4)滅びかけた王国
「どうした? ジュード?」
「いや、今魔力を感知した」
リヌスの問いにジュード・バルモワが険しい顔で答えた。
細身の身体に肩にかかるさらりとした黒髪のおかげで中性的な容姿をしている。
年は20代始め。かつてはユギタリア王国の学園に所属していた。
「魔力?」
リヌスらは辺りを見回した。
ジュードは魔眼の目で魔力を感知した方向を探る。
「おかしいな・・」
ジュードが首を傾げる。
「魔導師がいたということか?」
尋ねたのはジュリアン・アーディン。
黒髪の精悍な青年はユギタリア王国では代々将軍の家柄の子息だった。
「そう思ったのだが・・。
近くには人の気配はないな」
「魔獣か? 魔物か?」
「その可能性はあるな・・」
「それよりリディアはどうなったのだ?」
ジュリアンが険しい顔で尋ねた。
「なんとも言えない。
赤ん坊は野犬が咥えて逃げたので血が落ちていないのかもしれないし。
連れ去られた可能性もある。
だが兎の血が散乱している説明がつかないな」
「もしも連れ去られたとしたらいったい誰が・・」
ジュリアンが眉を顰める。
「魔法の証跡がじゃっかんあるようだが。
残念ながらひとの手になるものか魔道具を使ったあとかまでは判らん」
「兎の血の割には兎の残骸がない。
毛ひとつ落ちていない。
ここはそのままにしておいたのだろうリヌス」
とジュリアンが振り返る。
「あのときは兎の血とは思わなかったので兎の痕跡は探さなかったが。
閉め切ってあったので現場保存はよく出来ていたと思う」
「何者かがリディアを連れ去り死んだと見せかけた可能性があるな。
もしそれが真相なら誰がやったのか・・。
それにリディアは酷い状態だったはずだろう。
養育係に問題があったそうじゃないか」
ジュリアンが答えた。
「そうだ」
リヌスが険しい顔になる。
「なぜそんな養育係を?」
「私は執事を疑っている」
「執事が? なぜ?」
ジュードが眉を顰める。
「あの執事は有能で抜け目が無い。
それなのにジーコという男にリディアの世話を依頼した。
ジーコの妻は短気で性根が悪い頭も悪いと評判だった。
元からまともに赤ん坊の世話が出来る女じゃなかった。
それなのに執事は選んだ」
「執事が関わっていたとして動機は?」
「不明だ。
証拠がないので取り調べも出来ない。
何代も前から我が家の執事を務めている家の出で身元にはなんら問題ない。
だが今回の件では祖父の信頼を大きく裏切った。
執事がジーコに依頼したのがそもそもの原因のはずなのに上手く立ち回って自分は無関係を装っている」
「執事は関係者だろう。
なぜ取り調べを受けない?
そもそもこの現場は調査されたのだろう?
