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山神様の呪い  作者: 海埜ケイ
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第7章 ― 4


ほんの数日前に訪れた杜は、とても静かだった。

だが、人の気配がする。以前と変わらぬ場所で布団を敷き、昼寝をする灯と見慣れぬ老婆が1人。

(この人が、洸のおばあさん)

 黒髪を見つけるのが難しいほどの白い髪を1つに括りお団子頭で纏めている。手も顔も皺くちゃなのに背中はピンと伸びていた。穏やかな笑みを夏希に向けた。

「おやおや、お客様ですか? ここはとおりゃんせですよ」

 のんびりとした口調で窘めているが、言動には「入ってくるな」と、拒絶を感じられる。

 ピリッとした張りつめた空間に背を向けることは簡単だが、ここで引き下がれるほど、今の夏希の現状は芳しいものではない。

「すみません、玄関先で良いので居させて下さい。私には、ここしかないから」

「ここしかない? おかしなことを言う人ですね、あなたには自分の居場所があるのではないですか?」

「ありません。少なくとも、この時代にはありません。なくなってしまいましたから、・・・信頼も、何もかも」

 罪を犯したことで、夏希はもう司と葉子の元には戻れないし、洸は帰らぬ人になった。もう、この時代に夏希の居ていい場所はない。文字通り独りぼっちだ。

(同じ独りぼっちでも一週間前と比べると、スゴく息苦しい)

 右も左も分からなかったあの時と比べて、今はこの時代のことをたくさん知ってしまった。人の優しさや、想いやりを肌で感じてしまった。もう知らなかった頃には戻れない。

 自然と瞼裏から涙が零れてくる。とめどめなく流れる涙は、夏希の足下に斑点模様を描いていき、―――手拭いを差し出された。

「そんなに泣いたら、目玉がとろけてしまいますよ。あなたに何があったのかは知りませんし、知ろうとも思いません。けれど、涙を流す人を前に手拭い1つ手渡せないほど、鬼ではございません」

 手拭いを受け取り、夏希は手拭いを顔に押し当て、声を押し殺して泣いた。

 洸の祖母は黙って夏希を静観していたが、その瞳には慈愛の念が込められていたことに、夏希は気付くことはなかった。





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