襲来
警鐘と悲鳴が村中に響き渡る。
「ーー村人の保護が優先だ! 魔法か弓が使える者は対象の牽制、他は俺と共に回収するぞ!!」
カイトの指示の元、冒険者たちが迅速に行動する。
冒険者で村人の周囲を取り囲み、移動しながら回収を行う。
「やっぱり、弾かれて届かねぇ!!」
「クソっ、ツイてねぇな……。なんで、こんな大物がここにいやがるんだ!!」
冒険者たちが魔法や弓矢でいくら攻撃しても一切を寄せ付けないその魔獣は、獅子の胴体にワシの頭と翼を持つーー。
「「「グリフォン!!」」」
その群れであった。
そんな絶望的な状況で、唯一の救いなのはグリフォンたちが攻撃的で無いことだ。
周囲を取り囲み襲うでもなく、冒険者たちの正面で羽ばたき続けている。
「「「(何を考えている?)」」」
グリフォンは上位種に数えられるだけあって強く、知能が高いので人口を解する者もいると伝えられている。
それ故にグリフォンの行動に冒険者たちは困惑していた。
「ふむ。まだ、村には数名残ってるいる様だが……こっちへ向かっている様だし問題無かろう?」
「「「なっ!?」」」
「ぐっ、グリフォンが喋っただと!?」
「しっ、信じられん……っ!!」
集団の中からリーダー格らしい一際大きな魔獣が姿を見せたと思ったら、流暢な人語で話し始めた。
「単刀直入に申す。この村を我らに明け渡すがよい」
唐突に告げられる理不尽な要求。当然、村人たちからは反感の声が上がった。
「ふざけるな!どんな思いで村を守ってきたと思う!!」
「そうよ!やっとの思いで村を建て直したのよ!!」
「そうだ!そうだ!」
「【エアブレード】」
「「「ひっ!?」」」
グリフォンの放つ風の刃が逃げ道を断つ様に周囲を駆け抜けた。
「ならば、居場所を掛けて戦うか? 今ですらお主たちの攻撃は届いて居らぬというのに?」
「それはーー」
「我は構わぬぞ。やれると言うならやってみよ」
さらに攻撃は増すも、グリフォンたちは涼しい顔を崩さない。
「ゼイジャク。ゼイジャク」
「オサノショウヘキ、ゾクイチ」
「ヒトノコフゼイ、ヤブレルハズナシ!」
「ふっ、当然のことーーごはっ!?」
「「「オサァァァーーっ!?」」」
障壁を貫通した物で、グリフォンの長は落下した。
◆◇◆◇◆◇◆
少し前に遡る。
「上級魔法も防がれた!? 噂はだてじゃないという事かっ!!」
「コレは撤退も考えた方が……!」
「カイト、村人たちを説得しろ! このままじゃ、血を流す事になるぞ!!」
焦りを見せる冒険者たち。リーダーであるカイトは重大な決断を迫られていた。
「なぁ、そこのお兄さん。俺もアレに攻撃していい?」
「はいっ?」
「あれ? 煩くて聞こえなかったか?」
「いや、聞こえて……」
「なら、もう一度言うけどコレ投げ付けて良い? こちとらアイツにムカついているからね」
突然現れた青年の発言に困惑していると、彼はその手に握り締めた拳大ほどもある水晶の様な白い塊を見せ付けてきた。
「えっと、投げても良いけど無駄じゃ「良いんだね。じゃあ、投げるわ」ーーはっ、ちょっ!?」
忠告もむなしく、白い塊はグリフォンへと投げ付けられた。そして、案の定塊は風の障壁に弾かれて落下する。
「へっ?」
しかし、そこで異変が起こった。そのまま落下するかに見えた塊が謎の挙動をとる。
「ごはっ!?」
「「「オサァァァーーっ!?」」」
落下途中で真っ直ぐに軌道を変えて障壁を貫通し、グリフォンの身体にぶつかって爆散した。
その衝撃でグリフォンの長が落下し、一同は目を丸くした。
「うん。俺はツバキ様ならやれると思ってたぜ!」
「うわぁ……モロに地面と激突したよ」
「グリフォンよ。可哀想に相手が悪かったな……」
