旅立ち
今日の更新です。
「この街とももうお別れだね〜」
ルルが体を揺らしながら貿易都市から出発する時と似たようなことを言っている。
でもこの街には結局半年近くいたけども長いようで短くも感じた。
結局、例の龍討伐の報奨では赤煉龍の鱗などの素材に加えてミスリルが二百キロ……二百キグラ程貰えた。そんなに貰ってもしょうがないし、ただでさえ軽い金属なのだから量も桁違いなのだ。
ここまで量があると普通の魔法袋では収まらないので、領主のバルムントさんが特注の魔法袋で、容量が三十立法メール程の物を作らせていた。ちなみに俺が彼をギルド長兼領主だと判断した理由は簡単で、貿易都市のギルド長曰く、ギルド長にはこの街の資源には干渉出来ないのだ。街の重要な資源のミスリルをポンと出してくれるような人物は領主程度だろうというわけである。
「魔法袋が特注とはいえここまで大きいとは思わなかったけどな」
俺が背負っている魔法袋の大きさは登山用のリュックと同じくらいだ。普通の魔法袋がコンビニのレジ袋サイズだからいかに大きいかが分かる。
「しょうがないですよ。龍の素材の一部が研究用として接収されても大半が残るほどの大きさがあるんですから。それにこの魔法袋もこれからの生活で役立つと思いますよ」
「そうね。これだけ大きければ食料とかも大量に入れられるし魔物の素材も持ち帰れるわね。中身が無くならないとどうにもならないのだけどね」
ルルとシャリアは短めの長椅子に並んで座って笑い合っている。
つまり何が言いたいのかと言うと俺たちは今この街を出る馬車に乗っている。だから揺れているのだ。ちなみに積荷の関係で俺が魔法袋を背負っている。
この街に来た時と同じように俺たちは三人だが来た時と一つ違うとするなら見送りが大勢いる事だ。
振り返ると少なくとも百人はいるように見える。
中にはダンさんたちや調査団に参加していたハンターの人たちもいる。皆手を振って見送ってくれているのだ。ルルも笑顔で手を振り返している。それに倣って俺も手を振る。馬車の御者さんも気を使ってか少し速度を落としてくれている。
結局ダンさんたちとはあまり話す時間は取れず、俺たちはギルドへの書類だったり、依頼していたものを受け取ったりと色々な処理をしているだけだった。ゆっくり出来たのはこの前の宴会が久々だった。
それも例の話のために最初はあまり楽しめず、話を終わらせた頃には宴会も終盤でもう何人も潰れてしまっている状況だったから俺たちも宿に戻り……という感じだったからな。
「それで、まずはどこへ向かうんでしたっけ?」
そういや、シャリアには王都へ向かうとしか伝えてなかったな。
「まずはこの街の北の城塞都市へ向かう予定よ。そこまでだいたい馬車で一週間から二週間といったところね。そこからはすぐに船に乗って川を登りながら王都に向かうわ。船だけでも一、二ヶ月は掛かるらしいから早めに移動しないといけないわね」
「なるほど……城塞都市をすぐに抜けるんですか?」
「ええ。ギルドで聞いた話だとどうやら今は城塞都市の治安がかなり悪いらしいのよ。なんか次期領主争いとかで普通に襲撃があるらしいからね。もしそんな所で時間を取られたら冬になって船が動かなくなってしまうからね。王都までの長い距離を陸路で行きたくはないでしょ?」
「そうですね。自分の馬を持っているならともかく、馬車ですから厳しいですね」
ルルは昔から情報収集に余念が無いからな。それにシャリアも旅の最終確認でさっきまで忙しそうだったからルルに任せたのかな。
おっと、話をしていたらそろそろ街を抜けそうだな。
街の門を抜けたらしばらく谷の間を通り、そこを抜けたら山脈の反対側の草原に出るようだ。夕方には麓の草原に出られるとの事。
貿易都市ナラルラからここ中間都市アールムを抜け、目指すは王都ラナサスだ。王都まで行けば何かしら黒龍に関する情報もあるだろう。王都ではどんな人と出会えるのだろうか。この街でお世話になったメリーさんとは簡単な挨拶だけにした。理由はまた訪れるからだ。二度と会えない訳じゃないからな。メリーさんもそれを望んでたし。
「そういえばヤマト、壊れた銃はどうするの?」
俺が物思いにふけっているとルルから急に尋ねられた。
「ん?ああ銃か。あれはさすがに直せないからもう一度溶かすしかないだろうな。それからまた一から作り直さないとな。一応もうある程度の構想はあるからあとはそれを書き起せばいいだけだ」
一応、手元には貿易都市で購入した剣もあるから戦えないこともない。でも安物だから早いとこ新しいものに変えたい気持ちもある。
「そうなのね。ならば王都でやってもらうの?そのために王都の鍛冶師の紹介状貰ったんでしょ?」
「まあね。でも本当に作れるか心配な所もあるんだよな。かなり細かい部品もあるし」
「そうなんですか?でも王都には色んな人がいるからできるかもしれませんよ」
「まあまずは王都に着かなきゃどうも出来ないからな。安全を祈って目指すとしようか!」
俺の言葉に二人は頷き、それに合わせたのか馬車も速度が上がる。周りを見ると門を抜けたようだ。
ここから約一ヶ月以上の旅路だ。俺はこれからのことについて色々考えていくのだった。
─────誰かが言った。旅立ちとは、別れである。しかし決別ではない。受け入れることが本質なのである。
王国書記官筆
英雄譚第三章十項 『旅立ち』より
第3章 了
これにて第三章は終了です。
この後設定集を投稿し、第四章との繋ぎのお話に入ります。
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