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山神様の呪い  作者: 海埜ケイ
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エピローグ1



 縦笛の音が鳴り響き、リズミカルな太鼓の音が後を追う。神社の至る所に設置された提灯が、風も吹かずに揺れている。

 時は既に夕刻を過ぎ、逢魔時の真っ只中だ。しかし、この時代に、そのような逸話を信じる者はいない。境内は老若男女の人々で溢れかえっている。

 外の雑多な様子を舞台裏からほんの少しだけ顔を出して見ては、すぐに顔を引っ込めた。

(めっちゃ、人が居るんだけど・・・)

 一体、村のどこにいたのか疑問になるくらい、大勢の人で賑わっている。もしかしたら隣町や余所の人々も祭り騒ぎに便乗して駆けつけたのかもしれない。

 少し見ただけだが、屋台の数も少なくはなく、祭りの定番メニューばかりで舌綴りする。父が買ってくれていることを祈るばかりだ。

 夏希は長く息を吐き、装飾を身に付けて重くなった巫女衣装を見下ろした。鏡がないから自分では分からないが、村の奥様方から化粧を施され、少し顔が粉っぽい。

 今の自分が、どんな出来になっているのか怖いもの見たさで見てみたいものだ。

 ふと、頬に指先が触れた時、夏希は左手の平にある痣に視線を移し、反対の手の指先で青痣を撫でた。

 この痣は決して消えることがないだろう。何となくだが、そんな気がした。

(この傷があるお陰で、私が過去に飛んでいたのは夢じゃないと信じられるんだよね)

 もし、この痣がなければ、きっと悪い夢を見ていたのだと忘れてしまっていたかもしれない。夏希がこの時代に戻ってきたのは、夏希が未来に飛んで僅か数時間の出来事だったらしい。

 翌日、朝食を持ってきてくれた祖母に、飛びついて喜んだが無下なく引っぺ剥がされるという無体を行われた。アレは悲しかった。

 その後、すぐに祭りの準備に入った為、夏希はまだ祖母以外の家族と出逢えていない。

(洸一さんも、手伝いに駆り出されているせいで話せていないんだよね)

 夏希は自分でも気が付かないくらい、ホームシックになっていたらしい。

 今は帰れた喜びが大半を占めているが、寂しくないと言ったら嘘になる。

 まるで夢現な出来事で、狐か狸に化かされた気分になるが、瞼を閉じれば過去で出逢った人たちの姿や暖かさを、すぐにでも思い出すことができた。・・・もう二度と会えない人々のことを。

(ううん。洸の弟の灯はいるけど、あの時代ではまだ赤ちゃんだったしなぁ)

 現代に戻れば、厳つい顔の気難しいおじいさんだ。あのふくよかな天使の寝顔は二度と見られない。

 夏希が肩を落としていると、背中を叩かれた。

「!?」

「夏希さん、背中が曲がっています。ちゃんとしてください」

 振り返ると、そこには祖母が立っていた。厳しい瞳を向けてくる姿が、誰かと重なり、夏希は眉間に皺を刻んだ。

「あのさ、お祖母ちゃん」

「何ですか?」

「お祖母ちゃんの初恋の人って、お祖父ちゃん?」

 尋ねると、一瞬だけ祖母は悲しげな表情を浮かべ、キリッと顔を引き締めた。

「・・・初恋は実りません。ですが、私はあの人と一緒になれて心から幸せです。もう私語はおやめなさい。そろそろ出番ですよ」

 話しを切られると同時に、大太鼓が打ち鳴らされた。――時間だ。

 ガヤガヤと祭りを楽しんでいた人々が舞殿の前へ移動を始める。

 人の流れが収まった後、神職である灯が口上を述べて、鎮魂の儀が始まった。

夏希は深呼吸を繰り返して緊張から平静を取り戻すと、舞台袖から身を乗り出し、舞台中央へ駆け寄った。

 手を空に仰ぎ、神楽鈴を打ち鳴らす。


――祓い給え、清め給え


 二度と、この神社で血が流れぬように、苦しいこと、悲しいことが起こらないように、願いながら鈴を振るい、膝を付き、頭を下げた。

 音楽は一切ない。

 鎮魂の儀に、鈴以外の音は必要ない。

 60年前、りゅうことキヨの魂は救われたが、それを知る人はいない。それでも伝統が続いているのは、人々が山神様を慕っている事に他ならない。あの2人は今でも、本殿で仲睦まじくしているのだろうか。

 もしかしたら、この鎮魂の儀を見に来ているのかもしれない。

 2人の姿を思い出すと、自然と口角が上がり笑顔になっていく。

 真剣に祈れ、2人の為に、

 場を制し、空間を切れ、

 汗を流しながら、夏希は精一杯、踊った。

 夏希の舞に、芽依の姿が重なる。

 きっと、芽依はこんな気持ちで舞っていたのだろう。

 怒りを静めてください、

 あなた方を脅かすものはもういません、

 好きな人と幸せになって下さい、

 私は、私たちはそれを願いますーーー。




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