表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

逆さ鬼

 少女が道を歩いていると、突然目の前に大きな壁が現れました。

「何かな?」

 つんつんと突くと「誰じゃ?」と声がしました。

「そこに誰かおるのか? ちょうど良かった。わしを助けてくれんか」

「あなたはだあれ?」

「わしは赤鬼じゃ」

 なんと大きな壁の正体は鬼でした。よくよく見ると顔が下にあり、足は天に向かって伸ばされています。どうしたことでしょう。

挿絵(By みてみん)

 不思議そうに少女が首をかしげると、鬼は困ったように口を開きました。

「実はの岩につまずいて転んで、角が地面に突き刺さって抜けなくなったのじゃ」

 鬼の言うとおり、角が地面に深々と突き刺さっていました。角の根元が見えないくらい深くまで。

「分かった。助けてあげる」

 少女は鬼の体を引っ張りました。びくともしません。何度挑戦しても鬼の体は動きませんでした。

「ごめんなさい」

「謝る必要はない。誰か大人を呼んできてはくれまいか」

「はーい」

 たったっと少女は駆けていきます。するとまた目の前に大きな壁が現れました。

「そこにいるのは誰だ?」

 またもや鬼が地面に突き刺さってました。先刻の鬼と違い、今度は青鬼です。

「私? みっちゃんって言うの」

 少女は朗らかに笑い、青鬼の体に触れました。力を込めても動きません。

「助けを呼んでくるね」

 両手をいっぱいいっぱい広げ、風のように道を駆け抜けていきます。


「おや、みっちゃんじゃないか。急いでどうしたんだい?」

 出会ったのは隣の家に住むおばさんでした。少女は事情を説明しました。

「うーん。鬼を助けるのかい? 食べられちゃうかもしれないよ」

「困ってるんだよ。助けてあげようよ」

 根負けしたおばさんは、村中の人に相談することに決めました。村人たちは話を聞いても、誰も助けに行こうとしません。そんなとき一人の若者が立ち上がりました。

「俺が助けてやる。譲ちゃん、案内してくれ」

 若者の言葉に「うん」と力強く返事をし、少女は来た道を戻っていきます。不安を隠せない長老は、三人の村人に後を追わせました。



「ここだよ」

 少女はぴたりと足を止めました。

「でけえなぁ」

 若者は驚いたように声を上げました。

「また来たのか」

 青鬼は巨体をぐらりと動かしました。

「助けに来たんだよ」

「任せな」

 若者は青鬼の体を思い切り引っ張りました。少しずつ青鬼の体が地面から競りあがっていきます。目をぱっと輝かせ、少女もお手伝い。

「うんしょ、うんしょ」

 若者と少女は息を合わせ、どんどん鬼を引っ張り上げていきます。

 すぽんと小気味良い音が辺りに響き、青鬼は姿を現しました。

「ようやく動けるぞ」

 青鬼は嬉しそうに笑いました。その姿を見て、若者と少女も顔を綻ばせました。

「お礼に……おいしく食ってやるぞ」

「えっ?」

 若者は驚く暇もなく、頭から食べられてしまいました。少女は腰が抜けて動けません。

「若い肉はうまいんだ」

 青鬼は少女の体をたやすく掴み、口の中へ放り投げました。ばりぼりと口をもぐもぐと動かし、青鬼は満足そうに笑った後、体を地面に倒しました。

「食べたら眠くなってきた」

 青鬼は寝息を立てて眠ってしまいました。その様子を見ていた三人の村人は足をもつれさせながら、村へ大急ぎで帰りました。

 事態を重く見た長老は、青鬼の始末を村人たちに命じました。村人たちは各々武器を用意し、村を出ました。


 村人たちが到着したときも、青鬼はまだ寝ていました。チャンスとばかりに村人たちは桑や斧、槍などの武器を青鬼めがけ、一斉に突き刺しました。

 青鬼はぐおおんと叫び声を上げのた打ち回り、やがて動かなくなりました。村人の一人が脈を確認すると、すでに事切れていました。

 村人たちは喚起の声を挙げ、村へと戻っていきました。

「もう一匹の鬼はどうする?」

「餓死させよう。いくら鬼でも飢餓には勝てまい」

「そうだな」

「わははは」

 村人たちは知りません。二匹の鬼のうち、悪いのは一匹だけだということを。もう一匹の鬼は心優しい鬼だということを。

 助けてくれた暁には財宝を上げようとしていたことを、村人たちは知る由もありませんでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