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願いを叶える魔神像

 昔々あるところに、村中の人から嫌われているわがまま坊やがいました。人の家に勝手に入っては荒らし回ったり、他人のものを盗んでは壊したり、イタズラをしては人を困らせたりと、村中の人に迷惑ばかりかけていたのです。

 村人たちがどうしようかと困り果てていたある日のこと、村に商売人がやってきました。滅多にやってこない客人に村中は大騒ぎです。どこもかしこも歌えや踊れのお祭り騒ぎで、今日ばかりは坊やもおとなしく、村人はほっとしていました。

 次の日、商売人はお礼にと『願いを叶える魔神像』を村人にプレゼントしました。たった一つだけなら、どんな願いも叶えることができるという夢のアイテムです。

 村人たちはたいそう喜びました。たった一つしか叶えられない願い。彼ら村人は話し合いの結果、大飢饉や大災害など、村に危機が訪れたときのために使おうと決めました。

 しかし忘れてはなりません。この村にはわがままな坊やがいることを。村人の話し合いなんて関係ありません。自分の夢が叶えば、村がどうなろうと知ったことではないのです。

 坊やは村人が寝静まった夜、こっそりと起き、『願いを叶える魔神像』が保管されている村長の家に忍び込みました。誰にも知られず人の家に入るのは、坊やにとっては造作もないことです。

 バレないように村のはずれにまで行き、坊やは盗んだ像を地面に置きました。叶えられる願いはたった一つ。けれどわがままな彼が一つの願いで満足できるはずもありません。

 ずっと願いを叶え続けたい。そう考えた坊やは『願いを叶える力を身につけたい』と望みました。すると像が光り始め、坊やの体に向かって一直線に解き放たれたのです。何か不思議な力が体の底から沸いてくるのを感じました。

 坊やは早速『甘いおやつがほしい』と願いました。ところが何も起こりません。おかしいなと思い、もう一度試してみました。やはり変化はありません。

 商売人が嘘をついたのかと思い憤慨していると、どこからともなく声が聞こえてきました。

『小僧。心して聞くがいい』

 坊やが辺りを見回すと、なんと魔神像が喋っているではありませんか。

『お主には我が力が宿っている。そう()()()()()()()()()が。我の代わりに人の願いを叶える魔神となるがいい。ではさらばだ』

 まるで役目は果たしたと言わんばかりに、魔神像は粉々に砕け散ってしまいました。




 それから数年間、坊やは魔神像の代わりに村人たちの願いを叶え続けました。無くし物を探してほしい、しみやしわを取ってほしい、お金持ちになりたい、片思い中のあの子に振り向いてもらいたい、豪勢な家に住みたいなど、村人たちの願いはどれも身勝手なものばかり。誰も村のために願いを叶えようとはしませんでした。

 願いに制限がなくなった途端、みんな自分の欲望をむき出しにし始めたのです。坊やは村人たちの姿にかつての自分の姿を見出しました。自分がいかに身勝手で愚かだったのか、魔神像の力を得て、坊やはようやく理解したのです。

 そうして村一番の嫌われ者でわがままだった坊やは、今では立派な聖人君子になりましたとさ。

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