第7章 ― 2
「――――っ、ダメです!」
夏希の身体を押しのけ、芽依が崖から身を乗り出して鈴を手にした。
夏希は咄嗟に芽依の帯を掴み、芽依が落ちないように支える。
「芽、依?」
呆然とする夏希に、芽依は振り返りキッと睨み付け、夏希の頬を平手打ちした。
頬がジンっと痛む。
「あなたは、自分が何をしようとしたのか分からないのですか? 洸は、あなたを家に帰そうとしていたのに、その想いを無下にするおつもりなのですか?」
「違っ・・・」
「違くないでしょう! この鈴はあなたの家の道標です。それを手放すと言うことは、洸の行ってきた事の全てを否定すると言うことに繋がります」
グウの音も出なかった。
考えることを放棄して、流れに身を任せてしまった方が気は楽だった。
彼への好意も、罪悪感も、全て消してしまえたら楽に慣れたというのに、芽依はそれを許さなかった。
純粋で真剣な眼差しを向けられ、夏希は肩の力が抜けるのを感じた。
(眩しいなぁ)
自分にはない気質のある芽依を羨ましいと思う。
意地っ張りで、素直ではない自分が酷く子供に見える。
芽依は夏希に鏡を握らせた。
「帰りなさい。それが彼の望みなのですから」
夏希が嫌いだから帰すのではない。洸の願いだから帰そうとしているのだ。
そんな単純なことに気が付かなかった自分は本当に間抜けな道化師だ。
夏希はクシャッと顔を歪め、「ありがとう」とお礼を言った。
芽依は少しだけ眉を顰め、苦笑を漏らした。
「お礼なんていりません、だって私たちは友達でしょう?」
どこまで器がデカいのだ。
夏希は今度こそ笑顔を浮かべた。