驚くグリフォンと冒険者たちだが、何故か村人たちはさも当然のようにその光景をあっさり受け入れてはじめていた。
「お〜い、他のグリフォン共。逃げなくて良いのか? 次は貴様らの番なんだが? なぁ、ユキネ」
「はい、逢瀬邪魔した罪を償って頂きましょう」
先程青年が投げた白い塊を両手一杯に抱えた少女が村人や冒険者たちにそれを配っていく。
「なぁ、知ってたか? 今日ってさ、俺たちの結婚初夜だったんだよ。つまり、お楽しみタイム中。それをお前たちは奪った訳だ。つまり……絶対に許さん!!」
手にした塊が砕ける様子からその怒りが伝わってくる。彼は改めて少女から貰い受け取ると。
「氷砂糖ーー投擲っ!!」
「「「うおぉぉぉぉーーっ!!」」」
状況について行けない冒険者たちを他所に、村人たちと共に次々と投げ付けた。
「ヒッ!? に、逃げーー」
危険を察したグリフォンたちが四散して逃げようとするが何故か空中で硬直、動けていたとしても謎の挙動で塊が襲い、彼らは次々に落下していった。
「「「ぎゃああぁぁーーーっ!?」」」
「「「んんっ!?!?」」」
青年だけでなく、村人たちも障壁を貫通した。
あれほどまで苦戦した強敵があっさり落ちていく様子に俺たち冒険者は開いた口が塞がらなくなるもの無理は無い。
数分後。全てのグリフォンが地へと伏した。
「「「うぅぅ……痛い……甘い……痛いっ」」」
しかし、風の障壁は今だに健在の様だ。彼らを護る様に地面へ後を刻んでいる。
「マジか。あのグリフォンたちを……」
「どうする? 今なら頑張ればトドメを刺せるかもしれないぞ?」
「ここは彼に任せよ」
趨勢を見極めんと皆が青年に注視する中、彼はグリフォンの長の前へと立った。
「さて、これからーー」
「【ストームウォール】!」
「「「なっ!?」」」
天まで届く竜巻が青年とグリフォンの長を飲み込んだ。
◆◇◆◇◆◇◆
「ーーどういうつもりだ?」
「……貴方に決闘を申し込む」
グリフォンの長は呻きながら無理やり身体を起こした。
「どうしてそうなった? 素直に帰ってくれるなら何もする気はないんだけど?」
「優しいな。貴方様は……」
「理由くらいは聞かせてくれるよね?」
「我らには帰る場所がない」
グリフォンの長が自分たちの置かれた現状を語る。
種の増加、狭い縄張り、食料難。そのどれもが急務であり、放置すれば部族の崩壊に繋がりかねないこと。
「ーー故に土地を移る必要がありました」
そんな折、枯れた大地がマナに愛された土地へと生まれ変わった。マナが豊富で有れば植物は良く育ち、動物たちが集まってくる。しかも、まだ縄張りという縄張りが存在しない事が決め手となった。
「なら、素直に森へ住めば……」
「住むだけでは遅かれ早かれ人族の争いになったでしょう。それにこの場にはマナを生み出す霊泉があるのです。危険を犯すだけの価値がある」
運が良いことに住んでいるのは人族。多少威圧すればあっさりと手に入るとグリフォンたちは考えいた。
「ですが、貴方様……神族がいたの想定外でした。しかし、無理承知!貴方を倒せば、後は有象無象。現に貴方が力を貸した者たち以外は、我らの障壁を突破することすら出来ていない。なので、戦って頂きます!」
「好戦的過ぎるだろ!? もっとお互いに話し合う「【エアブレード】」ーーうわっ!?」
死を感じて飛び退くと先程まで自身がいた場所を大量の風の刃が通り過ぎていった。
「【ストームパレット】」
「結界発動!」
結界の発動が間に合い、間髪入れず放たれた弾丸の様な収束した風たちを耐えることが出来た。
さて、どうする? 相手をするにも攻撃魔法はまだ習ってないぞ!?
