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21)亡国の王族たちの追想Ⅲ



 シダルタは図書室に足繁く通っていた。

 読みたいだけ本を読んた。


 もうすぐこの図書室に来ることも出来なくなるだろう。


◇◇


 逃亡計画は第二王妃の主導で進められていた。

 第二妃はシュールデルの軍人に知り合いが居たために宝石を掻き集めて渡し逃亡の手助けをさせた。


 なぜシダルタや王太子たちまで助ける気になったのか不可解だったが第二王妃の胸の内を読んで判った。


『もしも見つかって捕らえられたら王太子らに無理矢理付き合わされたことにすればいいわ。いざという時には盾になって貰えるし。

 王太子は剣の腕が達者みたいだものね。シダルタは色男だけどヒョロついてるし使い物になるかのかしら。でも私と息子娘たちだけじゃちょっと不安なのよね。

 それにみな一緒でかまわないって将軍が言ってたし』


 ――失礼にもほどがあるな。

 自分が宝石を渡した軍人が証言する可能性は考えていないのか。

 将軍が「みな一緒でかまわない」と言ったってのが気になるな。

 罠の匂いがぷんぷんする。


 シダルタは色々気になったが渡りに船と乗ることにした。



 2825年冬季中期15日。


 脱走は真冬に決行された。


 第二王妃にとっては運の悪いことに当日は採掘作業に第二王妃の王子王女らが選ばれ採掘場に向かわされた。

 計画が少しずつ崩れ王妃らと王子王女らは出発がズレることになった。


 計画は止められない。

 脱走の機会はもうないだろう。


 シダルタは母フィーナと馬車が離されると判ったときさすがにキレそうになったが馬車の護衛の装備を見てキレるのを止めた。

 彼らが持っていたのはただの剣だった。魔剣でもない。

 母の方が強かった。


 対して王子王女らの馬車に付く男は魔導師用の武器である魔粒弾を持っていた。


 ――そういうことか。

 罠であることを隠そうともしないのか。

 あるいはモノを知らない王子王女らは魔粒弾を知らないとでも思っているのか。


 最初に王妃ら3人と王太子の子息ふたりが王宮の裏口から逃走。

 馬車に乗り込み港に向かった。


 第二王妃の王子王女らが採掘場から上がってくるのを待って残りの王子王女と皆で6人が次いで馬車に乗り逃亡。


 港までは順調だった。

 港からは交易船に乗る予定だった。

 先に王妃らと王太子の子息らの乗った船が出航していた。

 交易船は小さかった。それで二艘に分けたらしい。


 ――やけに簡単に来られたな。


 罠だからだろう。シダルタは覚悟を決めた。


 6人は船に乗り込み出航した。


 ほっとしたのも束の間、船に衝撃が走った。

 船底に入れられていた王子王女らは揺れる船の底で転げた。

 第三王子は頭を強打して伸び胸の悪い第二王女は胸を押さえて蹲った。

 王太子が妹を抱きしめた。

 王女の顔色が蒼白だ。

 それでなくとも心臓に悪い逃亡の末のこと。

 シダルタはそっと王女の魔力波動を探知。

 すでに事切れていることが判った。


 亀裂の走った船の横腹から水が流れ込み始めた。

 船に衝撃が加わるたびに水圧に負けて裂け目が広がった。


 第一王女は泣き叫びながら船底から上に続く階段を駆け上り第三王女も太った身体を揺らしながら後に続いた。


 砲撃は容赦なく続いた。


 船員たちの声が聞こえてくる。


「なんだよっ話が違うぞっ」


「どうなってんだよっ」


「くそったれっ」


 ――さてどういう話だったんだろう?


 船に乗り込むとき船員たちの目は殺気立っていた。

 シダルタたちを助けようという目ではなかった。


 だが当然ながらまさか砲撃されるとは思っていなかったようだ。


 シダルタはおおよそのことが判った。

 この船の船員たちはシダルタたちの宝飾品や荷物が目当てだったのだろう。

 あるいは沖で王子王女らを始末する駄賃を貰えたのかもしれない。


 ――シュールデルは王子王女殺しの罪を海賊に着せるつもりだったのだろう。


 シュールデルが王子王女らまで皆殺しにすると、国としての悪評は末代まで残ることになる。


 シュールデルは侵略国家からの脱却を図ろうとしていたのだ。

 それなのに同盟国を侵略した。

 おまけに敗戦国として降伏し条約を結んだ国王を処刑した。


 ここまでで十二分にシュールデルは国としての評判を地に落とした。


 そこで王子王女らの始末の方法を考えた。


 王子王女らは邪魔だ。

 ユヴィニの採掘を協力しなかった。

 王子王女を殺してしまいたかった。


 ――生かしておいて、もしもいつか王子王女らが脱走に成功したら?


 ユヴィニは王子王女を手に入れた国が採掘できるようになる。

 だが以後シュールデルにユヴィニが輸出されることは決してないだろう。


 シュールデルは他の国から軍事力で大きく水をあけられることになるだろう。

 それならいっそユギタリアの王族は皆殺しにした方がいい。


 ではどうやって殺すか。


 王子王女は逃亡してしまったことにすればいい。


 後に行方不明になってしまったとすればいい。


 セイレスに向かう海は海賊が跋扈している。

 海賊が殺してしまったんだろうという筋書きでもいい。

 シュールデルは無関係を装えばいい。


 ――ところがシュールデルの頭のよろしくない海軍は砲弾を撃ち込み船を撃破しようとしている。

 どこかで命令の行き違いがあったのだろう。


 王妃たちの乗った船はすでにずっと沖に出ている。

 優秀な魔導師である母フィーナは生き残れるだろう。

 王太子の子息らはフィーナの言うことをよく聞ければ生き残れるかもしれない。


 シダルタは母にユヴィニの秘密を明かしておいた。

 「青藍銅が原料ですよ」と。

 シダルタになにかあったときに王太子の子息らとユギタリア王室の伝統を繋げられるように。


 ――私も生き残る積もりではあるけどね。

 さすがに砲弾の直撃で結界の強度を試す気にはならないな。

 なるたけ砲弾の射程距離から離れてくれないかな。


 シダルタは可能な限り最強の結界を張る。


 辺りは騒然としている。

 船底はすでに池のように水が溜まっていた。

 王太子は亡くなった妹の遺骸の傍らで呆然と彼方を見ている。


 シダルタはさすがに気の毒になり声をかけた。


「兄上」


 王太子はやつれ果てた端正な顔をシダルタに向けた。


「母は子息らを助けようとするでしょう」

 シダルタは告げた。


「助けられるかな」


「母の言うことを聞いてくれれば。

 ふたりは聞き分けの良い子だと母は言っていましたよ」


「そうか。

 ありがとう。

 すまなかった」


 王太子は透明な笑みを浮かべ大きく横腹に空いた船の穴に身を投げた。




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