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10)失われた過去と未来



 収穫祭の翌週。


 リディアはキルバニア州立学園のそばでブラウの束が入った袋を担いでジェイを待っていた。

 黒髪はまたスカーフで隠してあった。


 ――そろそろ見張り無くならないかな。

 それとも見張りを辞めて貰う交渉した方がいいかな。

 ・・どう交渉しようか?

 リヌスたちはリディアを保護したいんだよね。

 ・・保護してもらう?

 自由が無くなるよね。

 今私けっこう幸せなんだけどな。

 このままじゃ駄目なのかな。

 放って置いて貰えたらいいのに。

 あと父と母が生きてていつか迎えに来てくれたら完璧幸せなんだけどな。


 リディアが熱心に考え事をしている間にキルバニア州立学園は授業が終わり初等部の学生たちが校門から出てきた。


「ジェイ!」

 リディアが手を振るとジェイが駆け寄ってきた。


「アニスまた明日来られないの?」

 リディアからブロウの袋を受け取りながらジェイが尋ねた。


「うんごめん。

 そのうちなんとかするから。

 エリお母さんバザーでベルジュの服買えた?」


「たくさん買ってたよ。

 安くていいのが出てたってさ」


「良かったね。

 キルバニア女王コンテスト誰が選ばれたのかな?」


「山羊牧場の奥さん。

 孤児院にチーズを毎週寄付してる。

 背が低くて丸くて丸いチーズみたいな奥さんだって」


 ――やっぱ美人コンテストとは少し違うよね・・。


「今日はなにか面白い授業あった?」

「分数が面白かった」

「うわぁ出た分数」

「分数知ってるの?」

「3分の1たす3分の1は3分の2とか言う奴でしょ」

「凄いねリディア」

「面白いと思えるジェイの方が凄いよ。

 算数はいいからさ歴史とか地理とかそういう話を教えてよ」


「授業というか余談でユギタリアの話が出たよ」

「なんて?」

「ユギタリアの貴族や将軍たちが国から逃げ出した理由」

「国王に腹を立ててでしょ・・」


「うんまぁそうなんだろうけど。

 国王に対して国を思うユギタリア王国のものは激怒して見捨てて逃げた。

 彼らに出来る唯一の報復だったんだろうからね。

 それからユギタリア王国の内部にシュールデルの内通者が大量に入り込んでいて内部から食い荒らされててどうしようもなかったらしい。

 国に残っていても殺されるだけだから」


「国王が悪いだけじゃないってこと?」


「国王が最大の原因だろうけど。

 他にも上層部に諸悪の根源の人物がいたんじゃないかって」

「そうか・・」

「それからシュールデルが王子王女まで皆殺しにしてしまった理由」

「うん。なんで?」


「あくまで教授の推測なんだけどね。

 教授が仮説をいくつかあげてて・・。

 たとえばユヴィニの採掘の秘密を王子王女たちが明かさなかったからとか」


「・・ユヴィニの秘密?」


「そう。

 ユギタリア王国の地下資源。

 ユヴィニは王族にしか採掘できないって昔から言われていた。

 それでもシュールデル王国はユギタリア王国に攻め入って国王を処刑した。

 以来ユヴィニはひとつも輸出されていないんだ。

 採掘してシュールデル王国に運ばれているのかもしれないけれどね。

 それにしてもシュールデル王国と親しいヴェルデス州の要望にも応えてないらしい。

 カウストラスへのユヴィニの輸入も途絶えている」


「どうして知ってるの?」


「ヴェルデス州とカウストラスがシュールデル王国に再三要求しててでもシュールデルが応えないから。高官があちこちで喋ってるんだってさ」


「へぇ・・」


「たとえばジギタスとセイレスへのユヴィニの輸出を止めたのは理由がわかるよ。

 ユギタリアの王子と王女はセイレスに逃げようとしてたからね。

 それからジギタスへはユギタリア王国軍の将軍たちがこぞって亡命してしまった。

 ユギタリア王国軍は国王の降伏宣言に逆らってジギタスとの緩衝地帯に後退したあと兵たちはみな散り散りになったけど彼らの落ち着き先の面倒を見たのはジギタス国王と言われている」


