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山神様の呪い  作者: 海埜ケイ
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第4章 ― 1



 この世界に来て五日目が経った。今日は舞殿の清掃や飾り付け、舞手の衣装合わせなどで人がごった返している。夏希は司の家の台所で、おにぎりやお茶の準備をしていた。

「夏希。それが終わったら、休憩にして良いってよ」

「う、うん。ありがと・・・」

「礼はいらない。ちゃんと手伝えよ」

 言うだけ言って、洸はさっさと行ってしまった。何なんだろうか。二日前、逢魔時になっても帰ってこなかった夏希を、洸は司に言われて探しに来てくれて以降、洸の様子がおかしい。

 今までのつっけんどんな態度が一変、普通のクラスメイトの様な態度に変わったのだ。

 何かしただろうかと首を傾げても、半襟を掴み上げて暴言吐いた記憶しかない。逆ギレされることはあっても友好的になるはずがない。

 因みに、夏希も洸も普通の態度で接しているはものの謝罪の言葉は一言も交わしていないのが現状。

(これから祭事があるから喧嘩している暇がないだけなのかな? 現に今だって猫の手を借りたいくらい忙しいし)

 夏希は盆を持って廊下を進み、居間へ運んだ。普段は広すぎて部屋の四分の一しか使っていない居間も、今日は人と物で溢れ返っている。その中で小道具の整備をしていた葉子が夏希に気が付き微笑みを浮かべた。

「用意してくれてありがとう、夏希ちゃん。みなさん、少し休憩を取りましょう」

 葉子の声掛けに歓声が上がった。居間にいるのは殆どが女性で成人済みだが、たった3人だけ夏希と同じくらいの年頃と少し年上の子がいた。

 その内の2人に見覚えがありすぎた。

「芽依ちゃんはこの後、舞手の衣装着るの? 芽依ちゃん、可愛いから絶対に似合うよー!」

「ありがとうございます。早苗ちゃんもとても愛らしいので、きっとお似合いですよ」

「うわ~~、口調も上品やし、ホンマもんのお姫さまみたいやな」

「ありがとうございます、優奈姉さまのような美人になれるよう日々精進いたしております」

「いや~~ん、めっちゃ憧れるわぁ~~。芽依ちゃん、好きーーーっ!」

 3人は女子らしい会話を繰り広げている。

 夏希はそこで初めて洸の取り巻きの女の名前が早苗ということを知った。

(ここに来て五日も経つけど、お互い自己紹介とかしてないもんなぁ)

 優奈という少し年上の子は関西出身だろうか。少し鈍りが入ってる。

 ほんの少しの間だけ3人を眺めていたが、なるべく関わらないようにした方が良いと結論付け、視線を外した。

「ちょっとぉ、そこの三人官女! 夏希ちゃんも入れたげなさいよぉ」

「え?」

「なっ!?」

 1人のお節介な奥さんが、大きな声で3人に呼び掛ける。一際大きな声だったせいか、居間にいる全員の視線が夏希に向けられた。

 好奇な目、胡乱気な目、暖かみのある目、冷たい眼。様々な視線が突き刺さり、夏希は空の盆を胸に抱き、立ち上がった。

「す、すみません! 仕事があるので失礼します」

 脱兎の如く廊下を走り台所に戻った。顔が熱い、喉が渇く。蛇口を捻って湯飲みに水を入れ、一気に飲み干した。

「き、緊張した・・・」

 目立つのは嫌いだ。複数の目が自分に向けられると、どうして良いのか分からなくなり頭の中が真っ白になる、その上、仲が壊滅的に悪い3人組みの輪に入れられそうになれば誰だって逃げ出したくなるものだ。

「おばさんには悪いことをしたかもしれないけど、嫌なものは嫌だし・・・」

今更、戻っても後の祭りだ。3人の内の2人は夏希のことをコレ幸いとばかりに中傷めいた言葉を広めるだろうし、大人たちは苦笑いで対応しつつ、内心は同意するのだろう。ほとぼりが冷めるまで近付かない方が良い。

「てか、休憩にして良いんだっけ?」

 洸に言われたのを思い出し、夏希はおにぎり二個と水筒に水を入れて家を出た。

今日は朝からずっと家に引き籠もって手伝いに翻弄されていた。そろそろ外に出てリフレッシュしたいと思っていた所だ。

林道を抜け、鳥居の前で足を止め、境内を見た。今は作業する人たちが休憩に入ったのか、閑散としている。秋らしい冷たい風が夏希の髪を揺らし、耳元で囁いた。

「・・・本殿」

 昨晩の、“あの人”は本殿にいると言っていた。正直、神社の構造なんてよく分からないが、境内を歩いていれば見つかるのではないかと思い、夏希は鳥居を潜った。

 参道を歩き、手水舎を通り過ぎると社務所が見えてきた。流石に社務所の前には複数の男性が何かを話し合ったり、中にいる人に指示を飛ばしたりしている。

(お疲れさまです)

 夏希は黙礼し、通り過ぎる。

 社務所の左斜め前にあるのは舞殿なのだが、今は赤い三角コーンや黄色と黒の紐が張られ、関係者以外立ち入り禁止なっていた。前を通り過ぎた時、何故か無題の真ん中に塩が置かれていた。

(・・・お祓いですか?)

