商隊との出会い
「ん〜!このお肉美味しすぎ!」
焚き火の前の地面に敷いた毛布に座ったルルが串に刺した肉にかぶりついて感激の声を上げ、足もバタバタさせている。
この様子を見て誰がルルのことをお嬢様だと思うだろうか。
俺の知る限り、串焼肉に大口でかぶりつくお嬢様を俺は知らない。目の前の彼女を除いて。
出発してからの道中で仕留めた角のある猪の肉を塩と香草で焼いただけのものだが、我ながらよくできたものだと思う。
俺もかぶりつくと中から肉汁が溢れてきてとんでもなく美味い。魔法袋からパンを取り出して一緒に食べたくなるほどに。
「角のある猪……角猪ねぇ……そのまんまだなこりゃ」
夕食分の肉を食べ終わった俺は傍らに置いた角のある猪の頭を眺めながらバナークさんの本を読んでいる。
どうやらこの本によると今食べた角猪も魔物に分類はされるらしいが魔物なら持っているはずの魔石が稀にしか出ないため魔物と動物の中間という扱いなのだという。
この本には題名は無いが、地理やスキル、魔物の情報まで様々なことが書いてある。
だが、食べられるものまで書いてあったのは驚きだが。
「うーん、あと二日ってところかな……」
俺は魔物のページから地図が載ったページまで捲り、残りの日数を考える。
この地図は実際そこまで細かくは書かれていない。だが、ある程度の位置と距離を確認する程度なら十分すぎるものだった。
「ねーえー、今日の見張りは私が先やるから寝てていいよ。昨日徹夜でやってくれたでしょ」
「まあそのお陰でこの肉があるんだけどな」
今日の夕食となった角猪だが、昨日、つまりフーレニアを出た日の夜に俺が夜の番をしている時、明け方に襲ってきたものを銃で仕留めたものだ。
ルルは疲れているだろうからと俺が徹夜で見張りをしていたことにルルからは結構怒られたが。
「……ん?なにか来てるよ?」
突然、肉の味に感動していたルルがピタリと動きを止め、耳を澄ます。
俺も真似してみるが、何も聞こえない。周囲の草原を吹く風の音は聞こえるが。
「ヤマト、そろそろ聞こえるよ。あと五百メール。多分……馬車かな」
五百メートル、いや五百メール先の音が聞こえることにも驚きだが馬車と聞いて俺は警戒する。
即座に火薬入の紙製薬莢を込めた銃を構えて、俺はルルの指さす方向にむける。
それは俺達が来たフーレニアの方角でもある。
すると、ガラガラと馬車が走るような音が聞こえてきた。
しばらく見ていると、馬車のカンテラの明かりが左右に振られているのが見える。
「ルル、灯りを頼む」
俺がそう頼むと、ルルは光属性魔法の光球を発動し、空に上げる。
その光でだいたい十メール程度照らされる。
そうして待っていると、目の前で3台の馬車が止まった。
そして一人の黒髪の男性が降りてきた。
「済まない。君たちの火を少し借りていいかな?」
火を借りるとはそのまんまの意味だ。共に野営をしたいという意味でもあったはず。
俺は銃を下ろさずその男性に問う。
「あなたは?これから野営の準備をするなら遅いと思いますが?」
その問いに男性は頷く。
「確かに最もだね……だけど言い訳をしても良いかな?」
俺はそれに頷いて答える。
「私はカナールという者だ。一応行商人をやっている。私たちはここから南に行った村々を回っていてね。先程魔物に襲われてしまって逃げ回っていたところだったんだ。それでようやく逃げ切れて、野営場所を探していたらこんな時間になってしまったというわけさ」
俺はそれを聞いて少し考え込む。
彼の言っていることは辻褄は合っている。馬車を見ても、いくつか傷があるため魔物に襲われたというのも本当だろう。
南から来たという事はここから向かうのは貿易都市ナラルラ以外ありえない。一本道だからだ。
……上手く行けば様々な情報が手に入るかもしれないな。
「カナールさん、でしたよね。そちらの人数はどれぐらいですか?」
それを聞いたカナールさんは嬉しそうに答えてくれた。
「まず、私に妻と娘。そして手伝いに二人。護衛にハンターが四人だ」
計九人……問題ないだろう。万一があっても森が近いからルルを連れて逃げられる。
「……わかりました。火を貸します」
「ありがとう!これで休めるよ」
その声が聞こえたのか前の二台から四人、後ろから四人が降りてきた。
後ろから降りてきたのは暗くて分かりにくいが鎧を着ている。本物のハンターだ。
すると、カナールさんに連れられて二人が近づいてきた。
「ありがとうございます。私はカナールの妻のシラと申します。こちらは私の娘のスクラです」
「スクラです!」
多分まだ5歳くらいだろう。スクラと紹介された少女は元気よく挨拶してくれた。
俺とルルはそれに笑顔で答える。暗くてよく見えなかっただろうが。
「じゃあ次は俺らだな」と、護衛のハンター達の自己紹介が始まった。
「俺はダンだ。このパーティーのリーダーをやってる。よろしくなお二人さん」
四人の中で一番背の高いがっしりとした体型の赤髪の男がそう名乗る。
腰に剣を下げ、左手に盾を持っているから戦士職なのだろう。
「私はベルよ。この〈風の導き〉のサブリーダーをやってるわ。よろしくね」
ダンの横に立つ緑髪の女性がそう名乗った。背もダンに迫るくらい高い。背に弓を背負っているから遠距離職なのだろう。
「私はナクル。見ての通り魔法士です。よろしくお願いします」
深緑色の髪の彼は長いローブを着て、杖も持っている。
某世界的魔法使い映画に出てきそうな感じの人だ。
「俺はモール。この盾と髭がトレードマークさ。このパーティーのタンクをやってる。よろしくな」
茶髪で何故かまともに見えてしまうモールさんは小柄だががっしりしている。しかも2メールくらいありそうな巨大な盾を背負っている。髭と言っていたからもしかしてドワーフなのだろうか。
あくまで偏見だが、アニメとかではドワーフって小柄で力持ちで髭だしね。
「あの、もしかしてモールさんってドワーフ……なんですか?」
ルルも同じことが気になったようだ。
「お、よく分かったな嬢ちゃん。当たりだ。俺はドワーフさ。ドワーフにしては小さい方なんだけどな」
当たっていたようだ。今はよく分からないから明日ちょっと見させて貰おうかな。髭を。
「あ、そうだ。俺はヤマトです。貿易都市を目指しています」
俺はすっかり自分のことを忘れていたのを思い出し、急いで自己紹介をする。
「私はルルです。ヤマトと一緒に貿易都市を目指してます」
ルルも同じように自己紹介をする。
なんか俺より落ち着いているのだが……そこは元お嬢様という所なのだろう。
「ヤマトにルルちゃんか。分かった、短ぇ間だがよろしくな」
ダンさんがそう言うと俺の頭をガシガシと乱暴に撫でた。ルルは笑っていたが、結構来るぞこれ。
そしてこれが俺達が今後何かと関わることとなるハンターパーティー『風の導き』との出会いである。
次は12:00です。