「ジギタス国王やけに面倒見いいね」


「うん。ジギタス王家に昔ユギタリア王国の王女が嫁いでいるからね。

 ジギタスとユギタリアは昔は友好国だったんだよ。

 シュールデルに騙されたあの国王の前の王まではね。

 それにユギタリア王国の軍人たちは魔導師が多いんだ。

 魔導師を欲しい国はたくさんあるよ。

 ユギタリアとシュールデルに叛意を持っている強い魔導師の軍人なんてジギタスにとっては欲しい人材だよ。

 ジギタスは侵略国家のシュールデルに国境を接しているからね」


「なるほど」


「でもヴェルデス州とカウストラスはシュールデルと良好な関係だったはず。

 交易も盛んに行われている。

 でもシュールデルはユヴィニを輸出していない。

 要するにやっぱりユギタリア王国の王家を潰したらユヴィニは採掘できなかったんじゃないかな。

 それなのに王子王女がセイレスに逃げようとしたときシュールデル王国の海軍は捕まえればいいものを砲弾を雨あられと撃ち込んで殺してしまった」


「うんそうだよね。

 その理由は?」


「いくつか仮説がある。

 まず一つ目。

 王子王女らがどうしてもシュールデルに協力しようとしないので諦めて殺すことにした。

 二つ目。

 王子王女らは実はユヴィニを採掘できないことが判ったので殺すことにした。

 三つ目。

 シュールデル国王は王子王女らを捕まえろと命令したのに海軍は命令を勘違いして殺してしまった」


「三つ目だったらそうとう馬鹿だよね」


「シュールデルだったらあり得るって話だよ。

 二番目の仮説はユギタリア国王の病気療養中もユヴィニは輸出されてたから可能性は低い。

 それから四つ目」


「まだあるんだ・・」


「シュールデルは実はユヴィニをこの世界から無くそうと企んだのかもしれない」


「・・え・・?