兎の血だとなぜ判らなかった」
「ジュードにはまだ詳しく話せていなかったが、今回の件はアドニス王子の隠し子が死んだことになっていない」
「なんだって?」
「最初から説明するよ、一番最初の部分から。
アドニス王子がキルバニアを訪れたとき私はカウストラスに留学していた。シューデンブロウの学園と交換留学をしている学園だ。
それで祖父が応対した。
アドニス王子は自分の娘を3歳になるまで預かって欲しいと頼み、祖父はやむなく引き受けた。
そのとき祖父はディアナ王女の子だとは思わなかった。
ディアナ王女は一緒に来て居なかったしディアナ王女が妊娠したという情報は終ぞなかったのでね。
アドニス王子が見知らぬ女を妊娠させてしまったのだろう、くらいに思っていた。
祖父は執事に赤ん坊を間違いなく養育するように言いつけた。
一応一国の王子の依頼なので養育者には『赤ん坊が死んだら自らの死を持って償う』という書類に署名させろと言っておいた。
さらにアドニス王子の隠し子であることは契約魔法で秘匿させろと指示した。
執事は書類を作りジーコに養育の仕事を依頼した」
「アドニス王子の隠し子の秘密を契約魔法で縛ったのなら、赤ん坊を死なせたら死ぬ契約魔法もかませれば良かったんじゃないのか」
ジュリアンは疑問を述べた。
「ユギタリア王国ではどうか判らないがヴェルデス王国では死ぬような契約魔法は禁止されているんだ。
祖父は赤ん坊が王子の子であることを秘匿し通すことにした。
もしもディアナ王女の娘である可能性が取り沙汰されたら国際問題になるからだ。
裁判でも赤ん坊の正体は判決を左右する情報ではなかったので問い質されなかった。
今回の事件はイバとジーコによる町長への詐欺で処罰された」
「ただの詐欺か?」
「赤ん坊を殺したのなら殺人事件になっただろうが見るからに事故だった。
大風で窓が壊れて野犬が入り込んだという事故だ。
それでジーコ夫妻は『巨額詐欺事件』で裁かれた」
「巨額なのか?」
「銀貨を週に4枚ひと月で16枚得ていた。
夫婦ふたりで生活できる額だ。
言われた仕事はしていなかったくせに11ヶ月間で176枚の銀貨をせしめていた」
「王子の子の養育費とするには安くないか」
「住み込みの子守の手間賃は町では週に銀貨2枚から3枚がせいぜいだよ。
契約では赤ん坊の食べ物や衣類や布団などを買った場合には請求が来ることになっていたが1年近く一度も請求が来なかったことに誰も気付かなかった」
「・・酷いな」
「言い訳のしようも無いよ。
そのすぐ後で執事が採掘場の方に長期出張にやられていたのでね。
そのころ祖父に情報が入ったために。
ターレの町で採掘場に工作員が侵入していたという極秘情報が祖父に報されたので執事をキルバニア町の採掘場の管理責任者につけた。
採掘場はあのユギタリア王国侵略騒ぎ以来ずっと混乱状態だった。
採掘場にはやたらな人間は中核部分には入れられないので執事をやった。
アドニス王子がキルバニア町に来たのは間が悪かった。
執事が採掘場へ発つ10日前だった。
祖父もそのために執事の不手際を強く言えなかった。
その後執事はずっと採掘場に居てこちらに戻ってきたことはなかった。
採掘場までは片道3日はかかるんだ」
「そんなに遠かったか」
「距離だけをみればそこまで遠くもないのだが途中に丘陵がある。
難路の上に河も渡る。
どうしても3日はかかる。
往復6日だ。
執事の仕事は6日も休める内容ではなかった。
執事は赤ん坊の養育は気にはなったが契約で縛ってあるので問題ないだろうと思ったと証言した」
「その証言は正しいのか?」
「執事の事情など事件の核心部分ではないんだ。
真否判定を受けることもなかった。
契約書があるのは確かだし、イバは契約書を読めと言われて読んだフリをしたと証言しそれが真実だと認められた」
