第5章 ― 5
夏希sideに戻ります
肩を揺すられ、夏希は重い瞼を押し上げた。
身体全体が重く、頭が平常に動いてくれない。
(何が、あったんだっけ・・・?)
思い出そうと瞼を閉じると、また思い切り揺さぶられる。鬱陶しくなり、夏希は腕に力を入れて上半身を起き上がらせた。
「だ、れ・・・・・・っ!?」
左手に激痛が走り、夏希は額から倒れた。頭をぶつけても、手の平の痛みが勝り、痛く感じない。ラッキーなのか、アンラッキーなのかよく分からなかった。
「静かにしてください、他の方が来てしまいます」
顔をズラして見上げると、桃色の着物を着た芽依が、中腰になりながら夏希を見下ろしていた。
「芽、依・・・?」
「洸さんを知りませんか? あなたと一緒に捕まっていたはずなのですが、どこにもいらっしゃいません」
「え?」
芽依の言葉に、夏希は段々と思い出してきた。
大人達に捕まった後、タガラに五寸釘で手に穴を開けられたこと。その時は洸もいたはずだ。
なのに、今は部屋のどこにも洸の姿が見えない。
「なん、で・・・」
「それは私が知りたいことです。何故、ここにはあなたしかいないのですか? 洸さんがどこへ行ったのか、あなたは知らないのですか?」
どんなに睨まれても、夏希には心当たりがないから答えようがない。いや、心当たりなら1つだけある。
(洸は本殿に行ったんだ)
洸が何を思って夏希を置いていったのかは分からない。足手纏いと見なしたのかもしれない、けどーー。
(私だって、りゅうこに頼まれたんだ!)
夏希は奥歯に入れていた気付け薬の端を囓った。ほんの少し囓っただけなのに、頭の中を劈くような苦みが口の中いっぱいに広がり涙が出る。全部囓ったら頭が馬鹿になりそうだ。
口の中の苦みのお陰で、左手の怪我の痛みが薄れていく感覚がした。
(これ、気付け薬だけじゃなくって痛み止めも兼ねてるのかもね)
あまり頻繁には使いたくない代物だ。
夏希は怪我をしていない右手をポケットの中に忍ばせて、中にビー玉が入っていることを確認すると、ゆっくりと立ち上がる。
「芽依、お願い。高原神社の本殿に案内して。・・・多分、そこに洸がいる」
芽依は目を見開くと、何か考える素振りを見せてから、帯の中に手を入れて腰ひもを引っ張り出す。
突然、何をするのかと見つめていると、芽依は夏希の左手を持ち、怪我をした部分を腰ひもで巻いてくれた。
「あの、これ・・・」
「この腰ひもが無くても問題ありません。これから山の中を駆けるのに、窮屈なままではいられませんから、お気にせず」
それだけ言うと、芽依は踵を返してさっさと部屋を出ていこうとする。
「後を付いてくるのならばご勝手に。但し、一度、私を見失えば遭難する恐れがございますのでご注意下さい。夜の山は大変、危険ですので」
つまり、芽依に付いていけば洸の向かった本殿に行けると言うことだ。手当もしてくれたし、ほんの少しだけ芽依と仲良くなれた気がした。
「ありがとう、芽依」
夏希の言葉が聞こえたのかは分からないが、夏希が部屋を出ようとした時を狙って扉を閉めるのは悪意しかない。
前言撤回、仲良くなれる気が全くしない。夏希は慎重に扉を開けて、早足で芽依の後を追い掛けた。