使える魔法と言えば、防御魔法と生活魔法。後は、スキル由来の能力か……。
「うん? スキル?」
まさか、アレとか再現出来たりするのか?
自分の中のスキルへ問いかける様に意識を向けると求める答えは直ぐに浮かび上がってきた。
しかし、実際の威力や効果までは予想できない。やるからには確実に当たる状況が必要だ。
「よし、その勝負引き受ける! だが、引き受けるからには条件がある!!」
「……条件とは?」
「あぁ、そうだ。そもそもこっちは戦う気が無かったんだ。だからこそ、一発勝負。先に決定打を与え方を勝ちとしないか? この村の人には悪いが……アンタが勝ったら責任をもって俺が皆を連れてこの村を出る。俺が勝ったら森に住んでも良いから今後村人を襲わないと約束してくれ。なんなら共存なんてどうだ? 村人を護る抑止力とグリフォンたちの安住の地。いい感じな気がする」
勝手な約束で悪いが全滅するよりは良いだろう。彼らには手も足も出ない訳だし。うん、負けたら土下座でもなんでもして許して貰おう!
「ふむ良いですね。確かにこのままやっていて負ける可能性が高そうですし……受けて立ちます。ですが、これでは我らにメリットしか有りませんよ?」
「それなら勝てたら従魔になってもいい奴を紹介してくれないか? 空を飛べる仲間が欲しいだ。勿論、高待遇を保証するよ」
「わかりました。交渉は成立です」
「助かる。お互いに死なない程度に全力で戦おう? ……殺さないでくれよ?」
さて、使えるものは何でも使おう。出たとこ勝負になるが負ける気は一切しない。
とはいえ緊張感で心臓は高鳴るし、銃の様に構え指は少し震えている。
スキル【原子操作】
「対称金属の招集。粒子加速を開始」
指の先で光球が生まれ、放電と共に大きさがどんどんと増してーー。
「先に行かせて頂く!【ストームブレス】!」
先に準備が整ったグリフォンの長は自身よりも大きく、景色が歪む程に圧縮された風の塊を放った。
「私の勝ちーーツッ!?」
「【荷電粒子砲】」
準備が間に合い光球からエネルギー砲が放出された。直前まで迫っていた風の塊は難無く貫き霧散させる。
「あっ!」
そこで自身のミスに気付く。
マズイ!? 位置がっ!!このままではグリフォンの顔に直撃してしまう!?
「ううっ!? うぉおおぉぉーーっ!?」
グリフォンは必死な形相で頭を少し逸らす。
レーザーが角すらも貫き、そのまま竜巻の外まで駆け抜けていった。
ドスッ!!
根元が融解したグリフォンの角が地面へと突き刺さる。
「……我の負けです」
敗北を口にするグリフォン。勝利を告げる様に周囲を取り囲んでいた風の檻もゆっくりと消えていき、差し込む朝日が目にしみた。
「眩しい……」
どうやら長い夜は終わりを迎えた様だ。
「ツバキさん!!」
ユキネの呼ぶ声がいの一番に聞こえてきた。彼女が無事な様で安心した。
「それじゃあ、勝った訳だし。約束は守ってね」
「承知しました。従魔の件、我がなっても?」
「それは頼もしいな。よろしく頼むよ。さて、グリフォンたちとの住み分けだけど……」
後にした方が良さそうだ。グリフォンたちが周囲を取り囲み威嚇の声を上げている。
「鎮まれ!我らグリフォンはこの地のモノたち共存する事と相成った!!」
「「「「!?!?」」」」
長の言葉にグリフォンだけでなく、村人や冒険者たちも揃って目を白黒させる。
俺はグリフォンの長との話を経緯を交えて彼らに説明した。
「ーーそんな訳で彼は俺の従魔になって」
「我らグリフォンはこの村を守護し、共に生きる事となった」
「という訳で、今後共よろしく!」
「「「いや、何でそうなる!?」」」
「「「ツバキ様、すげぇえぇぇっ!!」」」
こうして、この村の厄災は冒険者たちの激しいツッコミと村人たちの驚きの声と共に幕を降ろしたのだった。
バトルはアマツマガツチ戦のイメージでよろ。