「読んだのか? 読んだフリというのはなんだ?」
「イバは字が読めなかった。
自分の名を書くのがやっとだ。
キルバニアの町民の識字率は70%だ。
契約書のような小難しい文の識字率はさらに下がる。
イバは見るからに無学な女だった」
「なるほど。
執事が怪しいな」
「そうだ。
読んで聞かせれば良いものを読ませて済ませた」
「だが旦那のジーコは知っていたのだろう?」
「旦那は契約者ではない。
イバが契約者だ。
ジーコはその場にはいなかった。
ジーコが赤ん坊を死なせたら命で償えと契約されていたことを知ったのは事件のわずか1週間前だ。
ジーコはその前の週に遊び仲間と旅行に行き町長邸に金を取りに行けなかった。
翌週金を受け取りに行ったときに執事代理をしている侍従長に『来ないときは予め言ってください』と言われた。
そのときに侍従長から『契約で赤ん坊になにかあったら命で償うとなっていますからね』と言われた。
侍従長は赤ん坊に事故があったときにイバが逃げ出さないか心配していたのでジーコにそう言った」
「では執事はジーコにも契約がそうなっていることを教えなかった?」
「そうだ。
どちらにしろ、死なせなかったとしてもあの夫婦では王子の子を養うのにふさわしくない。
町にはもっと善良で赤ん坊を大事に養育できるものはいくらでも居る。
『アドニス王子の隠し子』と教えてあれば相応しい養育をしそうな賢い夫婦を選べばなんら問題なかった。
それなのに執事はジーコ夫妻を選んだ」
「判った。
その辺の事情はわかったが裁判では詐欺だけが問われたのだな?」
「事件を捜査した関係者は誰も王子の隠し子だとつゆほども知らない。町長や町長家族の隠し子だとも思わなかった。
なぜならあまりにも酷い環境で赤ん坊が養育されていたからだ。
野犬だらけの魔獣の居る危険指定区域そばの森の一軒家。
夜間は赤ん坊はひとりで家に置き去りにされていた。
町長はお情けで拾った赤ん坊の養育を引き受けたのだろうくらいにしか思わなかった。
それに祖父も表だって赤ん坊を探す指示は出さなかった。
赤ん坊は野犬に食われて死んだのだろうで終わりだ。
それから現場の血痕を調べるのに魔導師は呼ばれなかった。
孤児が事故で死んだ捜査にわざわざ魔導師を呼ぶことはないからね。
祖父も事情が事情なので魔導師を呼べと言えなかった」
その頃リディアはようやくザイルズ邸そばの森に到着していた。
――ぜぇ・・ぜぇ・・はぁ・・。
幼児の身で全力疾走は堪える・・。
いくら身体強化魔法が使えるといっても基本幼児だから・・。
しばし草むらに倒れ込んでいたがよろよろと起き上がった。
――せっかく来たんだ・・会話・・聞かなきゃ・・。
3人の姿は外からは見えないが馬が繋いであるのでまだ家に居るはずだった。
庭に潜に入り聴覚を魔法で強めた。
「たしかに赤ん坊の養育に適した家じゃ無いな」
ジュリアンが顔をしかめる。
「祖父は家の場所を正確には知らなかった。
まさかユギタリア王国の元大将軍の別荘がこんな危険な森の古い家だと思わなかった」
「それに関しては我が家はなにも言えないがな」
ジュリアンが苦笑した。
「それで執事が従兄弟の嫁が管理する家を借りて赤ん坊の養育に使うことにしたのを黙認した」
「従兄弟の嫁というのがジュリアンの姉上だったというわけか」
「そうだ。
ザイルズ・アーディン将軍家のご令嬢。
ジュリアンの姉上。
ユギタリア王国から嫁いでこられた」
「ディアナ王女の子かもしれない赤ん坊の養育場所に執事は偶然選んだと?」
「あの執事がリディアのことを知っているはずがなかったのにな」
「だがアドニス王子の隠し子であることは知っていたのだろう」
「誰が母親かは知っているはずがない」
「本当にディアナ王女の子なのか?
