魔法陣書
明日も引き続き投稿します。
魔法陣書
「へぇ〜ここが王立学院ね……」
俺は今、学園都市の王立学院の外に居る。数週間をかけ、学園都市に到着したのだが、ルルたちが宿を取りに行ったので俺のやることが無くなってしまった。要は暇だから合流予定の三時過ぎまでは街を見て回ろうということで試しに王立学院の近くまで来てみたのだ。
さすがにこの国の中でもかなり高い位置の学校なだけあって衛兵などによる警備が凄いが、イメージアップの為なのか大通りに面したグラウンドで行っている授業は柵を挟んで自由に見れるようになっている。
俺はその柵の横を歩きながら魔法の訓練を行っている学生たちを見つめる。
みんな的に向けて火の玉や水の玉を放っている。もしも何も無ければ俺はルルに付いておそらくここに来ることになっていただろう。どちらにせよ魔法は使えるようになったのかはわからないが、魔法陣以外で現状未だに魔法は使えていない。だからああやって魔法を使えているのをみると羨ましかったりもする。
「魔法に興味がおありですかな?」
うわっ、びっくりした!
いきなり後ろから声をかけられて振り返ってみたら思ったより近くに見たことのないおじいさんが立っていた。
「おやおや、驚かせてしまいましたな。初めまして、私はこの学院の校長を務めておりますベンと申します。以後お見知りおきを」
「あ、はい。これは丁寧にありがとうございます。私は赤タグ……いやまだ緑タグですがハンターのヤマトと言います」
危ない危ない、嘘をついてしまう所だった。中間都市で俺とルル、シャリアは赤タグに昇格が決まっていたのだけど昇格そのものは王都でやりたいとこっちがワガママを言ったのだ。
「なるほど。その若さでハンターとは……何かしら理由が……いや、ハンターにこの質問はタブーですな。失礼いたしました」
ふむ、身長は百六十セールあるくらいで歳は七十歳くらいだろうか。でも腰は曲がってないし話し方もはっきりしている。服装も立派なローブを着ていていかにも偉い人っぽいのだが、派手すぎない色で落ち着いている。それに、ローブで上手く隠されているが、足の位置がすぐに動けるようになっている。バナークさんから構えなどを見破る術も叩き込まれたものだ。
「ここは貴族や平民といった地位に縛られない万民、学ぶことを望む者は拒まずを受け入れる学院なのです。例えば魔法と言っても様々ありましてね。あのように杖などの媒体を介して魔法式を唱えるものを言語魔法と言うのです。そして、あなたの着けているその胸当てにある魔法陣は俗に刻印魔法と呼ばれ、今では廃れてしまったものです」
俺はその言葉を聞いて、瞬時に二歩ほど後ろへ下がり、すぐに動けるよう簡易的な構えをとった。
「構えなくともいいですよ。私には少々特技がありましてね、魔法を見破るということができるのですよ。と言っても易しいものだけですがね。しかし、言語魔法と魔法陣による刻印魔法ではそうですね……波動とでも言いましょうか、それが違うのですよ。言ってしまえば言語魔法は細かな薄い波動、刻印魔法はゆったりとした厚みのある波動なのです」
波動?薄さや厚み?
イマイチ想像しづらい表現を使っているが要はルルが普段使う魔法は言語魔法で、服に掛けてある魔法陣の魔法が刻印魔法であり、別物ってことかな?
「あなたはどうやら刻印魔法を使うことに長けていそうです。本来なら入学してもらって私自身が教えたいところですがそうもいかないご様子。なので、これをお渡ししましょう」
そう言って渡されたのは立派な装丁が施された年代物っぽい雰囲気のかなり厚みのある本だ。どこから出したのかはわからないが市販されてる漢字辞典くらいの厚みはある。それに結構大きい。ほんとこれどっから出したんだ?
「あの、こんな立派なもの貰ってしまっても?」
手に持った感触はかなりずっしりとしていて、見るからに価値のあるものだ。俺みたいなハンターにポンと渡していいものなのだろうか?
「良いのですよ。この学校でも魔法陣科は既に廃止されましてね。いくつか残っていた本は既に王都の図書館に送られています。これは私が個人的に書いた魔法陣の全てともいえるものです。今思えば私はあなたに渡すために書いていたとも言えるわけですね。難解で仕方がない本を可能な限り分かりやすくするのは骨が折れましてな。それを貰って頂けるならば私自身もそれにその本も嬉しいですしね。魔法陣は言わば万能です。使い方次第でなんでも起こすことができる。あなたは決して使い方を間違えないでしょう」
なんか物凄く信頼されてるが……それはそれで結構光栄だ。
「そこまで言っていただけるなら喜んでお受け取りします」
「はい。是非、役に立ててください。……あ、そうです。一つ助言を差し上げましょう」
助言?
「魔法陣というのは陣の大きさで効果が変わりますが、一文字一文字にどんな意味を込めるかでも効果は変わります。例えば火を表すルーンを刻めば火は出ます。大事なのは組み合わせです」
「組み合わせ……ですか」
「はいそうです。よーく考えてみてください。ああ、もう一つ言わなければならないことが」
言わなきゃいけないこと?
ポンと手を打って彼は話し始めた。
「私はその本をあなたに預けるのに対価は頂かないつもりでした。ですがお願いしたいことが」
「お願いですか?なんでしょうか?」
こんないい本を貰うのだ。お礼として自分にできることならなんでもやるべきだろう。
「では、あちらの丘が見えますかな?」
彼が指さした方には確かに小高い丘があった。花が咲いてるっぽいから公園がなにかだろう。あそこなら街を見下ろせそうだな。
「あちらの丘の頂上に行っていただきたいのです」
丘に何かあるのか?
「これは一種の老婆心のようなものですがね。あなたにとって良い出会いがあるかと」
「良い出会い……ですか」
「ええ。何事も経験からわかるようになるのですよ。行く行かないはあなた次第です。ここまで言っておきながらですがね」
彼は苦笑しながらそう言った。
「わかりました。あの丘に行ってみます。見たところ、景色も良さそうですしね」
「そうですか。では私はまだ仕事があります故、あなたの旅に幸多からんことを」
彼はお辞儀をしてその場を去っていった。
俺は貰った分厚い本を一旦背負っている魔法袋にしまうと、お願いの通りに小高い丘の方へ歩き始めたのだった。
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