5 一人の決意
進みません。すみません…。
あまり公にしたくない、そう話す宰相の声音は少し冗談じみていたがその表情は少しこわばっているようだった。
「―精霊を引き合いに出すとは、何か気になることでも?」
いつもと違う雰囲気をまとう宰相に何かあると思った王は先を促した。
「…ルーナの容姿は人目を引きます。良くも、残念ながら悪いほうでも、ですが。それはもちろんレオン殿下にも当てはまることです。ふたりは目立ちすぎる。利用しようと悪意を持つ者も現れてくるでしょう。
先ほどの様子を見ていれば、これから先、ルーナはレオン殿下の弱点となり得る。この国の未来を背負う二人が魔法の制御を身につけ、多少なりとも己の身を己で守れるようになってからの発表がよいと私は思います。
…人の力を凌ぐ精霊たちと契約を結んで殺しをするものもいますから。」
「確かに、精霊の力を使われると難しいこともあるかもしれないな。」
ここ4~5年、精霊たちの動きがおかしいという報告も受けていたため納得のいく理由だ。
しかし乳母兄弟の浮かない表情やかしこまった口調が少し気になるところだが無理に聞き出そうとして素直に話してくれるようなやつではない。
タイミングがあれば聞き出してやろうと王は違和感を頭の隅に追いやった。
「それでは婚約はひとまず内々でやってしまおう。公に出すのは…ルーナのデビュタント直前にしようか。社交界出てしまうと変な輩がつくかもしれないからな。」
「お心遣いありがとうございます。デビューは遅くとも16にはした方がいいでしょう。密かに婚約していたからと言っても婚約発表しすぐに結婚とはいきませんし。それまでに王妃教育と魔法の鍛錬ですね。」
―よろしければマルクさま付きの護衛に訓練をお願いできますか。
―ああ、ジュードか。あいつはいいな。ルーナと気が合いそうだ。
すっかり仕事のように話し始めた父たちを見つめながらほとんど空気のようになっていたデルフィオは、ずっと抱いていた違和感について考えていた。
精霊王について話すときの父の様子はおかしい気がしたような。最近父が精霊たちについて詳しく調べているのも関係しているのだろう。
決して謀反や殺人を考える人ではないと分かっているものも、切羽詰まった様子で遅くまで調べ物をしたり、精霊の森の方まで視察と言って出向いたりしている姿をみると何かがあるのではと思ってしまう。
なにより引っかかっているのは一年前のあの日。
ルーナの件で口を滑らせたとき、すごい剣幕で叱られることを予想して父の書斎に向かったデルフィオは拍子抜けた。
あんなにルーナを王家に入れたくないと駄々をこねていた父が、デルフィオの報告を受けて少し安堵したようだったから。
「そのほうが彼らも近づけないか」
あの日父が呟いた真意を、デルフィオはまだ理解できていない。
デルフィオから己の失態についての報告を受けた日の夜。
一人、胸につよい誓いを立てるものがいた。
精霊の森の方角を見つめるアメジストの瞳は鋭く、強く握りしめた彼の拳はしろくなっていた。
次は少し長くなる予定です。
主人公が出てきます。成長します。