ディアナ王女が妊娠していた時期はなかったと誰もが証言しているだろう」
ジュリアンが不審げに尋ねる。
「ディアナ王女は魔導師だ。
『幻惑の魔法』で誤魔化し通した可能性もある」
「だがふたりは最後まではっきり言わなかったのだろう?」
ジュードは重ねて尋ねた。
「はっきり言わなかったので疑っている」
「どういうことだ?」
ジュリアンがさらに眉を顰めた。
「アドニスが余所で浮気して作った娘なら私にそう報せたはずだ。
アドニスがそこいら中に女を作っていたのは知っているだろう。
隠し子のひとりやふたり出来ていてもなんとも思わない男だった。
だが言わなかった。
最後まで誰の子かなにも言おうとしなかった」
「・・なるほどな」
ジュリアンがため息交じりにつぶやいた。
「しかし1年もの間ろくに世話をされず痩せこけて1歳半で一言も喋れなかった赤ん坊だ。
もしも生きていたとしても健康な子供として育つかは疑問だな。
1歳半まで生きていたのが不思議なくらいだ」
「私もあの女の証言を聞いたときはそう思ったよ」
リヌスは力なく答え「裁判でもその点が取り沙汰された。
だが不自然な点が多々あった」
と2人に呟いた。
「不自然な点?」
「イバは赤ん坊が汚物で汚れていたことはなかったと証言した。
だがイバは赤ん坊を風呂に入れたりおむつを替えたりしなかった。
それも真否判定で確かめられた。
つまり赤ん坊の世話を誰かがしていた」
「なるほど・・。
誰が?」
「それは判らない。
イバは一日に3回ただ冷たい山羊の乳を赤ん坊にやった。
それ以外には赤ん坊に近付かなかったと証言した。
イバがここでなにをやっていたかというとただ昼飯の弁当を食べ家の周りで薬草を摘んでいた。
森の奥まで行くこともしばしばあった。
一日中摘んで夕方には薬草を持って帰った。
つまり夜間やイバが森に行っている間は誰かが家に入り込めた。赤ん坊が虐待されているのを見て世話をしていた可能性がある」
「善意の第三者かもしれないんだな」
「そうだ」
それから3人はザイルズ邸を探索した。
一階から見て回り書斎でジュリアンが立ち止まると
「姉が書斎の棚に祖父が執筆した戦記が置いてあったと言っていたが・・」
と首を傾げた。
ジュードが棚の埃の跡を見た。
「たしかに本が置いてあった跡があるな。誰かに持ち去られたのか?」
「イバとジーコには育児に必要なもの以外手を触れるなと言ってあったはずだが」
「家に同じ本があるのでどうということもないのだが。
気になるな」
部屋の壁を調べていた魔導師が、
「おやこの壁には隠し部屋があるようだな。
ごく小さいものだが」
と告げた。
「本当か?」
ジュリアンが目を見開いた。
「知らなかったのか?」
「祖父の別荘は祖父が亡くなった後で所在が判ったのでね」
「なぜ所在を隠していたんだ?」
「隠していたわけじゃない。
ただユギタリア王に疎まれた祖父を皆が避けていたというだけのことだ。
今思えば祖父の言うことはどれも真実だったが当時は耳の痛い真実を聞く者が居なかった。
王だけではない。
大多数の貴族高官騎士国民がそうだった。
祖父が警告していたころから国の進路を変えていくべきだった――危険が目に見える前からな」
「そういうことだな。
どこも同じだ」
リヌスがため息交じりに応えた。
「ところでそれでは隠し部屋の開け方も知らないんだな」
「判らないな」
「ふぅむ」
魔導師が魔眼を凝らす。
しばらく後「どうやら物置の側から開けるようだ」と言い3人は物置に入っていった。
3人はそれぞれ物置の中を見回していたがジュリアンが「おや・・」と呟く。
「どうしたジュリアン?」
とリヌスが振り返る。
「この物置は埃が綺麗にされているな」
「そう言えばそうだな。
だが他にも埃のない部屋はあっただろう」
「書斎も埃がなかったな」
ジュードが思い出しながら答えた。
「どういうことだ? 足跡の痕跡を消した?」
「それだろうな」
3人の顔がにわかに真剣になった。
3人がかりで板壁を叩いて回り隠し部屋の鍵となる板を見つけジュリアンが押す。
小さな部屋を覗き込む。
男3人が入れるほど広くはない。
高さは部屋と同じほどはあるが床面積が細い。
その上奥の壁にくっつくようにごく小さい卓が置いてある。
「卓の上になにかあったようだな」
ジュードが卓の埃の跡を見た。
「なにがあったんだろう」
「魔力証跡がある。
