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19)亡国の王族たちの追想Ⅰ



 ディアナが結婚して国を出たのち。

 ディアナから届く手紙はフィーナを呆れさせた。


 アドニスの浮気癖はなかなか完治しないらしい。アドニスは据え膳は拒否できない男だった。

 アドニスが神掛けて誓って言うには、

「自分から手を出したのはディアナだけ」。


 手紙によるとふたりの珍道中は楽しげでディアナが幸せそうなので細かいことは考えないことにした。



 ユヴィニの生成はシダルタひとりの肩にかかってくるようになり見るからにシダルタは過労していた。



 ところで王太子の幼い息子たちの魔導師教育はフィーナが行っていた。

 ユヴィニが「採掘」できない王太子はさすがに危機感があったらしくフィーナに子息のリオンとクラウスを委ねた。


 王太子は、

「妃が留守のときに指導をお願いしたい。

 私が時間を作る」

 とフィーナに頼んだ。


 フィーナは幼い子息たちが遊びながら魔法を学べるように玩具をよく使った。

 魔力を流したり光魔法や水魔法で動く玩具を繰り返し使って見せ遊ぶコツを教えた。


 王太子の子供たちリオンとクラウスはめきめきと魔導師としての素質に目覚めていった。

 魔法が使えるようになると負けず嫌いな男の子なら自分から進んで魔法を使おうとする。

 こうなればしめたものだ。

 あとは怪我をしないように気をつけながらコツを伝授し修練を積ませていけばいい。



 そんな束の間の平穏のころ。


 シュールデルによるユギタリア侵略は内部から進められていた。



 国王が国境警備隊の情報を垂れ流ししさらに警備隊の隊長副隊長らにシュールデルの間者ではないかと以前から疑われていた軍人が任命された。


 苛立って亡命する者も多く彼らから「ユギタリアが危ない」という情報が世界中に知れ渡った。

 シュールデルは焦った。

 極秘裏に侵略を進めるはずが魔導師の軍人たちにはバレバレだったのだ。


 ――こりゃ大丈夫か?

 と側室のフィーナでさえ思った。


 ――もしかして国王はシュールデルに国を明け渡したいのか?


 呆れたことに国王はシュールデルとの食料の交易や交換留学やシュールデルの農業技術を手に入れることを本気で考えていた。


 シュールデルは内政はガタガタの国だ。

 大商会が国富を食い荒らしているのだ。

 農業技術などユギタリアの方がよほど進んでいる。

 ユギタリアには砂漠化を食い止めるために苦労している農家が多く居るのだから。


 なによりもユギタリアの農家をまず支えるべきではないか。


 ――とことん無能な国王だわ・・。


 国王を誘導しているのはシュールデル出身の第二王妃だった。


 ――やはり間者だったのね。


 シュールデルのユギタリアへの侵略はとっくの昔から始まっていた。



 2823年春季中期2日。シュールデル王国ユギタリア王国に侵攻。

 西の隣国シュールデル軍は11日で王都に達した。


 ユギタリアの軍人らは元から西部の防衛を諦めていた。

 国王が情報を敵に流し国防の要所要所に敵国の間者を入れたためだ。


 王宮内部にも数多の間者が入り込んでいる。

 よくも国として保っていると感心するような有様だった。

 そこでユギタリアの軍人たちは東部の護りを固め王宮の籠城を一日でも長く続けさせゲリラ戦で王都を奪還する作戦をとった。


 ・・ところが国王はわずか侵略21日目にして城を明け渡し無条件降伏することを決めた。


 ユギタリアの将軍らの心情を思うとフィーナは涙が止まらなかった。


◇◇


 ユギタリアは完全な敗戦国として条約を結んだ。国王は少しでも国を有利に導こうという努力はつゆほどもしなかった。

 その直後のこと。


 シュールデルの軍人が身重のためゆっくりゆっくりと階段を下りていた王太子の妻を邪魔だと突き飛ばした。


 そのとき王家の者たちは階下に集められていたので一部始終を見ていた。

 幸い王太子の子供たちは子供部屋に居たので知らずに済んだ。

 シュールデルの軍人は血まみれで動かなくなった妃の脇を平然と去って行った。


 国王は自分がどれだけ愚かだったのかようやく悟った。


 ――遅いんだよボケ。

 もっと早くに悟れよ。

 せめて城を明け渡す前に。


 それから3ヶ月後に国王が処刑されたとき

 ――もっと苦しむ処刑でも良かったんだけどな。

 としか思わなかった。

 哀れではあったがあまりにもやったことの罪が重い。


◇◇


 シュールデルはユヴィニの「採掘」はシダルタにしか出来ないことを終ぞ知らぬままに終わった。


 古来より「ユヴィニはユギタリアの王族にしか採掘できない」と言われている。

 国王は自分がユヴィニ採掘が出来ないなどと文字通り死んでも言わなかった。

 他の王子王女たちもそうだ。


 侵略されてからは役立たずと知られたら殺されるのでやはり言えない。



 フィーナはシダルタから、

「あの採掘場は狭くてね岩があるから。

 おまけに暑くて。

 とてもじゃないけど『耐熱の結界』が張れない者は30分も居られないんだ。

 正常な状態で居られるのは15分がせいぜい。

 長く居ると確実に死ぬ」

 と聞いていた。


 採掘現場の近くには王族以外ははじかれる結界が張ってあるのでシュールデルの軍人らは入れない。現場付近で見張りをすることになる。


 坑道は固い岩盤を避けて細くなっているため見張りは採掘場を覗き見ることも出来ない。


 空気を循環させる送風機は「魔道具無効化」の魔道具から離した場所にあり現場辺りは空気が悪く暑い。


 見張りがひとりと王子王女のうちひとりが選ばれユヴィニの採掘が行われた。


 シュールデルは第二妃の産んだ王子王女を選び王子らは嬉々として作業に臨んだ――母国シュールデルのために。


 延々と無駄な「採掘作業」は続いた。


 採掘場にはユヴィニの生成に途中で失敗して放置された「クズユヴィニ」が山積している。

 以前はシダルタがユヴィニを生成してばらまき国王や王子王女らが拾えるようにしてあった。

 だがシダルタは採掘場に行っていない。


 ユヴィニは無くなりクズユヴィニばかりになっていた。

 もとより第二妃を母とする王子王女は良質のユヴィニを見分ける能力が著しく劣っていた。


 王子王女らはあまりの暑さに見張りの軍人がめまいを起こすころ拾ったクズユヴィニを「採掘した」と言って渡した。


 シュールデルの軍人たちは防具を着込みマスクをし武装している。


 それに対して薄着の王子王女らはまだ耐えられた。


 シュールデルは見張りを交代制にして臨んだが、たった月に10日の採掘作業は遅々として進まない。

 王子王女らが採掘してくるのは酷い出来のものばかりで使えないレベルのものが多々含まれていた。


「第二王妃の王子王女たちはずいぶん怒られているみたいだ」

 と風魔法で様子を探ったシダルタが興味も無さそうな様子でフィーナに教えた。「ならず者のような軍人どもに、いくらなにを聞かれても答えられないしね。

 なにしろユギタリア国王が全力で超絶強力な契約魔法をかけているから。

 ほんのひとかけらもユヴィニの秘密を漏らせない。

 それなのに採掘場に落ちている良さそうなユヴィニを選ぶ目さえもないんだから」


「あらまぁ・・」


 ――自業自得だわね。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] ここまでやられてるんだから、逆にシュールデルの内情も知りたいかな。一方的な悪者として書かれてるからね。違う側面もあるのかなって思う
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