エピローグ2
三の型まで踊りきった夏希は、無事にお役目を果たすことができた。
舞台裏にある長椅子に腰を掛け、壁に寄っかかって休んでいると、ギィッと床を踏みしめる音が聞こえて、そちらに視線を移した。
「・・・お母さん」
母は仏頂面でこちらを見ている。
何か言いたげで、だけど言葉が出ない様子に、夏希はフッと笑みを零してピースサインを向けた。
「私、ちゃんとやれたよ! 受験もこの勢いで行くつもりだから、安心して!」
母は鞭で打たれたように、ハッと顔を上げた。
「正直、まだどこの高校に行きたいとかないけど、お母さんが志望する高校も視野に入れて考えてみる。もちろん、勉強は疎かにしないよ、塾にも講習にも参加するし、今月中に行きたい高校ができなかったら、お母さんの言う高校を受験するつもり。どう?」
夏希なりにちゃんと考えた結果だ。今から志望校を探すにしても、時間が足りなさすぎる為、残り一週間しかない今月中と時間を定めた。
多分、夏希は母の言う志望校を受験することになるだろうけど、後悔するならせめてやれる範囲のことをやってから後悔したい。
夏希の主張に、母は困惑したように視線を彷徨わせてから俯いた。何となく、その様子が、バツの悪い時にする夏希自身とリンクして笑みが零れる。
「・・・あなたが、そう決めたのならそうしなさい。ただし、もう勉強を強制することはしないから、受験に失敗して泣きを見ても慰めないからね」
負け惜しみのような言葉を言われても、不安になったり、心が揺れることはもうない。この人は、自分を心配してくれていただけで他意はなかったのだろう。ただ、自分の感情にも素直になれなかった所は、夏希同様直さなければならない悪い癖のような気がする。
「ありがとう、お母さん。心配してくれて」
感謝の気持ちを伝えると、母はカッと顔を赤くして背を向けてしまった。
「・・・夏希、たこ焼き好きだったわよね?」
「え、うん。屋台飯は好きだよ?」
「買っておくから、明日の朝ご飯にでもしなさいね。・・・今日はゆっくり休みなさい」
母はそう言うとさっさと入り口から外に出て行ってしまった。
本当に分かりにくい、ツンデレだ。
夏希は再び、壁に背中を預けて目を閉じた。