 どうして?」


「うんまぁ少し説明が長くなるんだけど。

 昔からシュールデルは周りの小国家を侵略して滅ぼし国を大きくしていった。

 それでいつも周りの国を狙ってた。

 西のローデウェイド。

 東のジギタスとユギタリア。

 北のセイレス。

 南のカウストラスも。

 でもそれぞれに侵略しにくい理由があった。

 ローデウェイドは国境に大きな砂丘がある。

 カウストラスの間には川が流れている。

 ジギタスの間には山脈がある。

 その上カウストラスとローデウェイドジギタスはシュールデルと軍事力が拮抗している。

 軍事力が同じ場合侵略する側のシュールデルは不利だ。

 川や山脈や砂丘を越えようとした軍が残らず潰されるからね。

 だから侵略出来ない」


「なるほど」


「シュールデルはユギタリアを手に入れられたからジギタスに侵略できるかもしれないけどね。ユギタリア側から陸路で行けるから。

 でもこのたびのことでユギタリア王国の魔導師の軍人たちをジギタスは手に入れた。

 シュールデルはジギタス侵略は諦めるしかないだろうね」


「そうか」


「それでユギタリアだけど。

 ユギタリアには軍人に魔導師が多くて強いって昔から言われていた。

 おまけにユギタリアは侵略しても旨味のない国だ。

 土地に砂丘が多いし。禿げた岩山ばかりだし。

 だから国民も少ない。

 国土よりも実態は小さい国だった。

 それにほとんど唯一の特産品のユヴィニはユギタリア王族しか採掘できない。

 それでもシュールデルに侵略されたけどね国王が愚かだったから」


「・・うん・・」


「それから北のセイレス。

 セイレスとシュールデルの間には海がある」


「うん」


「でもセイレスの隣にはマデール連邦国がある。

 マデールの中のキースレアはシュールデルに墜とされそうなんだ」


「・・へぇホント?」


「うん。マデール連邦国はもうガタガタな国だからね。

 崩壊しかかってる。

 とくにキースレアは経済的に立ち行かなくなってる。

 シュールデルの飛び地になるだろうね」


「なるほど・・」


「そうしたらセイレスは危ない。

 セイレスは地下資源が豊富でとくにズール石が採れるから。

 シュールデルにしてみれば無理をしてでも手に入れる価値があるんだ」


 ――ズール石は知ってるぞ。

 調べたことがある。

 イバが魔道具を発動させるのに使っていたあの石だ。


 ズール石は特殊な磁力を持った石だった。

 ズール石の磁力は魔力にじゃっかん似ている。

 おかげで魔道具関連の色んなことに使える。

 魔道具に魔力を供給する「魔力充填用魔石」の代わりにも使えるし魔道具を発動させるのにも使える。


 魔道具を発動させるには魔力を少々流してやらなければならない。

 魔力を持っている者なら自分の魔力で発動させる。

 魔力を持っていない者は魔石かズール石を使う。


 ただ使えるのは魔石やズール石を擦り付ける「スイッチ部分」が取り付けてある魔道具だけだ。

 スイッチ部分は摩耗してやがて使えなくなるのでその場合は修理して新しいスイッチに取り替えれば良い。


 イバが火を焚く魔道具以外にはザイルズ邸の魔道具を使わなかったのはスイッチ付きの魔道具はそれしかなかったからだ。


 ズール石は魔法陣の研究にも欠かせない。

 魔法陣を設計しテストするときにズール石が使える。

 ただし偽魔石ゆえに2,3回しか発動させられない。魔法陣を描いて使うとすぐに石が変質して偽魔石でなくなってしまう。

 それでも設計した魔法陣が意図した機能を持っているかを試すことができる。


 もしもズール石が無かったら高価な魔石をテストに使わなければならなくなる。

 ちなみにリディアが魔道具屋で調べたところ魔石は一番安くて銀貨1枚。

 ズール石は大銅貨1枚で2個買える。

 魔石の20分の1だ。


「偽魔石のズール石だね」

 とリディアが思い出しながら呟く。


「うんそう。

