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山神様の呪い  作者: 海埜ケイ
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エピローグ3



―――チリン


懐かしい音を聞いた気がする。

朦朧とする意識を浮上させ瞼を押し上げると、目の前に狐のお面を被り、青灰色の着物を着た少年が立っていた。

「だれ?」

 見たことあるようなないような少年に尋ねると、彼は少しだけお面を押し上げて口元を覗かせた。

「初めましてだな、夏希」

 まだ声変わり途中なのだろうか、不思議な響きの声が耳に入る。夏希は身体を起こし、手の甲で瞼を擦ろうとして止められた。

「せっかくの化粧が落ちるぞ?」

「・・・あんた、だれ?」

 目を細めてみても、やはり知らない人だ。段々、頭の中が冴え渡り、腕を掴まれている事に気付く。

「ちょっ、離し・・・」

 腕を振り解こうとした時、少年の右手の平が夏希の視界いっぱいに映り込む。無数の丸い傷の跡。これが、何を示しているのか瞬時に分かり、夏希は半信半疑で“彼”の名前を呼んでみた。

「ひ、・・・・洸?」

 少年は面を外す。整った顔立ちも、少し色黒の肌も、勝ち気で優しい瞳も、何となくだが洸にそっくりだ。彼は、今にも泣き出しそうな、嬉しさが滲み出るような声で「夏希」と名前を繰り返し、両手を広げる。

 それだけで充分だ。

「洸っ!」

 夏希は彼の胸に飛び込むと、彼は夏希を受け止め、背中に手を回した。彼の胸元に耳を当てると、トクントクンと心臓の音が聞こえてくる。

 生きている、生きているんだ。

 嬉しくて、嬉しくて涙がボロボロとこぼれ落ちる。彼は背中に回した手で、夏希の背中を叩いて落ち着かせてくれる。

「・・・洸。どうして、この時代に?」

 疑問を投げかけると、洸は目を閉じて何か決意を秘めた後、夏希の肩を押して視線を交わした。

「オレの名前は高原 洸じゃない。洸は60年前に死んでるよ」

「・・・え、それじゃあ」

 あなたは一体。

 夏希の疑問に、彼は困った風な笑みを浮かべた。

「オレの名前は高原 洸二。洸一の弟で、洸の生まれ変わりだ」

「洸の、生まれ変わり?」

 洸二は小さく頷いた。

「オレが洸の生まれ変わりと知ったのは、7歳の時だった。神さまから魂を全て頂いた時、記憶と、この手の痣を授かったんだ」

「手の痣を授かるって・・・」

「浮かび上がってきた」

 あっけらかんと洸二は話しているが、想像すると軽くホラーだ。ある日突然、右の手の平に拷問の痣が浮かび上がるなんてーー。

「家の人には何か言われなかったの?」

「散々、言われたし病院にも行った。けど、何の異常もないし、当のオレも痛がっている様子もないから放っておくことにしたらしい。洸一は今でも、この痣の事を結構、気にしてくれてるんだが、説明し難い」

 確かに、いくら洸一が人心に長けているとは言え、前世に受けた傷が痣となって浮かび上がっただけなんて言われたら、返答に困りそうだ。苦笑いを浮かべている姿が目に浮かぶ。

 夏希が自分の思考に浸っていると、左手を握られ、意識を取り戻した。

「過去の記憶を取り戻した後、オレは酷く狼狽した。知っているようで知らない場所。知っている人は皆、年老いているし、知らない人の方が多い村。おまえは、ずっとこんな思いをして過ごしていたんだなって、その時初めて知ったよ」

 辛かったな、と頭を撫でられる。けど、それは洸二も同じだ。むしろ、たった一週間しかいなかった夏希よりも、洸二の方がずっと大変だったのではないか。知らない人だらけの場所で、知っている人は自分を知らない。

 悩みを打ち明けたくても、打ち明けられず、ずっと、ずっと堪え忍んでいたのではないか。夏希は洸二の背中に手を回して、背中を叩いてあげた。

「辛いのは洸の方だよ。私なんか一時の居候。けど、洸はずっと暮らしていなくちゃいけなかったんでしょ? ・・・・頑張ったね」

 背中を叩いていた手を後頭部の方へ持っていき、頭を撫でてあげると、洸二は夏希の腕に顔を埋めて夏希に縋るように抱きついてきた。

「・・・辛いよ。守るはずの灯は爺さんで自分の祖父になってるし、母さんと父さんは、もうこの世にはいない。友達も何人かは村を出てるか・・・になってるし、残ってるヤツと言えば芽依夫妻しかいないしさ」

 啜り泣くようにか細い声。本当に、ずっと耐えてきたんだ。辛くて、苦しくて、堪らなくて、けど誰にも心の叫びを聞かせられなくて。

(洸はようやく吐露できたんだ)

 夏希にできることは聞いてあげることしかできない。洸二の頭を撫でながら、洸二の話しの続きを聞く。

「・・・・で、ようやくお前に会えたと思ったら、お前泣くんだもん。手の痣も知らないって言うし、訳分かんなかった」

 急に自分の話題を振られ、「ん?」と疑問符を浮かべた。

「え? 私、この時代で洸に会ったことあったっけ?」

「あるよ。オレはずっとここに住んでるんだからな。けど、小さいお前を泣かせて以来、オレはおまえに近付くのを止めたよ。今思えば、おまえがオレのことを知らないなんて当たり前だったんだけどな」

 洸二は夏希から顔を上げ、少し赤くなった目元を隠すように狐の面を被り直した。

(・・・そっか、あの時のいじめっこって洸のことだったんだ)

 夏希が、洸一に好意を寄せることとなった出来事だ。高原神社の境内で見知らぬ子に掴み掛かられて、泣いて助けを求めた所へ洸一がやってきたあの時だ。

 きっと、洸はようやく自分を知っているはずの夏希に会えたことを、ただ純粋に喜んだだけだったのだ。だが、当時の夏希は洸のことを知らない。見知らぬ子供に詰め寄られた恐怖で泣いた記憶しかない。その後の、洸二の絶望を思うとーーー。

「夏・・・」

 夏希は洸二の頬に、軽く当てた。ごめんねという謝罪と、もう一つの感情を込めてーーー。

 洸二はポカンと目を見開いている。

 恥ずかしい。けど、夏希はキッと洸二に向き直った。

「もう二度と洸を1人にはしない。これからはずっと一緒だよ」

 断言すると、洸二は一拍置いた後、「クハッ」と笑い声を立てて、僅かにお面をズラす。

「おまえって、本当に格好良いな」

「え? そうかな」

「そうだよ。・・・ていいうよりも、オレのことは洸二って呼べよ。じゃないと洸一が不審がるし、灯がな」

 言葉尻を小さくする洸二に、夏希は口を噤んだ。7歳の頃から今の年になるまでの間、きっと洸は灯の前で自分が“洸”ということを言ったのかもしれない。その時、何て言われたのかは想像するしかないが、今の洸の顔付きから良い感情ではないことくらい何となく分かる。

 夏希は自分の左手の平を、洸二の右手の平に重ねて握った。洸二は一瞬だけ驚いた顔をしたが、握り返してくれた。

 これだけで充分だ。

 もう何も言わなくても分かる。

 りゅうことキヨの加護を得て、更には血を交えることで成された2人の(まじな)いは、きっと解けることはないだろう。

 





ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。少しでも目に触れることができて幸いに思えます。

それでは、また……。

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