魔道具か魔剣か」
「まさか鷲雲剣か・・」
「ジュリアンの祖父殿が前々王から賜った剣か」
リヌスが戸惑う。
「そうだ。
見つからなかったのだが。こんなところにあったとしたら見つからないはずだ」
「だが無くなっている・・と」
「嫌な予感がする」
ジュリアンの声が強張る。
「なんだ?」
リヌスが尋ねた。
「もしも盗人が盗み出してそれをリディアが目撃したとしたら・・」
「まさか・・」
リヌスの顔から血の気が引く。
「しかし、もしもそうだったとしてもリディアの世話をしていた人物の可能性が高いだろう。
それならリディアを連れ去ったとしても酷い目に遭わせたりしないんじゃないか」
「とにかく誰か赤ん坊以外の者が関わっているのは確かだな。
こんなことを出来るのはイバではない」
「執事は?」
「可能性はあるが。
その場合は執事ではなく執事に依頼された者だろう」
リヌスの眉間にしわが寄る。
「リディア姫の生存はどちらにしろ期待しない方がいいかもしれないな」
ジュリアンが吐息のように呟き「ユギタリアの王家の血筋が途絶えてしまうのか・・」
騎士は遠い目をした。
3人はその後気落ちした様子でザイルズ邸を後にした。
◇◇◇◇◇
リディアはそのとき結界で自分の魔力波動を封じ込め身体強化した聴力で3人の話を聞いていた。
話し声を聞くために家の庭に入り込んだので気付かれぬようじっと身動きひとつしないで居た。幼児の身体にはきつかったがリディアの心中はそれどころではなかった。
――ショックだ・・。
衝撃事実が色々と明らかになった。
――父上・・そこいら中に女を作って隠し子のひとりやふたり出来ていてもなんとも思わない男だったんだ・・。
まさかそんなエロ王子だったとは・・。
そういう異母兄弟姉妹いらない。
母上、可哀想に。
ふたりはどこに居るんだろ・・。
なんだか3人の話を聞いてた限りでは居場所のヒントもなかった。
まさか生きてないとか・・。
私、母上は見た覚えあるけど父上は知らない。
父上は会いに来てくれなかったってこと?
それともはっきり覚醒する前に来てくれてたのかな。
「ユギタリアの王家の血筋が途絶えてしまう」ってジュリアンさん言ってた。
私が最後のひとり?
でも父上と母上は?
ユギタリアって・・ここはヴェルデス王国だよね?
リディアはザイルズ邸にあった本はよく読んでいた。
本の地図を見ているしキルバニアの学校でも地図を見ている。
ユギタリア王国の場所は知っている。
ユギタリアはごく小さい国だった。
国の規模としてはキルバニア州とそう代わらない大きさだった。
キルバニア州がリディアが思った以上に大きかったとも言える。
ユギタリア王国は周りを大国に囲まれていた。
ユギタリアの北は海に面しセイレスという島国が海の向こうにある。
西にシュールデル王国。
南にジギタス王国。
東にヴェルデス王国。
少なくともキルバニアの学校の地図にはユギタリアは載っていた。
地図から消えてはいなかった。
――でも王家は消滅しそうってこと?
たしかにユギタリアの周りは大国ばかりでその中で5分の1くらいの大きさしかないユギタリアは獅子や虎に囲まれた兎みたいだった。
リヌスはキルバニア町長の息子だよね。
キルバニアはヴェルデス王国のキルバニア州都の町。
それなのにユギタリア国の私の両親を知っていた・・。
リディアはふと思い出した。
――イバはジーコに言ってた。
「アドニス王子は国の裏切り者」。
イバが「国の裏切り者」と言うからにはアドニス王子はヴェルデス王国の王子のはず。
・・そうか。ヴェルデス王国の女たらしのアドニス王子はユギタリア王国のディアナ王女と結婚して母上との間に私が生まれた。
でもそれを友人の若様たちにも隠してその後どこに行ったか判らない。
もしかしたら生きてないかもしれない。
母上はかなり絶望的?
リディアは3人がザイルズ邸から離れるのを待ち足を引きずるように隠れ家に帰った。
――私どうすればいいんだろう・・。
樹上の丸太の床に座りザイルズ邸で見つけた剣を抱きしめふと気付いた。
――そうだこの剣前々王が将軍にあげた剣だって言ってた。
曾お祖父様の剣だったんだね。
だから抱えていると安心するのか。
でもジュリアンさんに返さなくちゃ・・。
リディアは剣を手放そうと思うだけで心細くなる。
――もう少し借りておこう。誰か一緒に居てくれるひとが見つかるまで。