 意味があるのか分からない。

 舞殿を通り過ぎると、ようやく夏希の見知った神社らしい建物が見えてきた。正面に拝殿、左側には絵馬掛けと絵馬やお守りを売っている授与所、左側には鬱蒼と繁った山へ続く山道があった。

 夏希は足を止め、山道への道を見つめる。道と言っても、長い間、誰も使っていないような獣道と言った方が正しい。行くべきではないと頭の中では分かっているつもりだが、気になって仕方がない。

 夏希は山道の方へ足を一歩踏み出した。

「なあ」

「!?」

 夏希の身体が、そこで止まる。何故、彼に呼び止められるのか分からない。夏希は短く息を吐いて振り返った。

「何、・・・洸、さん」

「洸でいい。オレもおまえは夏希って呼ぶことにするから」

 すでに呼ばれている気がするのだが、本人が良いということを捻くれた考えで突っぱねるのも癪だ。ここはお言葉に甘えることにする。

「じゃあ、洸。何か用?」

「用って言うか、そっちは神奈備だ。修行を受けていない人間が立ち入っては行けない場所なんだよ」

「かんな、び?」

「神体山の総称。高原神社は元は山の中腹にあったんだが、開拓と同時に村人達が山下し、本殿を残し神社ごと村全体を引っ越したんだよ」

「神社を引っ越しって、罰当たらない?」

「当たらない。神社の引っ越しは結構あるんだ、火事や震災で建物を再建する際、ほんの少し場所を移動させるってね。まあ、ここは震災とかでの移動じゃなく村人達の私欲的な目的での移動だったから、こういった祭事ではより一層力を入れて取り組み、神さまのご機嫌取りをするんだ」

「へぇ」

 道理で、普通の神社の祭事にしては大掛かりなものだと思った。夏希がいた世界での祭事は、神社関係者と夏希の家族だけで準備し、まるで七五三のようなこじんまりとしたものだった。

「飯を食う場所探してるんなら、別の場所に行けよ。くれぐれも山道には入るな。・・・今度は助けられないからな」

 言葉尻が小さくなり、聞き難かったが、夏希は踵を返して走って行ってしまいそうな洸の手首を咄嗟に掴んだ。

「待って! 聞きたいことがあるの!」

 腕を引かれ、洸は立ち止まるが振り返りはしない。それでも手を振り払わないだけ聞く耳があると言うことだ。夏希は高鳴る心臓を押さえつけた。

「二日前のあの夜、洸が助けてくれたんだよね?」

「・・・ああ」

「なんで?」

「は?」

「助ける理由なんてなかったのに、なんで助けたの? それに、なんであれ以来、普通に接してくれるようになったの?」

 ここ二日間、ずっと考えていたことだ。助けた理由は司に言われてのことだと思うが、内心はどうだったのだろう。嫌々やったのだとしたら、今まで以上に冷たく足払われても良いはずだ。洸が何を考えているのか知りたい。

 夏希の眼差しに、洸はバツの悪そうな顔をして頭部を撫でた。

「・・・罪滅ぼしだ」

「罪滅ぼし?」

「おまえの言う通り、初対面の人間を傷付けるような恥知らずをしたのはオレだ。けど、その後のお前の対応にはどうにも腹が据えかねてな。謝りたくないが敵意を向けるのは間違っていると結論付けたから、知り合いとして接することにしたんだよ」

同じだ。

洸も夏希と全く同じ理由だったことに驚いた。最初は人の話しをロクに聞かない高慢野郎と思っていたが、話せば理解のある男だったらしい。

(なんだろう、なんか身体がムズムズする)

 誤解が解けるって、こんなに嬉しいことだったのか。夏希は、にへらと顔を緩めた。

「私も同じだ、謝らないけど喧嘩はしたくなかったからさ」

 洸はキョトンとした顔になった後、クハッと吹き出した。

「なんだよそれ。・・・もし飯食うつもりなら一緒に食うか?」

「いいの?」

「ああ、オレも休憩中だからさ。1人で食いたいって思ってたんだけど、もう少しおまえの事を知っておこうと思ってさ」

「うん! 私も洸やこの世界のことを知りたかったんだ。教えてよ!」

「お互いにな」

 笑い合い、夏希は洸に連れられ山道の道を素通りした。少しばかり、気になったが今は洸の後を追い掛ける方が大事だ。



ようやくここまで来ました。第4章で、色々な事が分かってきます。1番力を入れた章なので読んでくれると嬉しいです!

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