 この辺りでズール石が採れるのはセイレスだけだ。

 セイレスは気候が乾燥していて砂丘地帯や岩山が多くて国としては条件がすごく悪いけれどその代わりズール石が採れる。

 おかげでズール石を輸出して足りない食料や資源を買うことが出来る。

 ズール石はどこの国も欠かさず買うからセイレスは経済的には安泰なんだよ。

 でももしもセイレスがシュールデルに墜とされたらズール石の鉱山はシュールデルのものになってしまう」


「マズいね」


「うん。マズい。

 ズール石はセイレスの鉱山であって欲しいとどの国も願ってるよ。

 普通の国はね。

 それでセイレスはけっこう軍事力は充実している国なんだけどね。

 ただユヴィニを使った魔道具の攻撃兵器を多く持ってるらしい。

 セイレスはユギタリア王国と熱心に交易をしていたからね。

 ユヴィニを用いた魔法陣はそれ以外の素材で作ったインクの魔法陣とはだいぶ違ってしまうんだ。

 魔石の魔力をユヴィニはずいぶん効率的に使えるからね。

 軍事兵器は軍隊が軍事演習をするときにどうしても使うだろう。

 そうでないといざというとき軍人たちが使えないからね。

 だからユヴィニを使った兵器で軍備している国はユヴィニが手に入らないと弱体化してしまうんだ」


「そうか・・。

 セイレス危ないんだ・・」


「そういうこと。

 ただ教諭が言うにはシュールデルはそういう気の長い作戦は今までやってこなかった。

 それにユヴィニが手に入らないとシュールデルだって不自由なんだよね。

 あの国の連中はそういう耐久生活に辛抱しながら敵の弱体化を待つとかそういう国じゃなかった。

 だからもしもセイレスを狙うという理由でユギタリアを侵略したなら今までとは毛色の違う参謀が付いたのかなって教諭は首を傾げてた」


「なんか色々よく判らないところがあるね、あの侵略」


「そうなんだよ。謎が多いんだよ、実はね」


「ねぇ・・ジェイ。

 もしも・・ディアナ王女が子供を産んでいたらどうなっていたと思う?」

 リディアはためらいながら尋ねてみた。


「アドニス王子の子だね。

 残念ながら生まれなかったみたいだけどね」


「うん。

 残念だと思う?」


「そりゃ思うよ。

 そうしたらユギタリアの王族は全滅しなかったし」


「そうだね」


「でももしも生まれていたとしたらキルバニアでかな・・」


「ふたりはキルバニアに居たから?」


「うん。戦争が起こる2年くらい前からキルバニアに居ただろ。

 国境の村のところだからここからはだいぶ離れているけれどね。

 一応キルバニア州内に居たんだよね」


「記事ではディアナ王女はキルバニアの知人の邸に居たとあったね」


「そうだね町長邸にも居られたし。

 ユギタリア将軍家の令嬢が嫁いでこられてるからその邸とか。でも国境の村にも滞在してたよ。地元の話だから町のみんなは知ってるんだ。

 それでそれ以前は子供は出来なかっただろうから」


「そう?

 キルバニアに来られる半年以上前に結婚されてたのよね。

 最初にキルバニアに来たのは戦争の2年前だけれど。

 ずっとキルバニアに居たわけじゃないよね」


「アドニス王子は12歳のときに侍女を手籠めにして避妊の足輪を付けられてたから・・」


「え・・ホント?」


「有名な話だよ。

 アドニス王子がパーティで『この足輪があるからいくらやっても子供が出来ないんだ』って自慢したから」


 リディアは呆気にとられて言葉が出なかった。


「知らなかったの?」

「知らなかった・・」


 ――知りたくなかった・・。


「キルバニアのゴシップ誌の記事によるとアドニス王子がユギタリアに遊学しに行ったときユギタリアとヴェルデスはディアナ姫とアドニス王子の婚姻を最初から考えてたらしいんだよね。

 アドニス王子の異常な女癖の話が有名になってもうアドニス王子の婚姻は外交の駒として使えないから。ヴェルデスとしてはどこでもいいけど、なるたけ見栄えの良い結婚相手を探してた。

