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山神様の呪い  作者: 海埜ケイ
31/39

第6章 ― 4

洸sideです



全身の力が抜ける。

洸の身体は限界に近かった。気付け薬の効果はとうの昔に消えてしまい、鳴りやまぬ頭痛と右手の激痛に、身体が悲鳴を上げている。

(終わったんだな)

 これで夏希を元の世界に帰すことができる。苦しますこともなく、優しい家族の元へ送り届けることができるのだ。

 洸は額に手を置き、違和感を感じた。

 おかしい。

 キヨの怨念は浄化されたはずなのに、キヨから受けた呪いが沸々と熱を持って作動している気配がする。

「倒すのが、遅すぎた?」

 あり得ない話しではない。呪いを受けて既に1日は経っている。キヨの魂を浄化しても、キヨから受けた呪いがジワジワと作動するものなら、その流れを止めることはきっと誰にもできない。

 キヨから受けた呪いは“天災”。恐らくは自然災害の一種だ。今すぐここから離れなくては、夏希達を巻き込むかもしれない。

 洸は虚ろな眼を押し上げて、気力だけで前へ進む。

 もう誰も巻き込みたくない。

 生きて欲しい。

(夏希・・・)

 彼女の顔を思い出す時はいつも、怒っている顔、悲しんでいる顔が大半だ。笑っている顔はほとんど見ていないし記憶にもしていない。

(贅沢は言わない、笑ってなくても良いから)

 もう一度、彼女似合いたいと願い、洸は扉を開け放った。



 秋風が身心に染み渡り、少しだけ息を軽くしてくれた。空を見上げると、満天の星空と共に、崖の上に1つの影を見つけることができた。

「夏希?」

「洸?」

 黒い影は、身を乗り出すように崖から顔を覗かせた。

 彼女は驚いた顔を見せると、嬉しそうに笑みを浮かべた。

「やったよ! キヨを助け出したよ!」

 彼女のはしゃぎっぷりに、崖から滑り落ちないか不安になる。

「あんまり暴れると、落ちるぞ」

「気を付けてるし、落ちないよ!」

 ムッとした表情になる彼女は文字通り、百面相だ。今だけ、自分の目の良さに感謝したい気分だ。心が高揚し、満たされている。

 もう、思い残すことなど何もない。後どれくらい、自分の中に時間が残っているのか分からないから、今の内に言っておいた方が良いだろう。

「夏希、よく聞け」

 腹の底から、気力を振り絞って声を出す。ちゃんと聞こえているのか不安になったが、今は時間がない。

「オレがキヨから受けた呪いは“天災”、つまり天地災害だ。呪いはキヨが浄化されたと同時に消えた。だが、呪いが作動するまでの“天災”は止まることができなかった」

 山頂付近から地鳴りのような音が聞こえた。

 洸は声を掻き消されながらも発した。



――――恨むなよ



 誰を、とは言わなかった。




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