だんだんと眩くなっていく視界に思わず目を細める。
一際強い風がふいた。
次に目を開けた時そこには見たことのない何かがいた。
———トート…?
となりで呟く声が聞こえた。
禍々しく映る"何か"をもう一度みて、これが精霊トートか、と初めて認識するととともに大きな衝撃を感じた。
最後に記憶しているのは美しい顔を崩して泣きじゃくる愛しい人の涙だった。
身体の内側が燃えるように痛むのを感じながら俺は意識を手放した。
どうか、何があっても、君を幸せにするのは自分であるようにと願いながら。
やっと1に帰ってきました。