 ユギタリアの方でも国境を接するヴェルデスの王子と側室の娘であるディアナ第四王女との婚姻は良いと考えていた。

 女癖の話もあんまり酷い話が流布されてたから大方大げさに噂されているだけだろうくらいにしかユギタリアの王家は思っていなかった。

 なにしろユギタリア王家の情報収集能力はゴシップ誌の記者に負けるレベルだからね。

 国王がシュールデルに騙されたくらいだから」


「情報戦でボロ負けなわけだ・・」


「だね。

 それでね、それなのにアドニス王子は歓迎の宴でディアナ姫を庭に連れ出したとき警護の者が手薄だったから庭園の隅のガゼボで無理矢理自分のものにして・・」


「・・ぇ・・? うウソ・・」


「ユギタリア王宮内のひとがユギタリアの記者に暴露して記事になって大騒ぎだったろ。

 それでユギタリアとしてはアドニス王子が女癖うんぬんのレベルではなくほとんど性犯罪者だったと知ってどうしたものか迷ったらしいけど。

 ディアナ姫はショックで自室に籠もってるし。

 でも婚姻させないわけにはいかないだろうと。

 アドニス王子は『ディアナ姫と結婚したい』としつこく言ってうるさかったらしくて」


「放って置けば結婚できたのによけいにこじらせたということ?」


「なんか我慢できないひとらしい」


 リディアは呆気にとられて口が閉じられなくなった。


「アニス口閉じなよ餌待ってる雛鳥みたいに見えるよ」


「あ、は、はい」


「それでディアナ王女と結婚したときにようやく足輪を外して貰えたけど。

 長年避妊の足輪を填めてるとその・・機能が衰えてしまうというか・・。

 子供が出来にくくなるんだってさ。

 そんなわけでアドニス王子は安心して浮気に励んでたらしいんだけど。

 ベルーシの令嬢との間に子供が出来でさ。

 でも噂によるとそのベルーシの令嬢あちこちで男と遊んでたって有名な尻軽女だからホントはアドニス王子の子か判らなかったけど。

 でもアドニス王子は潔く養育費とか払ってたみたいだよ。

 偉いよね」


「ジェイ・・それっていつも0点とってる劣等生がマレに20点とったら偉いと思ってしまうって奴?」


「あ、それそれ。

 上手いねアニス」

 ジェイは笑うがリディアには引きつった笑いしか出なかった。


「・・その子魔獣に殺されたみたいだけど」

 リディアが言うとジェイは目元を険しくした。


「うん。酷い遣り方だよね」


「やっぱり暗殺?」


「そりゃそうさ。

 だって町中だったんだよ。

 森の中ならいざ知らず」


「魔獣を操ったってこと?」


「魔獣は魔素と瘴気の森からあまり離れないだろ。

 魔獣を捕らえるのは難しいし。

 だからたぶん赤ん坊を魔獣の居る森に置いた・・とかかな・・。

 魔獣の森に人間が入ったらすぐに魔獣が寄ってくるから」


「すぐに?」


「すぐだよ。

 どこの家でも学校でもすぐに寄ってくるから森に行くなって教えるだろ。

 危ないから。

 逆に魔導師は魔獣は避けるけどね。

 魔導師の光魔法が魔獣は苦手だから」


 ――そうだったんだ・・知らなかった。

 だからレーザーカッターがよく効いたんだ。

 私魔導師じゃなかったら、とっくに死んでたかも・・。


 リディアは今更ながら背筋が寒くなった。


「それから食い殺された遺体を邸に戻したんだよ。

 アドニス王子を脅すために」


「シュールデルがやったのかな」


「シュールデルに依頼されたヴェルデスだと思うよ。

 アドニス王子がディアナ王女を隠して渡そうとしなかったから」


「隠してたの?」


「アドニス王子はベルーシをうろついた時に隠れ家に丁度良い宿屋とかに詳しくなったんだってさ。

 政情不安で治安の悪いベルーシにはヴェルデスも手こずって探しきれなかったとか。

 キルバニアで囁かれていた噂だけどね。

 でも実はベルーシに居ると見せかけてキルバニアで匿ってたとか。

 どれがホントか判らない噂が当時はたくさん流れて、みんな興味津々で推理してた」


「そうなんだ・・」


「あの最中に子供が生まれたとしたらキルバニアでかなと思ってさ。

 いくらなんでも政情不安のベルーシで赤ん坊を産んだりとか大変そうだろ」


「そうだね」


「それで・・そうか・・。もしも生まれてたら・・」

 ジェイはしばし考え

「そうしたらユギタリアの王子王女は殺されないで済んだかもしれないね」

 と答えた。


「・・どうして?」


「だってさ昔からユヴィニはユギタリアの王族にしか採掘出来ないって言われていた。

 でもユヴィニの鉱脈はユギタリア以外にもあるだろ、きっと。

 あの珍しいズール石でさえセイレス以外に二箇所は大きい鉱脈が見つかってるんだから。

 一箇所ということはないよね。

 キルバニアでディアナ王女の子供を保護してると判ればシュールデルはユギタリアの王子王女を殺したりしなかったはずだよ。

 殺害してしまえば自分のところでユヴィニを採掘できる可能性は皆無になって代わりにキルバニアがユヴィニの唯一の産出国になってしまうんだから。

 セイレスを追い詰めるために王子王女を殺害する意味は無くなる・・それどころか手持ちのユヴィニの優位点を失うことになる」


「そうかそうだよね。

 そうしたら・・そしたら・・」


 ――私が生きているって・・私が居るって・・報せることが出来ていたら・・。

 叔父さん叔母さんたちは死ななかったということ・・?

 ・・そんな・・。


 リディアの頬を幾筋もの涙がこぼれ落ちていった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 今のところ、アドニスには嫌悪しか出てこないんだが…これが逆転する日がくるのだろうか
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