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山神様の呪い  作者: 海埜ケイ
36/39

第7章 ― 5



日が傾き始めた頃、村人たちは土砂のことよりも祭事を優先させることにしたようだ。

本来なら夜に行う祭事を夕暮れ前に行うことにしたのは、今回の土砂崩れの原因が山神さまの祟りであり、急ぎ鎮魂舞を捧げなければ、より酷いことが起きると思われたのだろう

夏希は立ち上がり、扉に手を掛けた。

「行くのですか?」

「はい、匿ってくれてありがとうございました」

「お礼はいりません。私はあなたを匿ったつもりはございません、あなたは勝手にここで休んでいただけですから」

コロコロと笑う洸の祖母は、箪笥から狐のお面を取り出して夏希に手渡した。

「これは?」

「お祭りに行くなら着けていきなさい。よそ者は悪目立ちします。けど、祭事を見てはいけない決まりはございません」

洸の祖母の心遣いが嬉しくて涙が流れそうだ。

「ありがとうございました」

深々と頭を下げてお礼を述べる夏希に、洸の祖母は絶えず笑みを浮かべていた。

芽依の“和を尊しとされる方”という言葉がぴったりな人だと、夏希は心から思った。






夏希は杜を出ると、洸の祖母の言葉に甘えて、こっそりと芽依の舞台を観に行った。

まだほんの少しだけ時間も残っているし、同じ舞手として興味があったからだ。

洸の祖母から借りた狐のお面を顔に着けて、祭事に紛れ込む。幸い、面を付けている子供が多く訝しく思われることはなかった。

太鼓の音が響き、横笛が吹き鳴らされる。

いよいよ始まった。



見ているだけで神秘的な光景だった。

舞台に立つ芽依は以前の10割増しの美女だったし、踊りも完璧だ。

鈴の音を鳴らし、神に祈るように舞う。

風を纏い、場を征し、舞台の華として咲き誇る。目が離せなく光景に、夏希は自分の練習風景を思い出していた。



ーーあなたの神舞には真剣味が足りません。



ーーただ型通りに舞えばいいというものではありません。神に祈り怒りを鎮めて貰わなければならないのです。



ーーもう一度、やり直しなさい。



この時代に来る前に散々聞かされた台詞だが、同じ舞台で舞う芽依の姿を見てると、夏希の舞との差に愕然とさせられた。

(全てが違う)

洗練された動き、手の先、指の先まで意識し、自然に舞う姿に圧倒される。


シャンシャンと神楽鈴が鳴り響きーーー、



リイィィィン



帯ヒモに付けていた鈴の音が甲高く鳴り響いた。この音は夏希にし聞こえていない。

時間だ。

これ以上、この時代にいることはできない。

夏希は芽依のいる舞台に背を向けて拝殿へと急いだ。

舞殿から離れると、人の気が少なくなっていく。点々と続く灯籠を頼りに進んでいくと、程なくして拝殿に辿り着いた。

りゅうこの言っていた部屋へ向かうと、部屋の前に綺麗に畳まれた着物が置いてある。

恐らく祭り前に芽依が、高原家の客間から取ってきてくれたのだろう。着物を広げると、泥で汚れてしまった影もなく真白で綺麗な状態だ。

これを洗ってくれた葉子に、もう二度と感謝の気持ちを伝えられないのだと思うと胸が苦しくなった。

部屋に入り、夏希は手早く着替えた。脱いだ着物は畳んで部屋の隅に置いておく。

(直接、言えなくてすみません。本当に、ありがとうございました、司さん、葉子さん。短い間でしたけどお世話になりました)

借りた着物に深々と頭を下げる。

元の時代に帰れば、二度と会うことはできないが、二人にして貰った優しさはきっと忘れない。

りゅうこから受け取った鈴を手にし、部屋の中央に立つ。

この時代に未練を残さず祈れば良い。



ーー帰りたい、帰りたい、帰らせて。



たくさんの辛いことがあった。理不尽なことに涙した。苦しくて、寂しくて、助けを求めて・・・・・助けられた。

司に、葉子に、洸に、りゅうこに、芽依に、洸の祖母に助けられて夏希はここにいる。

元の時代に戻っても、絶対に忘れない。

中学最後の秋のはじまりに起こった、神隠しのことをーーー。





この後エピローグが続きます。最後まで読んでくれたら幸いです

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