第1章 ― 5
洸一と別れた後、夏希は母とは会わず祖母と2人で衣装の確認を行った。
正直、母とは会いたくなかったので、祖母の気遣いに感謝だ。
その夜、拝殿の一室を宛がわれた夏希は、1人の時間を満喫していた。
昼間の言い争いで、部屋の中に参考書はなかったが、同時に娯楽物が1つもない。せめてテレビか何かあれば良かったが、この部屋は本当に“寝るだけの部屋”でしかなかった。
「う~ん、これなら参考書でもあった方がマシだったかなぁ」
しかし、それを認めるのも癪だ。
どうせ頭に入れるつもりがないものをやっても仕方がない。
それにしても退屈だ。
今日は早々に布団に横になった方がいいだろうか。
ウトウトと考え事をしているとーーー。
リイィィィン
どこからか鈴の音が聞こえてきた。
この土地にやってきてから度々聞こえてくる鈴の音。最初は気にしていなかったが、こうも頻繁に聞こえてくると気になってくるもの。
「どうせ、時間もあるし探してみようかな?」
夏希は耳を澄ませて音の元を探すため、部屋の外に出た。
シンと静まり返る廊下。歩く度にギシギシと音が鳴り、心臓の音がバクバク早くなる。
今すぐ回れ右して部屋に戻ろうかと視線を後ろに下げるとーーー。
リイィイイィィィン
すぐ近くに音が聞こえてきた。
夏希は足を速めて、音が聞こえてくる部屋に足を踏み入れた。
夜の参拝の間は明かりが外から差し込む月星光りのみで薄暗い。部屋の中心に、赤い杯が2つ置かれている。近付いてみると、片方の杯に錆びた鈴が置かれていた。
「まさか、これが鳴っていたの?」
元の色が分からないほど錆びきっている鈴に手を伸ばした瞬間、夏希は目の奥を焼き付けるような強烈な光りに襲われ、咄嗟に瞼の上に腕を押しつけた。
(な、何? 何が起こってるの?)
訳が分からず、光りが収まるのを待っていると、今度は足下が歪み、まるで巨大なゼリーに立たされているような妙な浮遊感に見舞われた。
身体が安定しないと言うのは気持ちが悪く、目が回り、段々と意識が遠退いていった。
第1章はここで終わります。第2章をお楽しみに!