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山神様の呪い  作者: 海埜ケイ
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第4章 ―3



 泣き出した灯の声を聞きつけ、拝殿で作業していた大人達がこぞって夏希を拘束した。運が悪いことに一番に駆けつけてきたのが、高原神社の元跡取り候補の1人―タガタだった。

 タガタと司は従兄弟であり、同じ村で育っていながらも2人の繋がりは非常に薄い。

両親から英才教育を受けて育つタガタと、祖父母に愛され両親を愛して育った司とでは人格も真逆になった。

 勤勉で真面目な努力家のタガタを一族の誰もが次世代の神職に望んだが、前任者が指名したのは四つ年下であり能力もタガタより一回りも劣る司だった。

プライドが傷付けられたのか、それ以来、タガタは村の端に住み、高原神社には滅多なことでは顔を出さなくなったという。

タガタが唯一、顔を見せるのは年に二度行われる祭事だと、夏希は部屋の外にいる見張りの男から聞かされた。

 夏希は生まれていない幼子の元へ行くという、此岸に置いて最大の禁忌を犯した罰として、高原神社の拝殿内にある倉庫に押し込められている。最大の禁忌の罰にしては刑が軽いなと思ったが、見張りの男曰く、祭事前後に流血沙汰を起こしてはいけないという決まりがあるそうだ。

(運が良いんだか、悪いんだか、もう分からなくなってきたよ)

普段から、あまり使われていないせいか物が多くて埃っぽい。夏希は横積みになっているひな壇に腰を掛け、立てた膝に額を埋めた。

数時間前に知った己の現状。異世界トリップかと思えば、ただのタイムトリップというオチ。

(いや、“ただ”のじゃないか。下手したら、私生まれなくなるし)

 自分の考えにゾッとする。夏希の行動1つで、過去が変わり、元の時代に戻れなくなってしまったらと思うと足が竦む。

 怖い。

 この時代の人と仲良くなればなるほど、胸が痛んで苦しい。元の時代に戻ったら二度と会えなくなるだけではなく、既に死んでいるのだから元気かどうか考えることすら許されない。

(死んでるんだ。私は今、死人と話してるって事になる)

 司の優しさが、葉子の暖かさが、洸の笑顔が粉々に砕けて砂になる。時間は戻れない。

関わってしまったからには、夏希の心には彼彼女らが居座っている。元の時代に戻るまでの間、夏希はどんな顔で彼彼女らと接すればいいのだろう。

 顔を上げると、倉庫の窓から月明かりが差し込んでいる。―――共に彼女が現れた。


『寂しい?』


「・・・うん」


『もう傷付きたくない?』


「・・・うん」


 彼女は嬉しそうに微笑みを浮かべた。


『じゃあ、私と一緒に行きましょう。幸せになれるわ』


 夏希の瞳から色が消え、差し出された彼女の手を取った。凍えるほど冷たい彼女の手は、不思議と夏希の中に燃え続けている心の熱を冷ましてくれた。

 夏希は彼女に連れられて、拝殿から“出て”行った。




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