3 落ちた
結局ヴァルガンがごねたのでルーナに会うのは彼女が5歳になる誕生日になった。
本当に、本当にいやだ、という顔で謁見の間に現れたヴァルガンは、白のワンピースを身にまとった小さな少女を伴っていた。
やっと会えると思っていた時から1年近く待たされていたレオンは、少し緊張した顔でルーナの顔を見て、途端に顔に朱がさした。
一年前にデルフィオが自慢気に話していたとおりの美しい白銀の髪は肩につくくらいの長さでさらさらと揺れ、柔らかい紫、オーキッドの瞳はくりくりとしていて実に愛らしい。初めての謁見だからと少し化粧をしているようだったが、なくても十分に人目を引く美人だ。まだ幼いうちからこれほどの美貌だと、成長して社交界に出れば途端に男どもに囲まれるだろう。緊張しているからか長いまつげが震えている。庇護欲をそそられる姿だった。
「…は、はじめまして、レオンさま。ファウスト家の、ルーナといいます。ち、ちちうえとにいさ…あにうえのせいでごあいさつがおそくなってしまい、ご…もうしわけありません…。」
習いたての敬称や言葉に少し戸惑いながらルーナは小鳥のさえずりのような声で挨拶をし、かわいらしいカーテンシーをした。
そのかわいらしさに一瞬固まってしまったが、宰相の冷たい視線に気がつくと気を引き締めてルーナの方に歩み寄りほほえんだ。
せっかく会えたのにまた面会拒絶状態になるのはごめんだ。
レオンも傾国の美男美女とうたわれた国王夫妻の間に生まれた子であり、とても美しい顔立ちをしていた。デルフィオのような中性的な美男ではなく、甘く端正な顔立ちをしている。
まだ7歳なのに口角を少し上げるだけで顔が赤くなる侍女がいたりもした。
「初めまして、ルーナ嬢。僕はレオンです。ようやくお目にかかれて大変光栄です。宰相殿やデルフィオに聞いていたとおりにすごくかわいらしいお方でいらっしゃる。その優しい色の瞳をよく見せていただけませんか?」
レオンは少しでも印象をよくしようと必死になれない口説き文句を並べた。
首まで真っ赤にしている王子の姿は今まで見たことがなく、その場の誰もが固唾をのんでことの成り行きを見守っていた。
水を打ったような静けさがしばらく続いた。
二人はその間も見つめ合っている。
何も反応がないなと思ってレオンが不安げに小首をかしげると、ルーナはオーキッドの瞳をおおきくあけさらにじっと見つめ返し、あっと言って花がほころぶような笑顔を見せた。
「レオンさまのひとみはあお色で、とってもきれいです。おほしさまがひかるよるのおそらみたいでうつくしいわ!」
そのときの返しをレオンはよく覚えていないという。
―あのときは…本当に人って花をとばせるのだなと思いましたよ。
後々ヴァルガンはこう語ったそうだ。
こう、ぶわっ、て感じです。