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Case2、ミラーハウス

 姿身は驚くべきほど不思議な存在だ。

 ミラーという言葉が見つめるミラレという言葉から生まれたことからも確かであろう。

 卑弥呼は魏から送られた銅鏡によって女王の地位を盤石のものとし、ギリシアのナルキッソスは泉に映った自分を眺めて死んだ。

 鏡に映った自分を自分だと認める「鏡像認知能力」は高度な認知能力としてヒトやドウブツの知能を計る時に使われ、左右逆転した姿を映すことから異世界や多重世界への入り口などという逸話が生まれた。


 ヒトは、自分以外の「自分」が存在すると見せつけられた時にどう思うのだろう。

 少なくとも何人かは恐怖心を覚えるだろう。そうでなければ「ドッペルゲンガー」は怖い話として成立しない。

 もう一人の自分というものは、基本的に恐ろしいものとして扱われる。

 自分が一人ではないと証明すること。すなわち、恐怖という感情が生存本能から生まれている限り、自分を排して成り代わるかもしれない存在に対して恐怖を覚えるのは当然のことだ。特にその恐怖は、理性的な人間に対するほど顕著であるように感じる。

 それは鏡像認識能力の有無によってドウブツやヒトの知能がある程度ランク付けされるのと同じ理屈なのかもしれない。


 だが見えない場合、それは恐怖と認識されない。

 

 例えば私という人間には二面性がある。

 ひとつは現実の、研究者として冷静なわたし。

 もうひとつは電子上に存在する、暴力的で攻撃的なわたしだ。

 どちらも私だがかけ離れている。同一存在だが鏡が左右逆に映すように趣味や嗜好、言葉使いはまったく逆のものとして変化する。

 私からしてみれば、これはやはり私なのだ。しかし周囲からはどう思われるのか?

 

 わたしの実験を行う舞台として鏡の家ミラーハウスが与えられたのは当然のことだった。

 ミラーハウスに来るのは「迷路」や「恐怖」、そして「現実的なもので構成される不可思議な要素」を求める人間が多い。不安定な精神構造は、実際の趣味嗜好にも反映される。

 私はこの舞台を「逆説的スワンプマン施設」と仮称することにした。

 そして電子上の自分と現実の自分を置き換えるよう、少しばかり友人の手をかりて細工をほどこした。

 

 被験者一は大人しそうな少女であった。他者をさげずみ、陥れることで快感を覚えていた。

 被験者二と三は男女であった。どちらも「彼氏と彼女」という自分の虚栄心を満たす為に付き合っていると分かった。

 被験者四は父と子であった。父は子を邪魔な存在だと思い、子は父が邪魔な存在であると思っていた。

 被験者五は歳を重ねた男性であった。人を害したいと常日頃から思っていた。

 被験者六と七、それに八は反転する前に被験者五に殺害されたため除外する。

 被験者九は被験者十を性的に襲いはじめ、そこに被験者十一と十二が加わった。

 被験者十三は普通だった。普通に入り、全てを見ておきながら何も見ていないと装って出て行った。

 被験者十四、十五――……。

 被験者の数が二十を超えた頃、放送が鳴った。

 本日のメインイベント、トロッコ実験が無事に終了をむかえたようだ。


 思考実験を「実際に行える場」である移動実験団体の話を聞いたのは数か月ほど前のことだった。

 企画した人物と会った私は、そのあまりの平凡さに驚いたがすぐに納得した。

 平凡とは平均とも言い換えられる。彼の周りにいれば、全てが素晴らしい比較対象に見えた。

 遊園地という場所は警戒心が薄れる上、老若男女が集まる。治験者を探すのにはもってこいの場所であった。


 次はどこで開催するのだろうか。その前に今日の結果をまとめ、新たな問題提起を行わなければ。

 彼に電話をしようとわたしは携帯電話を取り出す。

 もう、彼は騙された事に気づいたのだろうか。

 数度のコール音ののち、もしもしと彼は言った。



『実験結果:日本人は本音と建て前を使いわけている』






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