死せる配達人アステウスと魅せる解体人シリウス
「えーっと、次はパンプキンの家か。なるほど、この魂はジャック・オ・ランタンね。好きだねえ彼女も」
アステウスの職業は配達人。魂を振り分け、届けるのが仕事です。
「ご苦労さん。カボチャパイ食べる?」
かぼちゃ頭のパンプキンは魂を受け取り、笑顔で問いかけます。
「嬉しい申し出だが、まだちょいと配達が残ってるんだ」
アステウスは袋に詰め込んだ魂を見せました。魂はうようよと蠢いています。
「そう言うと思って、風呂敷に包んでおいたよ。後でお食べ」
「お? そいつはありがたい。いただくとするよ」
風呂敷を背負い、アステウスは羽ばたきました。パンプキンはバイバイと手を振っています。
「お次はパペットの家か。魂は……ハシビロコウ。ちょいとマニアックすぎないかい?」
アステウスはなぜだろうと思いましたが、考えても分からなかったので思考を放棄しました。
「おお、アステウスかよく来たの」
「ハシビロコウの魂なんて何に使うんだい爺さん?」
「うむ。よくぞ聞いてくれた。わしが作った人形に入れて遊ぶんじゃよ」
「……ハシビロコウは動かない鳥だぜ」
「そんなことは知っておる。わしは動かないものを観察するのが好きなんじゃ」
「そうかい」
アステウスは魂を入れなくても良いのではと思いましたが、口にはしませんでした。
「じゃあの」
「あぁ、くたばるなよ爺さん」
「わしゃ、あと百年は生きるわい」
「ははっ」
すべての魂の配達を終え、アステウスは家に帰りました。パンプキンから貰ったカボチャパイはまだ残っています。
「ただいま」
「あぁ、アステウス。おかえり。待っていたよ」
キッチンからひょこりと顔を覗かせたのは、一緒に住んでいるシリウスです。彼女は小柄で白い髪をしているため、体が弱いと思われることが多いのですが、実はアステウスよりも力持ちです。
「パンプキンからカボチャパイを貰ったんだ。一緒に食べようぜ」
そうです。アステウスはシリウスと一緒に食べたくて、空腹を我慢してでもカボチャパイには手を出しませんでした。彼は彼女が大好きで仕方がないのです。
「おぉ、パンプキンさんのカボチャパイか。お礼を言わないといけないね」
シリウスは目を閉じ、鼻をくんくんとさせ、カボチャパイの匂いを嗅いでいます。アステウスは抱きしめたい衝動に駆られました。
「アステウス、カボチャパイもいいけど、その前に私の料理を食べて欲しい」
目を開けたシリウスはキッチンから料理を運んできました。魂の塩漬けに魂の親子丼、魂の刺身とアステウスの好物ばかりです。
「もぐもぐ。シリウスの料理はうまいなぁ」
「アステウスのために練習したからね。おいしくないと困る」
シリウスは頬を赤らめ、照れくさそうに笑いました。
彼女の職業は解体人。負の感情を持つ魂を解体するのが仕事です。魂を切る能力を活かし、料理人としても活動していました。その料理の腕は一級品です。
「シリウスの手料理を毎日食えるとは、俺は世界で一番幸せな男だ」
アステウスは味を噛み締め、歓喜に打ちひしがれています。シリウスも嬉しそうです。
「私も幸せだよ。アステウスと一緒だからね」
二人はしばし見つめ合いました。数十秒にも満たない時間、しかし二人にとっては永遠にも等しい瞬間です。
「ごちそうさん」
アステウスはシリウスと一緒にキッチンに行きました。風呂敷からカボチャパイを取り出し、皿の上に載せていきます。
シリウスは二人分のカップを用意し、紅茶を淹れました。
「さぁ、パンプキンさんのカボチャパイを食べようか」
アステウスとシリウスは仲良くカボチャパイを食べていきます。その絶品さに二人の頬は落ちそうなほど緩んでいました。
「さすがパンプキン。カボチャパイ作りは天下一品だ」
アステウスはくるくると踊り、全身で感動を表現していました。
「こんなにおいしいカボチャパイは食べたことがないよ。これはぜひとも作り方を教えてもらいたいものだね」
シリウスはお菓子作りが大好きなため、レシピに興味津々です。今すぐにでもパンプキンの家を訪ねたいくらい体がうずいていました。
「あれ? なんだこの紙」
アステウスが一枚の紙を手に取ります。カボチャパイを包んでいた風呂敷に入っていました。
「なんだろうね?」
シリウスが紙を受け取り、目を通します。
「パンプキンさんは侮れない人だね」
シリウスは目を見開いて、驚いていました。気になったアステウスが、紙を覗き込みます。
「こりゃすごい」
紙にはカボチャパイのレシピが詳細に記されていました。
「あら、いらっしゃい。来ると思っていたよ」
パンプキンはニッコリと笑っています。シリウスは照れくさそうにしながら、パンプキンの家に上がりました。
「パンプキンさん、おいしいカボチャパイ、ありがとうございました。これお礼です。カボチャパイには及びませんけど」
シリウスは手作りのデザートを渡しました。
「お礼を言いに来ただけじゃないんだろう?」
パンプキンはどこか訳知り顔です。
「レシピどおりに作ってみたんですけど、うまくいかなくて」
シリウスはコツを聞くためにやってきたのでした。ふんふんと頷いたパンプキンは、シリウスの耳にそっと口を近づけます。
「コツは簡単さ。ありったけの愛情を込めれば、アステウスの胃袋は掴めるよ。まぁ、とっくに掴んでるだろうけど」
シリウスの頬が、ボンッと真っ赤に染まります。パンプキンは豪快に笑いました。
「はっくしょん、誰か噂でもしてるのかね」
アステウスはずずっと鼻をすすり、今日も元気に飛び立ちました。